第48話「多重存在の剣(ドッペルゲンガー・ソード)?」
第四十八話「多重存在の剣(ドッペルゲンガー・ソード)?」
ーーー
ーー
「”多重存在の剣”?」
ロイヤルベイホテルの一室。
超豪華なスウィートでの会話だ。
ムード最高の高級ホテルの部屋で夜に若い男女が二人……
それ相応に期待に胸を膨らませ、ホテル内の温泉から戻った俺だったが、プラチナブロンドのヒロインが聞いてきたのは、俺が渡した新作の片手剣、それの詳しい内容だった。
「…………」
一度はガックリと肩を落とす俺だったが、正直、その手の話は嫌いじゃ無い。
そう、たちの悪いことに俺はその話に乗ってしまったのだ……くそ。
因みに温泉前で
ーーなんとなく……ほんと、なんとなく話す機会を逸したのだ……
「…………」
……正直言うと、超絶美少女と高級ホテルのスウィートで二人きりという今の奇跡的な状況を……
ーーと、斯く斯く然然……ここに至るまでの経緯はこう言った感じで……
「
「……ええ」
真剣な眼差しで頷くプラチナブロンドの少女は、オフホワイトの可愛らしいパジャマの上に、薄いピンク色のニットカーディガンを纏っていた。
「だから……緊急避難的対処として、応急措置って事で、これを造った」
「応急措置で……”
「ああ、そうだけど……ええと、解りやすく言えばこの魔剣は、剣が使い物にならなくなっても、あらかじめ用意していた”もう一本の剣”に切り替わる……で、その剣が駄目になれば……という風に金太郎飴方式に剣が次の剣に切り替わる」
「わたしには一本の剣に見えるけど……」
「見た目上はな、だが、実際それは十本の剣で出来ているんだ」
「十本!?」
俺を見ていた少女は再び手元の剣に視線を移し、縦に横にして確かめる仕草をする……彼女のその瞳は半信半疑といった感じだ。
「素材である
そして俺はそんな彼女に出来るだけかみ砕いた説明を始めた。
「通常、世の中に”全く同一”の存在はあり得ないが、それぞれに対して、例えばAという剣だと認識させてしまえれば、それは”同一の存在”として存在できることになる。十本の異なる剣、それぞれが、それぞれの存在を”同じ物”と認識すれば、それはたとえ十本あっても、一本の剣として存在しうるってことだ」
「えっと……?」
ーーんーと、ちょっと説明が難しいな、これは俺の独自理論も入っているからなぁ……
「つ、つまり……AからJまでの異なる剣があったとして、その全てが自分をAと認識している場合、それらは実際Aの剣として存在し……複数でありながら、唯一の存在となる……結局のところ現世における”存在”というものの根本は、自己の認識と他者の認識による自己確立と相互認識の……」
「…………」
ーーうっ……駄目だ……
「……え……と、
「え?う、うん!……そんざい……にんしき……うんうん、そうだね、ジーコとソゴーだね……」
プラチナブロンドの少女は笑顔でうんうんと頷いているが、途中からは明らかにぎこちない微笑みで誤魔化そうとしている。
ーーっていうか、”自己確立と相互認識”だ!、ジーコとソゴーって有名サッカー選手と某百貨店かよ!?
「…………」
「…………」
”大丈夫、まかせて!”と言わんばかりの
「ま、まぁ……理屈はとにかく……複数の剣を一本の剣として扱えるようにした訳だ」
そして説明を続ける。
「Aの剣が折れる……つまりその存在が消滅すると、自己存在の防衛から残った九本は、今度は他の存在に、つまりBになろうとする。それが折れればCにDに……そんな感じであらかじめ用意された十本分、Jまでそれは繰り返される」
「あらかじめ用意された……他の特徴を持つ魔剣に?」
「ああそうだ……勿論、AはAのBはBの、あらかじめ所持していた十本の剣それぞれの魔剣の特徴を持つわけだから、折れる度に新たな魔剣になるようなものだ」
「えっと……つまり十本の異なる能力を持つ魔剣を装備しているのと同じ?」
少し思案した後の自身無げな彼女の言葉に俺は再び深く頷く。
「わぁ……”魔剣”ってなんだかすごいね……なんていうか、一見ありえない様な特異な能力にもちゃんとそれが出来る意味があるんだ……」
ーーその”あり得ない特異な能力”の王様……いや、神様というべき出鱈目な存在である“聖剣”を所持する”
俺はそんな事を目の前の美少女に、心の中で指摘しながらも、ちゃんと補足する。
「他の”魔剣”って呼ばれている物の製造方法は知らないけど、俺のはそんな感じかな、どっちにしてもそれほど突拍子も無い事でも無い……自然界でも希にではあるが起こりえることだし……」
「えっほんとに?」
そして、素直に感心した瞳で俺を見る美少女に、俺はついつい調子に乗って雄弁になっていった。
「たとえば、正常な世界ではA君がこの世に二人も存在するわけ無いって否定の常識で満たされているけど……ある人物が、自身の中の常識を
「あるいは……?」
ーーうわっ!
陶器のように白い肌、それを僅かに上気させる桜色の頬と唇……いまは水分を含んで心持ちシットリと輝くプラチナブロンドの髪……
ーー俺は……俺って奴は!なんでこんな状況でこんな色気の無い話しをしているんだよぉぉっーー!
「ねえ、あるいは……なに?つづき……おねがい」
「……」
ーーいや、別に変なことは考えてないぞ……俺……
「…………」
ーーた、ただ、後学のために今の表情は記憶に刻んでおこう……別に変なことには使わないからな!ほんとに、ほんと……
「
明らかに
「!あ、或いは……ひとつの世界に”同一の存在”が確立してしまうって言う珍事が起こりえるんだ……ただし、これは自然の摂理を大きくねじ曲げる現象でもあるから、どんな弊害が起こるか予想もつかない。たとえば、その二つの存在が直接接触するようなことがあれば、どちらかの存在が消えてしまうとか?」
「
俺は少女の答えに大きく頷く。
「ご名答!……まぁ、俺のはそこまで高次元な現象とまでは行かないけど、理屈は同じだ。だから”
「”ろけっとぺんしる”って……絶妙に古くてアレな名前だね」
なんとか持ち直し、戯けて誤魔化す俺のくだらない命名に、目の前の
ーーこれがあの夜の話……
ロイヤルベイホテルでの……紹介された
ーーー
ーー
「なんだと!」
間抜けな声と共に、目を見開くフィラシスの大騎士。
ーーまぁそうだろうな、普通そう言う反応をするだろう。
その光景を眺めながら、俺は満足げに頷いていた。
因みに
一度、完全に失われた物が復元するのは容易ではない……っていうか無理だろう。
ーーつまり、あれは……あの時渡した……あのロイヤルベイホテルでの……ぐっ……くそ、思い出したら涙が……
ーーいや……そうじゃない!……つまり、あれは
「
俺の叫びに頷いた美少女は、それを構えながらフィラシスの大騎士とやらの間合いをジリジリと詰めていく!
ーーそして俺は……
「…………」
ーー俺は見極めなければ……
俺は
ーーただその一点に集中していた
「…………」
ーーつまりだ……
あれを攻略しないことには、始まらない!
第四十八話「多重存在の剣(ドッペルゲンガー・ソード)?」END
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