美味が為に、爆発す─0─
──いえ、確かに。ご実家からタオルケットを持ち帰ってきた彼女を見て、「はて、こんな暑い時期に何故?」とは思いましたよ。汗拭きタオルでもない、就寝用の寝具でしたから。
まあでも今は冷感作用の枕カバーやシーツが豊富ですし、きっとそれらの一種だろうと自分の中ですぐ落とし込んだんです。……今思えば、それが間違いだったんですよね、多分。ええ……まあ、それにしてはやけにテンション高いなぁとはちょっと、不思議に思っていたのですが。
決定的な違和感を感じたのは、それに少し近付いた時のことです。前述のこともあり、どれくらいヒンヤリするものなのかと興味が湧いて、彼女のベッドの上に畳んであったそれに手を伸ばしかけたら──
「触らないで!」
「え?」
「このタオルには指一本触れさせないわ……絶対、誰にも……! 例え私が見ていなかったとしても、触ったかどうかは匂いでわかるんだから! いいわね、來夢!」
「お、OK,OK! わかりました。すみません、まさかそこまで大事なものだとは思わず……貴女の嫌がることはしませんよ、だからそんなに睨まないでください」
「……」
と、この様に、烈火の如く怒られたんですよね。
あの天華が、たかが一枚のタオルケットを守ろうと──いえ、独り占めしようと胸に掻き抱いて、フゥフゥ息を荒くさせていました。……あの天華が、ですよ? 冷静沈着で口数の少ない普段の姿を誰より知る私からしたら、もうそれだけでかなり驚くじゃないですか。何が貴女をそこまで、と……そのタオルは一体何なんだ、と。
そうしたら、ですよ。
気付いてしまったんです、私。
その日の夜に。
「…………っだめ、これは……想像以上に……き、危険だわ……っ」
バサッと音を立てた隣のベッドから部屋の外へ走り去る気配を感じて、うつらうつらとしていただけの私はぼんやりと目を開けました。暗くてよく見えなかったものの、就寝前にあんなに大事そうに身を包めていた例のタオルケットが結局そこに置き去りにされているような気がして、怪訝に思ったのをよく覚えています。声を掛けようにも本人はもういないし、眠くてそれ以上のことは考えられなかったこともあり、私はそのまま寝返りを打ってむにゃりと目を閉じました。
(…………“危険”? 匂い……? あれ、まさか……)
──その時、唐突に、ピンと来てしまったのです。
彼女が、天華が。前日、誰と、どこで、何をしていたのか。それを、思い出してしまって。だから、つまり、あれは。あのタオルケットは───……
(もしかしたら、私……そんなことでさっきあんなに怒られたんでしょうか。……はあ、いえ、もういいです、寝ましょう。そう、私は寝ている。私は何も知らない、何も見てない、何も……気付いていない………)
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