たてたてヨコヨコ。.
ひろすけほー
第1話「それって幻想職種(カテゴリ)ですか?
第一話「それって幻想職種(カテゴリ)ですか?」
「だから!おまえなんで当然の如く俺を”盾”にするんだよっ!」
俺は叫んでいた。
そりゃそうだ!この状況下でこの扱い、俺の主張は至極当然のことと言えるだろう。
「男のくせに細かいことに拘りすぎだよ!私は使えるものはなんでも使う倹約主義なの!」
「こ、答えになってねーーーー!」
なんだこの女!?……あと、それは倹約とかじゃないぞ!絶対!
ーーガキィィーーン!
「うわっ」
「きゃっ」
そう言い争っている間にも、敵の攻撃は俺の腹に命中する!
「ぐはっ!」
吹っ飛んで尻餅をつく俺。
「ちょっと!転んでる場合じゃ無いでしょ、次来るわよ!」
俺の後ろに、ちゃっかり隠れていた少女から罵声が飛ぶ。
……優しさも
グオォォォーーン!
目の前で雄叫びを上げる巨大な人型の獣……。
狼の如き耳まで避けた顎と狼の如き鋭い牙。
狼の如き立ち上がった三角耳と、毛むくじゃらで鋼のような強靱さと鞣した皮鞭のようなしなやかさを併せ持った
狼のような……
って!早い話が狼男に襲われているんだよ!俺達っ!
「ほらっ、そこっ!」
少女は右手に握ったドアの”取っ手”のような、コの字型の金属を自身の正面に振りかざす。
「おわっ!」
ーーガキィィン!
途端に俺の
ーーくっ!
ーーふっ!
獣の爪を両腕のガードで受けながら、俺は背後に隠れる少女を視線の移動だけで確認する。
「くそっ、ほんと、人を”盾”みたいに扱いやがって……
「わかってるわよ!貴方は暫くの間、相手の攻撃を防いでくれればいい!」
俺の泣き言に、背後の少女は苛立たしげに応える。
「で、出来るのかよ!おまえ、愛用の
「っ!一撃で仕留める!」
少女は俺の言葉を侮蔑と受け取ったのか、その
「次の攻撃直後に決めるわ……」
「…………」
少女のそんな決意した表情を見てしまっては……
俺は無言で頷いて正面を向き直す。
ーーそういうことなら……ちっ、やるしか無いか!
ババッ!
そして、俺は鋭い牙を、爪を、やりたい放題振り回す獣の眼前で、無防備に大の字になる。
ギシャァァッーーー!
とびきりの野生がその隙を見逃すわけが無い!
大きな顎を開き、俺の喉元めがけ、覆い被さるように飛びかかってきた。
ーーひぃぃ!死ぬほどこわいじゃねぇかぁぁ!
ーードサッ!
俺は自身の二倍はあろうかという人狼ともつれ合って倒れる。
「一閃!」
ーーザッ!
刹那、倒れる俺の背後から真横に躍り出た小柄な人影は、左手に握った銀色に輝く金属を斜め上に払って前方に
ーーブシュゥゥゥーーー
肩掛けに切り上げられ、鋼の筋肉を分断される巨体。
噴水のように赤い雨を降らせた狼は、断末魔の声も出せぬままに、二つに分断されて地面に転がっていた。
「やった……のか?」
再び尻餅をつきながらその光景を見上げる俺。
「……この剣……思いの外、マシな出来のようね……」
輝く
整った白い顎の下あたり、やや下方に纏められたプラチナブロンドのツインテールが夜風に軽く踊り、淡い桜色の唇が優しく
「……」
「……どうしたの?」
尻餅をついたまま、思わずみとれてしまった俺は、阿呆のように口を開けていたに違いない。
「なんでもない……それより終わったのか?」
俺は誤魔化すように、解りきった事を聞きながら立ち上がろうとしていた。
ーー!
そして、不意に膝辺りに軽いしびれを感じた俺は立ち上がりはしたが、軽く二、三歩ふらつく。
「大丈夫?怪我とかしてるの?」
さっきまでの態度はどこへやら、少女は俺の体を気遣うように近寄って来る。
ーーふわり
途端、甘い香りが俺の鼻をくすぐった。
「い、いや大したことない……俺のさっきの時点での強度は、まだレベルが低かったから……」
そう言ってあわてて彼女の白い手が届かないくらいまで距離を取る俺。
ーーうう、俺の馬鹿!へたれ!勿体ない……
「そうなの?……”強度”って……それは、やっぱり貴方……」
俺はしまった!と思った。
美少女相手に、つい舞い上がってしょうも無いことまで口走ってしまったのだ。
「なんのことだ?おれは借金の形に、不当な労働を強いられた、ただの不幸な男だよ……」
「……」
誤魔化す俺を白い目で見るプラチナブロンドの美少女。
「……貴方の
ーー
そもそも、この世の中には二つの脅威がある。
一つは人類が生み出した各種物理兵器。
古くは刀剣類から始まり、銃、爆弾、戦車、戦闘機、ミサイルから核兵器まで……。
そしてもう一つが
この
そして、悪人、敵対勢力という、対人間には、警察、軍隊が存在するように、対
つまり、その能力を持った人類を能力別に種類分けするのが
目の前のこのプラチナブロンドの少女の戦闘力からして、彼女は戦士……それもかなり高ランクの……
「生身で
そう言って訝しげに俺を見る少女の
「あまり……」
「え?」
声のトーンが明らかに変わった俺に、少女は戸惑ったようだ。
「……あまり触れられたくない」
「触れられたくないって?
改めてそう言葉にする俺を、プラチナブロンドの美少女は不思議そうにマジマジと見ていた。
「……」
「えっ……と」
再び黙り込んだ俺の頭の中は結構複雑な感情が渦巻いていた。
どう低く見積もっても
対して俺の
それは、勿論、確認した事はある。
花形の
俺は目の前で訝しげに俺を見つめる少女が右手に持ったコの字型のドアの取っ手の様な金属をチラリと見る。
数年前、俺を鑑定した
「あんた、
男の、予期できるはずも無い言葉に、俺は立ち尽くした……どういうことだ?
「……それ以外の
「うーーん、まあ普通は考えられないけど、実際目の前に居るのだからそうだろうよ」
「?」
その時、俺は疑問に思いながらも、実は微かに期待していたんだ。
もしかして、未発見の超レアタイプ……何か凄い能力なのか?とか。
世界初の
「……聞きたい?」
思わず口元が緩む俺をチラ見しながら、
ーーコクコク
俺は一も二も無く頷いていた。
「ぷっ……いや、失礼、あまりに衝撃的かつ喜劇的なおもしろ可笑しい事象についね……」
喜劇的?なんで?英雄の誕生がおもしろ可笑しい事象?
「
ーーゴクリ
「盾だよ!そう、あえて名づけるなら
「たて……?」
盾?、たて……”よこ”とか”たて”とかの……いや、違うだろ!
「あの……盾っていうと……あの……剣と盾とかの……」
「……って」
「て?」
「ってありえねぇだろぉぉー!」
気がつけば俺は叫んでいた!……魂の叫びとも言えるだろう。
「盾?盾って何だ!?無機物だろ!それ!」
「ぷっ、そうだね、
笑いをこらえながら答える男。
「た、
俺の頭に、畳部屋に必要以上の存在感で鎮座する四角い木製の物質が浮かんだ。
ーーうわぁぁぁーーーん!
次の瞬間、俺は半泣きになりながら、必死に笑いをこらえる男の胸ぐらを掴んでいた。
「なんだよ、笑いたけりゃはっきり笑えよ!」
「…………じゃ、まぁ遠慮無く」
その直後、血も涙も無い
ーーー
ーー
過去の嫌なことを思い出した俺は、改めて目の前のプラチナブロンドの美少女を見る。
「ど、どうせ……」
「えっ?」
「どうせ俺は出来損ないだよ!なんだ
俺は更に惨めになるような付加情報を自ら加えて……叫んでいた。
「…………あの……きみ?」
方や世界に期待される
「うわぁぁーーん!」
方や”
「ちょっとそこの綺麗なお嬢さんっ!聞いたことあるか?!そんな巫山戯た、やる気の無さげな
「ちょっ!ちょっと……待って……あの……」
この落差を目の前にして、俺が叫びたくなるのも仕方ないだろう。
そうだ!仕方ないんだよぉぉっ!
「な、何を言って……」
「盾だって!
「貴方何を言ってるの?、落ち着いて……」
…………落ち着く?
おち……つく……
そうだ……ぱっとしたところの無い俺が!実は密かに華々しい
憧れていた世界の
「ああそうだ!落ちが着いたんだよ、
俺は随分と混乱していたのだろう。
だって…………
あっけにとられるプラチナブロンドの美少女を置いてきぼりに、涙をまき散らし両手をブンブン振り回して俺はその場から走り去って行ったのだから。
ーーー
ーー
……そう……混乱していたんだよ……だから……
欲しがっていた
「…………」
俺はその時の様子を思い出して顔から火が出そうなほど赤面していた。
「ふう……」
自販機で買ったばかりの缶コーヒーを空けてブロック塀にもたれる。
空にはコウコウと輝く満月……
ヒンヤリとした背中が俺を徐々に冷静にさせていく。
一息ついた俺は、ついさっきまでの出来事を思い浮かべながら、微糖の缶コーヒーを雑に喉に流し込んだ。
「満月か……だからあんなものに出くわしたんだろう……」
そう呟いた俺の頭に蘇るのは、今さっき、生命を脅かされた狼の化物では無くて、ある意味、それより遙かに
ーーよくよく思い出したら、メチャメチャ可愛かったよな……
俺は思い浮かべていたのは……
ほんの数刻前、
そこで強引に引き会わされた、プラチナブロンドで
「……名前くらい……聞いとけば良かったな……」
勿体ないことをした、俺は心底そう思った。
「
「!」
缶コーヒーを右手に握ったまま、もたれた塀から間抜けに声の方を見上げる俺。
「っ!?」
そこには、月光を背景に、ブロック塀の上にしなやかに立つ人影。
この地域でも、お嬢様学校で有名な制服。
薄いグレーのセーラー服を身に纏った少女が……
今し方、思い浮かべていた
刃こぼれした銀色の剣を手に立っていた。
「…………」
俺は再び阿呆のように口を開けて、その光景を見上げている。
緩やかな夜風に、膝丈のスカートの裾がユラユラと踊り、そこから覗く、眩しくも白い双脚は、月光のもとで白くもやがかかったように幻想的な美を感じさせる……
「……」
そして、美少女の
「!?え……と、月夜だからって、”狼男”の次は”兎”かよ……」
相手の視線に気づいた俺は、辛うじて憎まれ口を返して体裁を整えようとするが、当然、いまさらである。
俺の顔は余裕無く引きつり、
ーー
しかし、それでいて、あまり活躍した試しの無い脳みそは、今度こそ、その名前をしっかりと刻もうと忙しなく働いていた。
そうだ、
「あたっ!」
俺の頭は今の今まで俺の背中を預けていたブロック塀に打ち付けられた!
「あれ?ここだと大丈夫ね?さっき逃げられたときは駄目だったのに……」
そう言いながら、プラチナブロンドの少女は、右手に握ったコの字型の金属を軽く左右に振り回す。
ガコッ!ガコッ!
「いて!」
「いて!」
「って、やめんかーーがふっ!!」
「あっ!」
彼女の手の動きに合わせるように、揺れていた俺の
「あの……あれだよ……えっと」
プラチナブロンドの美少女は若干、引き釣りつつも笑顔を保ちながら言う。
「喋っちゃだめだよ」
「ごめんまぁふぁいだーー!」
俺は一気に立ち上がって、舌足らずに叫んでいた。
まだ舌の先がヒリヒリと痺れている。
「……ちょっとだけお話がしたかったのよ、あなたと……なのに逃げるから……あのね、
「…………」
俺は塀の下から無言で見上げる。
「えっと、そんなに大したことじゃ無いんだけど……えっと」
「…………」
俺は塀の下から無言で見上げる。
「もちろん、お礼はさせてもらうし……」
「…………」
俺は塀の下から無言で見上げる。
「……」
「……」
「…………ごめんなさい」
整った白い顎の下あたり、やや下方に纏められたプラチナブロンドのツインテールが美しい、
「…………」
俺は大きく頷くと彼女に促した。
「……わかった、話しを続けてくれ」
第一話「それって幻想職種(カテゴリ)ですか?」END
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