第2話 成人式とスキルカード
レイニィと一緒にいる方法が思いつかず、とうとう成人式の日が来てしまった。
地球の日本と違い、正装ではなく普段着での参加。
生活にゆとりの少ない一般市民には、上等な服を仕立てる余裕などない。
特に農村部の人間は低賃金の野良仕事が主体。
税金を納めれば現金はほとんど無くなる。
こんな状態では貯蓄など出来るはずもない。
そのため、裕福な商人や王侯貴族でもなければそれで十分なのだ。
そして今日の成人式のために教会が無い周辺の小さな集落から少年少女達がこのティカ村の教会に集まっていた。
「結局、いい案が思い浮かばなかった……」
やがて時間となり儀式用の神官服を着たレイニィが教壇に現れる。
普段の作業用で灰色の神官服ではなく、正装である立派な白い神官服の衣装に身を包んだレイニィに見惚れるリシェン。
(綺麗だ……)
「皆、レイニィに見惚れてるね。 まあ、あの美貌だから仕方ないけど」
集団の中、リシェンの隣りにいたウィロがニヤニヤしながらリシェンに話し掛ける。
「な、何だよウィロ……」
「で? いつレイニィに告白するのさ」
「ブーーーッ!? な、何で!?」
「そりゃあ、僕は君の親友だからね。 君を見てればすぐに分かるよ」
そう、リシェンはレイニィに告白する気でいたのだ。
ただし、レイニィが自分の気持と申し出を受け入れてくれるとは限らない。
その事が堪らなく不安で、今まで告白出来ずにいた。
「そ、そんな事より、説明を聞こうよ!」
リシェンはウィロに心の内が読まれている恥ずかしさから話を逸らした。
「この世界では大人になれば、誰でもその身にスキルカードが宿ります。 スキルカードとは、体の中で心と魂の欠片が結晶化し、鉱石や金属などに性質を変えて出来上がるカードの事です。 スキルカードはその種類でランクが変わります。 ここまでは皆さん、人から伝え聞いていると思います。 それでは実際にスキルカードを取り出す方法を教えましょう」
レイニィは両目を閉じ、両手の手の平を重ねて自身の胸の中心に当てる。
「このようにして神に祈りを捧げて下さい。 そうすれば神はその祈りに答えて、スキルカードを授けてくれるでしょう。 しかし、ランクが低いからと言って気に病む事はありません。 精進すればスキルカードの種類は変わり、ランクも上がります」
(実際には祈りじゃなくて集中すればいいだけらしいけど。 それらしい事言ってれば信者が増えて、その寄進で神殿や教会が潤うってウィロが言ってたな)
現実には、こんな田舎で教会の信者が増えても、寄進は野菜などの現物支給がほとんどで現金収入は少ない。
(それに後でスキルカードの種類が変わるって言うけど、心が成長したり、魂の格が上がるとか、かなり難しい条件だって、レイニィの話だし……)
リシェンは古くなった教会の天井を見上げる。
(せめて、俺のスキルカードがアイアン以上で、お金儲けに有用なスキルがあれば、レイニィに楽させてあげられるのに……)
スキルカードのランクは15段階あり、その中でもアイアンの取得率は高い方で、ある程度の魔法も使える。
取得率一番はストーンで、こちらは技能系と呼ばれるスキルしか扱えない。
ランクも”I”で一番下。
ちなみに、レイニィのスキルカードの種類はクリスタル。
ランクはDで、中の下だ。
「くっそー! ストーンかよ!」
「あ~あ、ストーンかぁ……」
「やった! アイアンだわ!」
「良かった~、カッパーだ」
そこかしこから悲喜交々の声が聞こえる。
リシェンも自分のスキルカードを手にすべく、レイニィと同じようにして集中した。
「えっ!?」
「キャッ!?」
「なっ、なんだ!?」
すると胸の中心が熱くなり、すさまじい七色の光りを発しながら体の中から何かが出て来た。
しばらくすると光は徐々に集束、やがて消えて一枚のカードがリシェンの手の平に収まっていた。
「な、なに今のっ!?」
「凄い光だったね」
「あの子からだよ……」
突然の異常事態にレイニィや周りから驚きの声が上がる。
「リ、リシェンッ!? 大丈夫かい!!」
「ん? どうかした、ウィロ?」
ウィロが心配して話し掛けるが、リシェンは不思議そうに首を傾げた。
「”どうかした?”だって! リシェン、今すごく光ってたよ!」
「え? 皆もスキルカード出す時、光ってたよ?」
リシェンの言う通り、ウィロや周りの者がスキルカードを体内から出現させる時、白く光っていた。
だがそれは灯火程度の光で、リシェンのようにこの場を満たすような光量ではなかった。
「いやいや! リシェンの場合、眩しくて目が開けられないくらい光ってたよ!」
「リシェン! 大丈夫!」
心配したレイニィが教壇から人を掻き分けてリシェンの下に駆けつけて来る。
「う、うん。 何とも無いよ……」
「そ、そう……それなら良かった……。 リシェンのスキルカードは何が出たの?」
レイニィに言われて自分の手の平にあるものを見た。
それは七色のスキルカードだった。
「七色? オパール? ……違うわね。 何かしら?」
レイニィは”はっ!”となってリシェンの異常に自分が取り乱していた事に気が付く。
「いけないわね。 神官たるもの冷静でいなくちゃいけないのに。 リシェンは大丈夫そうだから私は戻るわね」
そう言うとレイニィは教壇に戻っていった。
「皆さん静粛に。 スキルカードを出す時に強く光る人が居て、ちょっと驚いたでしょうけど、何も問題ありません」
この場の責任者であるレイニィが安全宣言すると皆安心した。
「では続きを説明しますね。 スキルカードには、あなた方の名前と年齢、所持するスキルカードの種類、個人が今使えるスキルとその説明文が刻まれています。 今はまだ刻まれていないスキルでも、適正があって努力すれば、いずれスキルが刻まれ、身に付ける事が出来るでしょう。 スキルカードに念じれば、そのカードに刻まれているスキルと説明、自分の適性を知る事が出来ます。 スキルカードの内容は基本的に本人しか知る事が出来ません。 しかし、特殊スキルや特別な道具を使えば、他人のスキルカードの内容を見る事が出来ますので気を付けて下さい。 それから、自分の名前は本名以外にアダ名も刻まれますから、変なアダ名が付かないよう注意して下さいね」
レイニィがニコリと微笑みながらそう言うと、周りからクスクスという笑い声が漏れる。
それに合わせて俯く者達が数人。
どうやら俯いた者達には心当たりがあるようだ。
「あと、スキルカードは身分証を作るのにも必要です。 スキルカードを提示しないと身分証発行機が使えません」
身分証発行機というの大きな自治体や組織(犯罪組織を除く)、国などの公的機関が管理・運営しているシステム端末の事。
厳重に守られた場所に設置された情報記録装置と身分証発行機などの端末とで情報を相互にやり取りする仕組みだ。
使用されている端末などの道具には地球のお伽噺や物語に出てくる架空の技術――魔法が使われており、魔法技術が使用されている道具の事を総称して”魔道具”と呼ぶ。
「最後に。 スキルカードはアイテムストレージ機能があり、念じれば持ち物の出し入れが出来ます。 容量はスキルカードの種類とランクによって変わります。 また、スキルカードも同様に念じれば、体の中からいつでも簡単に出し入れ出来ますよ」
(それにしてもスキルカードが無事に出てくれて良かった。 コレが無いとこの世界じゃあ何も出来ないからなあ。 でも、俺のスキルカード……何で出来てんだろ?)
リシェンは説明を聞き終えると、早速レイニィの説明通りスキルカードの内容が読めるよう念じてみる。
スキルカード アダマス(虹色鋼)
スキル適正:技能スキル、特殊スキル(1)、加護スキル、ギフトスキル
取得スキル
技能 【一般教養(
【語学(ファーレシア)】
【家事】
【育児】
【農耕】
【畜産】
【ハーブ知識・栽培】
特殊 【トウトマシン】(1)
ギフト 技工神クウ【匠の神業】
愛とマナの女神オフィーリア【庇護の愛寵】
「アダマス? トウトマシン? 何だこれ? サッパリ意味が分からない……」
(それよりも問題なのは……)
ガ~ン!
「魔法の適正がない!」
「いきなり大声出してどうしたんだい?」
「ウィロ~。 俺、魔法適性がないんだよ~」
リシェンは情けない声を出してウィロに訴える。
「えっ!? 何か凄そうなスキルカードが出たのに?」
「ウィロは何が出た?」
「僕はムーアカイトってのが出たよ。 多分、ランクはEくらい。 魔法と使役のスキル適性があってスキルも【害虫駆除】【状態回復(植物)】の魔法スキルや【生育制御】の使役スキルがあったんだ」
「それって凄く良いじゃないか!」
「うん! これで畑仕事が大分楽になるよ!」
農業では農作物に付く害虫や病気は天敵だ。
【害虫駆除】【状態回復(植物)】があればそれが予防出来る。
加えて【生育制御】で植物の成長具合を制御できれば邪魔な雑草の成長を阻害して土中の養分を確保したり、嵐や台風などの自然災害が来る前に作物の収穫時期を早める事が可能だ。
この三つのスキルがあれば農作物の収穫量もかなり安定する。
農家に取ってはありがたいスキルだ。
「俺のはアダマスって言うスキルカードだった。 だけど……くそ~! 技能スキルの他は、特殊スキルが一個とギフトスキルとか言うのが二個あるだけだ……」
「特殊!? 特殊があるの!? それに――」
他人には聞かれてはマズイ事があるのか、ウィロは途中から急に小声になる。
「ギフトスキルを二個も!? それ、凄いよ!!」
「何がそんなに凄いんだよ?」
「だって、特殊スキルは常識じゃあ考えられない強い能力を秘めているんだ。 その代り、技能スキルや魔法スキル、具現スキルと違って身に付けられる数に制限があるんだけど。 ……確か変質、体質、使役の三種類のスキルも数に制限があったはず」
「特殊スキルの後ろに(1)ってのがあるけど、もしかしてコレが?」
「うん、それだよ。 大抵は一つでたまに運がいい人は二つ三つ持っている人もいるらしいよ。 ただし、変質・体質・使役・特殊の四種類のスキルは扱える数が多くなると自分が持っている全スキルの能力も弱体化するって話しだから。 どちらがいいかは持つ人次第だね。 ところで、その特殊スキルってどんなの?」
「【トウトマシン】て言うんだけど、ちょっと良く分かんないからスキルカードの説明見てみる」
リシェンは念じてスキルカードにある【トウトマシン】の説明文を読む。
”マナ由来の摩訶不思議な素粒子よりも小さい超極微小のロボット。 マナを吸収する事で増殖し、万物を記録・解析・学習する機能を基にマナを材料にして物質を制御・構築・再現が可能で物質に魔法処理を施す能力も有する。 他、万物や余剰なトウトマシンをマナに分解、マナをレイラインに還元する事も可能”
「……サッパリ意味が分からない」
リシェンはとりあえず説明文そのままウィロに話した。
「???……僕もサッパリ分からないよ。 そもそもロボットって何なの?」
「騎甲鎧や魔法スキルのゴーレムみたいなものだよ」
「ああ、なるほど」
「それとさっき言ったギフトスキルと加護スキルは、神様がよっぽど気に入った相手か自分に物凄く貢献してくれた相手にしか与ないスキルなんだ。 このスキルがあるとスキルの弱体化が無くなり、与えてくれた神様の強さによっては老いもなくなるって。 それに、ギフトスキルを持ってるって事は、神様の力を与えらたって意味だからね。 それだけに滅多に持っている人がいない珍しいスキルでもあるんだよ。 もし持ってたら、教会や神殿から人間世界で生きる神様――
「二人共、話の途中で申し訳ないんだけど」
小声でギフトスキルについて夢中になって話し込んでいたリシェンとウィロにレイニィが苦笑しながら話し掛ける。
いつの間にか周囲には三人以外誰も居なかった。
「皆、収穫祭のお祭りに行ったわよ。 私達も行きましょう」
レイニィに促され、リシェンとウィロは収穫祭が行われる村の広場に向かった。
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