第2話「彼女と一緒に交渉する」

彼女と異世界に行ったけど、相変わらず彼女が強い


拝啓、お父さんお母さん。

異世界にきて早々に現地人から勝負を持ち込まれる物騒な事になりました。

ほら、私の彼女が怒ってる。

追伸、怒ってる彼女もかわいい。


現実逃避はここまで。

鎧の人たちも。魔女も。そして私の彼女も唖然としている。ここで思考を動かしているのは甲冑の人と私だけだ。あ、魔女の人が騒いでいる。罵倒する声が聞こえるが甲冑の人は全て無視している。すごい。

しかし、なぜこのタイミングなのだろうか


「……うん。ちょっと意味がわからない。私とはーちゃんを街に案内してからじゃダメなの?」


イラついた彼女の質問に甲冑は気にもせず答える。


「君達が街に危害を及ぼす存在かどうか確かめる、と言うのが建前だ」


建前、建前か。つまり本音がある。多分この人は戦闘狂、ではなく純粋に腕試しがしたいんだろう。しかし、かなしいかな。もちろん私の彼女にそんなことがわかるはずもなく。


「……ダメだ、はーちゃん。排除するよ。会話が成り立たない」


はい、落ち着いて。建前と言ったからには本音がある。それを聞いてからでも遅くはないよ

まぁ、その本音が私の予想通りなら面倒なんだけど、と考えながら彼女の頭を撫でて諭す。


「君達がデリグリズリーを倒した実力を見込んで、私が戦いたいだけだ。デリグリズリーの単独討伐は、まだ聞いたことがないのでね。私もあの街限定とはいえギルドの戦歴トップクラスだ。矜持がある」


あー、予想が当たった。冗談抜きで不味い。

不味い点が2つ。

一つ目、私の彼女は、私といる時間を正確に測れる。逆に言うと、邪魔された時間も計測してる。今既にこの人達が入って来てから多分3分は経過してる。5分過ぎると手がつけられない。

だから応急措置として頭を撫でながら背後から抱きしめる。これで少しは大丈夫。

顔緩んでるよ、やめる?


「……はーちゃんが面倒じゃないなら続けて欲しい」


了承

もう一つの不味い点は、この勝負は再度申し込まれる可能性が高い。あの人は単独討伐と言った。つまり誰が倒したかわかっているのだ。彼女の負担になるようなことは避けたいし、2回以上やられると、流石の私も面倒くさい。

なので交渉しよう


「……勝負はいい。その前に、勝敗の決め方と取り分、それから契約内容?を決める。それなら一対一で戦ってあげる。不本意だけど」

「ふむ。ではまず勝敗の決め方だが、1分経過、もしくは何方かが地面に背がつく、でどうだろう」


彼女がこちらを見る。

うん、悪くない。ちょっと不利だけど大丈夫?


「へーきだよ、はーちゃん。1分もかけないから」


怪我しないでね、相手は全身装甲だから、尚更だよ。じゃあ次、取り分と契約内容

これは単純に、私達に絡むと面倒だぞ、と思わせるのが最適だ。


「あぁ、その前に懸賞金について。まずデリグリズリー討伐だが、君達はこの世界の物価がわかるか?」


自ら説明してくれるのか、有り難い。なるべく手短にしていただければなお良しである。


「……簡単に話して」

「……クルセ」

「なんであなたは説明をいつも私に投げるんですか!」


あの甲冑、全説明を魔女の人に投げたぞ。嘘だろ。魔女の人も慣れているのか諦めているのかわからないけど、でも説明してくれるらしい。いい人だ。


「……わかりました。単純計算になりますが、だいたい三十代の炭鉱夫のリーダーが五年働いた賃金に相当します。炭鉱夫のリーダーは一年半働けば一等地に巨大な家が構える事ができる、という説明でよろしいでしょうか?これを我々と貴方達できっちり二等分しようと思います」


割と大きな金額だ、そんな懸賞金がつけられていたのかあの熊。

それで、懸賞金の振り分け方も、とても太っ腹な対応だ。こっちからすると精々3割くらいかなと思っていたが、これでいいらしい。鎧の人たちも頷いている。魔女の人が説明を続ける、甲冑の人は勝負のこと以外はてんで駄目らしい。黙って聞いている。


「ついで契約内容ですが、アイゼと勝負をすることで、私達があなた達の護衛につきます。期間は5日。流石に人道に外れたことは出来ませんが、この辺りはまた相談しましょう。どうでしょうか」


これは破格だ。向こう側が損しているようにしか見えない。なにせ私達はこの世界については何も知らない。その案内役が5日もいるのは有り難い。ここで引いてもいいくらいだ。

でもダメ、勝敗後の契約を決めなければ


「うん。………わかった、いいよ。最後にこちらが勝った後の契約。もし私が勝ったら、護衛の契約を伸ばしてもらう」

「……、……え?あ、えっと?それでいいんですか?」


魔女さんは困惑している、あまりよく飲み込めてないんだろう。対して甲冑の人。少し動いた。あれはどう思っているのか。面白いと思っているのか、こちらの裏事情を読んでいるのか。損得勘定は苦手なのに、こういうのはわかるのか。野生の勘かな

負けた時は懸賞金を半分返すということで


「……はーちゃんは私が負けると思っているの?」


いいえまったく。契約は互いが得をする内容で初めて成立するから。私達が出せる手札はこれしかないからだよ

事実を述べる。私は彼女があれに負けるとはまったく思っていない。


「えへへ……」

「その条件でいいんだな?まぁ、私はこの勝負自体が報酬みたいなものだから何もいらない。じゃあガルナさん、合図を任せていいですか?」


鎧のリーダーが首を縦に降る。甲冑の人が構えて、そしてこの世界が地球じゃないことを再認識される。

虚空から、木刀出てきた。

なんでもありですか、収納魔法か創造魔法みたいなのがあるのか。

名残惜しいが彼女から離れる、空気が変わる。


「そちらは武器を持ってないようだが……?」

「あ?いらないよ、この熊倒した時もこの状態だったし。私の手を汚して戦ってやる。……何秒がいい?はーちゃん」


貴女が無事なら何秒でも

相手を見る、あれは大剣に分類するものでしょう。それを片手で持っている。自信の表れだ、故にわかる。

あれは、舐めてないけど油断している。

互いに距離は約5メートル。接敵に少し時間がかかるだろう。そう考えている。

予想は10秒。


「それでは。……勝負、はじめ!」


音がなる。

ついで接敵。距離は詰められた。甲冑が後ろに引く。遅い。

掌底。大剣が上に弾かれる。体制が崩れる。後ろ向き。

前進。体格差を利用して相手の脚を掬い、押し倒す。

踏ん張りは効かない。そのまま後ろに倒れて。

勝利条件を満たした彼女がいた。


飛んでこちらに帰ってくる彼女。嬉しそうだ。

何秒?


「ざっと3.7秒!どう?よく出来た?うまく出来た?」


うん、かっこよかったよ。手とか怪我してない?

頭を撫でながら聞くと、強い返事が返ってくる。うん、大丈夫だ。相変わらずかわいいのに、こういう時はカッコいいんだ、私の彼女。

撫でながら周囲の状況を観察する。

鎧の二人組は唖然としている。自分の街の最強格をモノの数秒で勝利してしまったのだから当然か。

対して甲冑と魔女の人、あちらは意気消沈というわけでもなさそうだ。恐らくは油断が見えたのか、はたまた。

あ、魔女の人がこっちにくる。


「戦ってくれてありがとうございます、変な話になりますがいい薬になったと思います。一息ついたら、街に案内しますね」


相棒を倒したはずなのにお礼を言われた。やはりバトルマニアだったか。

そんなことはともかく、街に行くことができるようになった。宿とれるといいなぁ。

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