変わってしまった貴方

「よお……ひさしぶり!」


「………………」


 待ち合わせの駅の構内で声をかける。 白音は昔と全く変わっていなかった。


 付き合っていたときは可愛らしく思えた化粧の仕方は少し野暮ったく見え、服装もポイントがずれているのも今ではわかる。


「……おい、どうした?俺だよ」


 お偉いさん周りで覚えた人懐っこい笑顔で近づく。


やっとそこで彼女は俺ということに気づいてくれた。


「あっ……友和さんだったんですか、気づかなかったですよ~」


 気づいてくれたのか、引けていた腰を戻して明るく笑ってくれた。


「……そ、そんなに……変わったかな?」


 なんともなしに褒められたようで少し気恥ずかしい。


「はい!ずいぶんと垢抜けたんですね~、気づかなかったです!」


「白音は変わらないな~、すぐにわかったよ」


 実際に白音は変わっていなかった。


 一年ぶりに交わされた会話の内容も大して変化もなく、むしろこちらの方が拍子抜けしてしまうほどに……。


「電車の乗り継ぎは迷わなかったか?」


「迷いましたよ~!電車が数分で来るからどれに乗ればいいかわからないし、人が多すぎてもみくちゃにされるし~、今日は祭りでもあるのかなとか思いました」


 かつての俺がそうであったように地元とは桁違いのスケールを体験して少し興奮しているようだ。


「俺も住み始めたときには散々だったよ……新宿駅や渋谷駅なんか凄いぞ?駅の構内で道に迷うんだぜ?初めて言ったときは二時間も早く家を出たのに、危うく大学に遅刻しそうになったよ」


「ふえ~、そうなんですか?私……大丈夫なのかな?心配になってきました」


 唯一スケールのでかい胸に手を当てて気の小さい白音は気後れしている。


「大丈夫だろ……俺がついてるんだぞ?」


 そう言って彼女の背中をぽんと押してやる。 

「……そ、そうですね……これからよろしくお願いします」


 路上の真ん中でペコリと頭を下げる彼女の仕草に苦笑が出てしまいそうになった。


 だが昔の知り合いが変わっていないことを見るのはなんだか嬉しい。


「こちらこそ……よろしくな」


 そんな思いなんておくびにも出さず、慣れた仕草で俺は白音に握手を求める。 


 彼女も少し戸惑ったように右手を差し出してくれる。


 沢山の人々が住む、この街で一年ぶりに出会えたかつて恋人同士であった俺達は固く手を握りあっていた。 


 

 その数週間後、白根からのメールにより大学に合格したと報告を受ける。


 親しい人間が一また人増えることにその時は俺も喜んだがすぐにいつもの『都会生活』に埋もれそのことを頭の隅に追いやってしまい、彼女が上京して……いや上京して少し経つまではその意味と自身の間抜けさに気づかないで過ごしていた。


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