ARM
にぃつな
第1話 転校生
近未来のある大陸に機密として作られ、開催されたプロジェクトがあった。ARP(エアルプロジェクト)と呼ばれた。
素質がある10代から60代を目安に集められた。ひとつの大陸に大規模に移転する作業が行われた。家族から学校、団体と様々だが、素質があるもののみ血族関係なく集められ、ひとつの国として名も無き大陸は数年という時間であっという間に大国家へと発展した。
ARP(エアルプロジェクト)は、素質=特殊能力をもつ者たちが集めるために立ち上げた企画。その能力とは社会では発揮されにくいものからおおいに貢献できるもの、知らざれるまま生涯を終えるものまでいくつかを発掘し、将来、特化した能力者を社会を支えるとして成長させるのが目的としたものである。
数年という月日で、能力者(生み出された者)は数十人という規模に至った。能力者は移転した大陸を離れ、社会である故郷へ戻っていく。
そんなケースを行い、そして―――現在。
ARPは新たな進化を遂げていた。
AR(エアル)MMOとして。
時期は不明、六月。
ARMMOをプレイする黒髪の少年ラスタ。分厚い二の腕ほどの大きさの剣を腰に下げ、片手で柄を押さえながら、殺気の気配を探っていた。
敵の数は1、2…3。
こちらの数は把握しておらず、向こうから近づいては来ない。
(コールSOS。敵3人ほどに囲まれている。至急、救援を要請する)
耳元に人差し指を当て、軽く数かい叩く。
救援要請を出し、ラスタはこの場から退散するべく、逃げ道を探る。
(風が吹いている…西かな。けど、敵も西にひとり…いる)
吹いてくる風から臭いを探った。
かすかな香水のにおいがした。鼻を貫くかのようなキツイ臭いが喉の奥へと突き刺す。思わず咳き込むが敵から発する匂いなのか、囮なのか不明点だ。
とはいっても、このままではらちが明かない。
敵も来ないし、味方がいつ駆けつけてくるかも判断できない。ラスタは鞘から剣を抜き、一呼吸する。
(この建物を切断すれば、瓦礫と砂埃とともに脱出するチャンスが得られるかもしれない)
技名を言わず、静かに剣を振るう。
蛇のように剣が一定の範囲まで立ち止らず無造作に動き回り、柱である部分を蛇のように丸く包み、そして力を籠めると同時に柱に大きく亀裂がはいる。
敵の気配を探りつつ、攻撃がこないことを願いながら次々と柱に亀裂を作る。亀裂が入るたびに地面が揺れる。建物が揺れる。空気がビリビリと痺れがくる。
いつ崩れてもおかしくはない。
データとはいえ、崩れ去る建物を見るのは心が痛む。欠損した部分は後程復元されるものの、逃げるという理由だけで壊すのはいつやっても嫌なものだ。
ラスタが最後の柱に亀裂を入れるころ、正面から二本の小剣が飛んできた。
明らかに位置を把握し、確実にラスタに当たると確信したうえでの攻撃だった。
最後の亀裂が入れることができず、とっさに剣ではじく。小剣は地面になぎ倒されるが、数秒ともしないうちに消滅する。
「ッチ! 敵のスキルか!?」
隠れていた箇所からおおいに外へと飛び出してしまう。
袋の鼠だ。
鉄柵が一斉にラスタを覆うように地面を突き破って出現した。ラスタは飛んで逃げよと天井に向かって剣を突き立てる。
亀裂が入り、円を描くかのようにしてその場から脱出する。
上の階へ移動したラスク。
そこにはすでに三人のプレイヤーに囲まれていた。
正面の黒髪のショートヘアの女の子。まだ学生のようで地元の学生服を着ている。後方にいるのは青髪の青年。弓を構えており、こちらの動きを気にしている。
このフロアにはいないが、地下に先ほど鉄柵で閉じようとした輩がいる。ちょうど円を描き飛びだした穴から除くかのように下にフードを被った男の子がじっと見つめていた。
「囲まれたか…やばいな」
(俺のスキルじゃ、二人を倒しても下のフロアにいる男に当たらない。それに、わざわざ遠距離である弓使いが接近するというのもおかしな話だ)
後方と正面と左右に首を振り、相手の攻撃と態勢を伺いながら慎重に構える。
「さっさと降参したらどうだ?」
弓使いの男が言った。
明らかに有利な立場であるという確信を得たかのような口ぶりだ。
「おいおい、三人で囲むなんて卑怯じゃないのか?」
彼らはクスクスと鼻で笑いながら、こういった。
「チームで行動する。それが基本中の基本だろ。チームで何人叩こうがルール違反じゃねえぇ」
確かにその通りだ。
チームで行動しなかった己自身の敗退。
新しく習得したアクティブスキルを使いたいために、仲間と別々で移動し、敵に囲まれたという話だ。
「こちとら、領域に侵入されているんだ。容赦はしねぇぞ!」
領域とは、各チームが配属し拠点としている場所(エリア)のことを領域と呼んでいる。領域に侵入された場合、敵の位置を把握することができるが、数と具体的な位置までは把握することができない。
領域に侵入したプレイヤーは相手の拠点もしくは、チームを戦闘不能にすればその領域を侵入したチームプレイヤーに奪い取られるという仕組み。
領域はチームが生活するために安全地帯として組み立てられ、日常生活における食品の調達、暮らす家、働く場所など脅威がない状態で安心ができる空間として提供されている。
領域に侵入された敵はすぐに排除しなくてはならない。
例え、間違って入ったとしても敵が領域に支配・調査される可能性があるからだ。
相手の領域侵入が許可していた場合は、いつでも領域が奪われる可能性があるという条件とともに、その領域のチームが別の領域へ侵入している場合は、自チームの領域に荒らされることはない。
つまり、領域の取り合い。戦争だ。
データとして生身ごとこの場に移動し、戦うために、どうしてもアバターと呼ばれる別人格キャラクターを作成することができない。
現実と同じキャラのために日常生活の中で知り合いになることから領域やチームに対する喧嘩・暴走、ストーカーのような相手のことを調べるなどプライバシーにいろいろと問題がある。
その辺は、互いに了承するしかないのだが、敵なのかどうなのか領域に侵入した事態で決まってしまいがちである。
「――ひとつ提案がある」
ラスタは両手を上げ、敵意はないと示した。
相手は明らか疑いつつ懐を探っている。
「…提案とは」
弓を構えつつ、尋ねる。
ラスタはチームがすでにこちらへ来ていることは把握している。
先ほど手を上げる前に通信が来た。通信中は、こちらからメッセージを送る際に耳を軽く扉のように数回ノックする必要がある。
メッセージを受け取る場合は、耳に手か腕を当てれば聞くことができる。手を上げる際に一瞬だけ、耳に触れた。相手は気づいていない様子だったが、両手を上げた動作のためにその瞬間を逃していた。
提案。少しでも時間を稼ぐこと。
あと数分もしないうちに駆けつけてくれる。そう信じて。
「この行動は俺自身の勝手だ。チームに関係はない」
「何を言って…?」
弓を構え、もう一人の女の子は二本の剣を構える。
指先から突然剣が出現した。指から手へとスライドのように移動させ、持ち構える。
「あんたらもチームだ。今回、侵入したのは謝る。俺はただ、成長した自分を見たくて、単独であんたらの領域を犯した」
「それだけの理由で、俺らの住まいや畑を荒らしたのか!?」
アクティブスキルがどういうものなのか試したくて木で作った簡単な人形を囮に練習をしていたのだが、最初なだけあって、うまくできなくて相手の陣地を攻撃、破壊してしまった。
そのあと、見つかると思い、ビルが密集する場所に隠れてやり過ごすはずだったが、相手のアクティブスキルかスキルによるものかで見破られてしまった。
領域に侵入してもおよその場所は把握できない。時間をかけて脱出するつもりだったが、相手の方が上手だったようだ。
「それは謝る。もちろん、今回の件、お互い了承したうえで解散したら、きちんと後で弁償するから」
「それだけで”はい”と答えると思うのか」
「今回の件、俺だけの犠牲でいい、ポイント…少しでも稼ぎたいんだろ?」
ポイントの匂いをただ寄せる。
ポイントとは、チームの敗北ではなくチームのメンバーを撃破した際にチームに配布されるポイントのこと。チーム全員に1ポイント、直接討伐した者には3ポイントもらえる。
このポイントはアクティブスキルを習得する際に必要となるポイントで相手を倒さなければもらえないというものである。
アクティブスキルは武器をメインとして、最大4種類まで装備することができる。アクティブスキルはショップやネットオークションなどで購入・落札することができる。
アクティブスキルの多さと的確にこなせる使いこなしなど、相手を撃破する際にどうしても必要となるもの。強くなるための最初の一歩である『ポイントをためて、アクティブスキルを手に入れよう!』というチュートリアル。
アクティブスキルは最大4種類までしか装備ができないうえ、付け替える際には4種類の中から削る形で売るか、ネットオークションに出すしか方法がなくなる。
アクティブスキルは名前だけ表示され、攻撃のモーション、使用回数などは使うまで把握することはできないデメリットがあるなど。
強くて使いやすいアクティブスキルは重宝されやすく、相手に理解されなければいくらでも勝ち続けることができる。
最初のポイント稼ぎ。
それがチームの第一歩の目標でもある。
「ポイント…確かにほしいが…」
「だろ? だから、俺の命だけでいい、仲間は助けてほしい」
相手は困っている様子だ。
ポイントは欲しいが、領域は荒らされてしまっている。それに、もし相手がいいと言っても、相手のチームがそれを了承するという保証もない。提案している者ひとりからの提案。保証はどこにもない。
相手は少し黙ってから、弓から矢を放した。
目をギョッとするが、すぐに態勢を整え、剣で矢を弾く。そこに後方から二本の小剣が放たれる。思わず態勢が整えず、剣で弾こうとするが、弓使いのアクティブスキルだろうか、見えない矢に左半身を二本必中されてしまった。
「っぐ」
「悪いが、その提案には乗れない」
時間は稼げなかった。
仲間は来ている。けれど、距離はもうすぐかかる。
体力ゲージがみるみる減っていく。
必中された箇所が悪かったのか、血が止まらない(データだけど)。しかもゲージの下に毒の模様が表示されている。
これも、体力ゲージの消費を加速している原因か。
「これで大人しくしてもらおう。ポイントは確かに受け取る。だが、貴様のチームの保証は取れない。ここで散ってもらおう」
「…っ。やられたね。けど、遅かったね」
パッと姿を現す二人組の影。弓使いはとっさに判断できず突然姿を現した男によって首をはねられる。
女の子は窓を突き破ってきた矢に左腕を打たれる。その瞬間を見逃さずラスタはアクティブスキル〈動き回る蛇喰らいスネークイーター〉を炸裂させ、胴体を分断させ、二人を戦闘不能にする。
下の階にいた男の子の攻撃で鉄柵が見事にラスタの左半身ごと持って行ってしまい、ラスタの体力ゲージは底をつき、戦闘不能としてその場に倒れる。眠るかのように床へと倒れこんだ。
「ラスタぁ!!」
男が卑劣に叫び、鉄柵を放った少年に急接近して両腕をはね、もうひとりの弓使いの攻撃が両足をもぎ取るかのようにして吹き飛ばされた。
男の子も戦闘不能となり、その場に倒れこむ。
「ラスタぁ!! しっかりしろ!!」
剣使いの男――メガネをかけた茶髪の少年。ラスタと同様、私立高校の学生服を着ていた。ラスタは上から上着を着る形でごまかしていたが、学校帰りの途中だった少年と遠くから離れて打った弓使いの少女。
少年はラスタに声をかけるも返事はなく、光となって散っていった。
「遅かったー! なんでだよー! あれほど部活が終わるまで待てっといったのに…あのバカ!」
ようやく集合できた弓使いの少女。
吠える少年に近づきながら、ひと声かけた。
「大丈夫だよ。戦闘不能になっても1時間もすれば平然として戻ってくるから」
その声を覆すかのように少年は冷静に答えた。
「あいつ、チームを組んでいなかっただろ(OFFにしたまま)」
「あ、そういえば…」
「つまり、チームとしてポイントは配布されない」
「あ…ああぁぁ…そういうことね」
「あのバカ、チームの基本中基本のルールも把握しておけよ!! おかげで、3ポイント無駄骨じゃねえか!!」
少年のけたましい騒ぎはしれっとラスタが戻ってくるまで止まなかった。ラスタと合流できた時、もう一度戦闘不能になるまで腹を殴っていたという。
時は流れ、四月。桜が咲き乱れるころ、ひとりの転校生が私立高校を訪れた。
名前はノエル。黒髪に右目を覆うかのように異様に伸び、左目だけ解放したかのように髪は避けていた。
新たな能力者(スキル持ち)として配属された7人のひとりとして、私立高校に入学を果たした。
「ここが、始まりの場所」
ノエルはそう囁くと、桜はいっせいに乱れ散っていった。
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