第9話 リシェンの才能

 工房にてリシェンにスキルカードとスキルについての講義と補足説明を行った後、ボロは自身の特殊スキル【騎甲建造】をリシェンに披露する事にした。


「じゃあまず、騎甲の実物を作ってソレを教材に使って教えたる。 あの鉄屑をちょとコッチに移動させるから手伝え」


 ボロは工房の隅に置かれていた鉄屑を指差して言った。

 リシェンはボロの言う通りに鉄屑を部屋の中央に引っ張り出すのを手伝う。


 それを終えるとボロは、山の様に積み上げた鉄屑の前に立つと、大袈裟に両手を天に掲げた。


「見よ! 俺の力を!」


 そう言うと同時にまるでクレイアニメのように見る見るうちに全長5mの騎甲鎧が出来上がる。

 その造形は地球でかなり昔に流行った四角いブリキのオモチャの様な形状だった。


「これぞ俺の力、特殊スキル【騎甲建造】よ! ハハハッ、ハッ!? げっほ、げほっ!! た、タンが喉に入って蒸せた!!」


「しょうもない見栄を張るからだよ……」


 呆れてジト目でボロを見るレジ。


「は~、は~! あー、ビックリした……まあ、こんな風に素材さえあれば俺は騎甲を作れる特殊スキルを持ってんだ。 あー、ちなみに俺のスキルカードはフェカナイト。 ランクはSな。 ……あんま話、聞いてねーみてーだなあ……」


 ボロは苦笑いしながらリシェンの様子を見る。

 リシェンはボロがスキルで作り上げた生まれて初めて見る騎甲鎧に興奮して無遠慮に触りまくっていた。


「よし! 俺も!」


 リシェンは片手を前方に向け、瞼を閉じ集中する。


(……【トウトマシン】、あの騎甲鎧の構造を調べて学習しろ。 それが済んだらあの騎甲鎧を再現しろ)


「ハハハ! 無理、無理! これは俺だ…か…ら……」


 【トウトマシン】はリシェンの意思に従い、ボロが特殊スキルで作り上げた騎甲鎧を解析。

 その設計構造をもとに今度はマナを材料に使ってボロと同じ騎甲鎧を再現する。


 リシェンの前に灰紫色のマナの粒子が発生。

 それが集まり見る見るうちにボロと同じ騎甲鎧を造り上げて見せた。


 その光景にボロとレジは眼と顎を大きく開き、驚愕する。


「出来ました!」


「ファッ!? 何で!? しかも、何もない状態から俺と同じ騎甲鎧を……これが【トウトマシン】とかいうやつの力かぁ……」


「ビックリだね……。 まさか、ここまでとは……」

 

(まさか、俺以上の能力者がいるとは……驚いたぞ! これでますますの復元に期待が持てる!)


 ボロは心の中でほくそ笑む。


「乗ってみますね!」


 リシェンは早速、特殊スキル【トウトマシン】によって自ら生み出した騎甲鎧に乗り込み操縦桿を軽く動かしたりフットペダルを踏んだりする。


 しかし、騎甲鎧はうんともすんとも動かない。


「……師匠! 動きません!」


「何ぃ! どれどれ……」


 ボロはリシェンの乗っている操縦席に頭を突っ込んで”ん~”とか”あ~”とか言いながら操縦席周りをゴソゴソといじりりながら中を調べる。


「ちょっと待て……。 おい、これ燃料ないぞぉ?」


「燃料って、何ですか?」


 首を傾げるリシェン。


「カーッ! 知らんのかい! いいかぁ、燃料言うんは騎甲を動かすのに必要なもんだぁ! 魔獣や淫獣、悪獣が持っとる魔石ちゅうモンをアルコールに溶かして作ったもんよぉ。 他にも騎甲の動力源になるモンはあるが、コレが一番手に入りやすくて安い。 機甲鎧なら100mlの量で大体一時間は持つ。 ほれ、これがそうだぁ」


 中に赤い液体が入った瓶を見せられる。


「コレをここにこうしてセットして……これで普通の騎甲なら動くんだが……おっ、動いた!」


「動かしていいですか!」


 リシェンは早速、操縦桿を握り締め動かそうとするが、それをボロが慌てて制止する。


「待て待て! 工房ン中で動かしたら家が壊れてレジにドヤサれる! レジが先ず外に出すから、それから動かし方教えたる! レジ、頼む!」


 ボロはレジに言いながら騎甲鎧から降りると工房と外に繋がる大扉を開け放つ。


「はいよ。 やれやれ……やっと私の出番か」


 レジはリシェンと交代して操縦席に収まる。


「じゃあ、動かすよ! ほらほら! リシェン、危ないから離れな!」


 レジは胸部装甲のキャノピーを開放したまま周りの安全を確認すると騎甲鎧を起動してゆっくりとした足取りで騎甲鎧を歩かせる。 


 騎甲鎧を屋外に出すとリシェンを呼び寄せ、騎甲鎧の起動や動かし方、注意事項を説明する。

 それが終わると騎甲鎧を停止させ再びリシェンと席を交代した。


「それじゃあ、起動して動かしてみな! まずはゆっくり歩かせて!」


「分かりました!」


 リシェンは操縦席に収まると胸部装甲のキャノピーを閉じ、操縦桿を握り締め、先程レジから聞いた説明通りに起動し、フットペダルを軽く動かす。

 すると騎甲鎧は正しくリシェンの操作に合わせて動き出す。


(うわ~、凄い! コイツ、思う通りに動くぞ!)


「歩くのは慣れたみたいね。 じゃあ今度は軽く走らせてみな。 ただし! 無茶して家に突っ込むんじゃないよ!」


『はい!』





 ――数時間後


 リシェンが操る騎甲鎧が縦横無尽に駆け回る。


『うおーーーーーーっ!! スッゲエェェェーーー!!』


 あれからリシェンは僅かな時間で騎甲鎧の操作に習熟し完全にモノにした。


「お前……騎甲鎧、初めて、だよな?」


『はい! 初めてです!』


「さすが騎甲のギフト持ちだぁ! 一発で完璧に動かしよった!」


「これで明日から本格的に訓練に入れるわ! 楽しみね!」


 感嘆するボロと満面の笑みで喜ぶレジであった。

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