第31話

リューシュンという私の呼び名。


これも上司と考えた。

上司は私の選択を止めはしたが、私の意思は尊重してくれていた。

なので、入念な打ち合わせを何度も何度もしてきたのだ。

父はきっとこう返すだろう。驚いた顔はどんなだろうか。

それは、ひどく楽しいものだった。


あかり。

両親がつけてくれた愛しい名前。


とはいえ、そのままではやはり使えない。



未来っぽい、現実離れした方がいいよなと海外の言葉を使うことにした。



母はスペインがお気に入りだったようで、景色や建物が素晴らしいだとか、食べ物が美味しいだとか言っていたことがある。


まあ、あまりおもしろい話ではないのでざっと話すが、つまりはスペイン語で「あかり(光などを意味する)=ルス(luz)」なのだ。


そして、幼い頃私はサシスセソとラリルレロがうまく言えなかった。


看護師さんはカンゴシュシャン、徹子の部屋の音楽をリューリュリューと歌いよく笑われた。


なかなか安易だが、きっとバレることもないだろうとこの名に決まった。



そして、この両親によく似た声と顔は

どこかの怪盗のように別人に変装することは2040年では容易だったので、これもバレることはない。



ただ、未来から来た孫かと言われた時には思わず母によく似た口元を隠してしまった。



そして、思い出の中の父と、母から聞いていた父を知っていた私は、その答え合わせでもしているような実物を前にニヤニヤする口元を抑えることが出来なかった。



これで父を自由にしてあげられる。



そう思っていたのに…。



まさかの展開だった。



自分に起こる不幸を知っても尚私をこの世に生み出し、育てると言うのだ。



それが自分の首を絞めることになるというのに。



母だって、私があんな状態で生まれてしまったことを悔やんでいた。

そして自分を責めていた。

私のせいで、そう思っていたのを私は知っている。


これは、母の願いでもあるはずだ。


だからこそ、父には違う未来を歩んで欲しかった。



例え私がいなくても、別の形の幸せがそこにはきっとあるはずだった。



それなのに…。



なんでよ…。


なんでわかってくれないの。




私はそんな父を見守って、支えていくことしか出来なくなった。



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