新人メイド豆大福の奮闘記
甲斐
3日目 宿題
こんにちは。豆大福です。
今日はお嬢さまの宿題のお手伝いを任されました。流石に学校の宿題をやらない訳にはいかないでしょうし、今日こそはメイドらしい仕事が出来る気がします。
「……」
と、そう思っていた時期が私にもありました。
お嬢さまの部屋に入るとそこは既にもぬけの殻で、開け放たれた窓からは千切ったカーテンの端を結んでロープの様にした物が垂れ下がっていました。
机の上には今日やるはずだったお嬢さまの宿題と『あなたとやる宿題なんてないわ』と書かれた紙切れが置いてあります。
いくら私の事が気に入らないからといって普通学校の宿題を捨てますか!? それとも勉強をしたくないから私をダシにして逃げ出しただけなのでしょうか……?
とにかくお嬢さまがいなくては宿題のお手伝いが出来ません。まずはお嬢さまを探しましょう。
🌳 🌳 🌳
という事でお嬢さまの部屋の真下辺りから調べていきます。周りには植え込みなど隠れられる場所はいくらでもありますが、どこを探してもお嬢さまは見当たりません。まだそこまで遠くには行ってない筈なのですが……
「あれ、あそこに落ちているのは……」
植え込みが迷路のように配置されている"緑の迷路"の入り口に何かが落ちています。
「これは……お嬢さまの靴でしょうか?」
という事はお嬢さまは今この緑の迷路の中にいるはずです。さっさとお嬢さまを見つけて宿題を終わらせてしまいましょう!
🌳 🌳 🌳 🌳
……迷子になりました。
こっちの道もあっちの道もさっき通った気がします。それなのにどの道を通ってここまで来たのか思い出せません。
「紙の迷路なら結構得意なんですけどね……全体を俯瞰出来ないだけでここまで難しくなるなんて……」
しかも壁が植え込みで出来ていて緑一色なので、曲がり角があっても一目で気付けない事が多いです。それでも鏡の迷路じゃなかっただけマシと言ったところでしょうか。
曲がり角を見つける度に適当な方向に曲がって、進んだり戻ったりを繰り返していきます。
「なんだか見覚えのない道に入ったような……あれ、看板がありますね」
道のど真ん中に看板がたっているのを見つけました。なになに……
『まいごのまいごの豆大福にめい路のこうりゃく法を教えてあげるわ。まず右のかべに手をあてなさい』
むむ……ここに辿り着くまでに私が迷子になる事はお嬢さまの中で確定事項だった様です。まぁ実際迷子になったのですが。悔しいですが背に腹はかえられません。素直に従うことにしましょう。それから……?
『そのままかべにそって歩けばいつかゴールにたどり着けるわ』
なるほど……迷路のスタートとゴールは外壁で繋がっているのですから、内側の壁を伝って歩いていけば遠回りになりますが確実にゴール出来そうです。私は右の壁に手をあてるとゴールを目指して歩き始めました。
🌳 🌳 🌳 🌳 🌳
……なかなかゴールに着きません。緑の迷路ってそこまで広くはなかったと思うのですが……おや?また看板がありました。
「さっきと同じ内容ですね。ということは同じところに戻ってきてる……? あ!」
看板の裏にも文字が書いてある事に気付きました。内容は、
『ただしこの方法は入り口で使わないと同じところをぐるぐる回るだけになる場合もあるわ。あと左のかべにそって進めばすぐにゴール出来るわよ』
言われてみればそうです。外壁に繋がっていない壁に沿って歩いてもゴールには辿り着けません。
というか左の壁に沿って進めば良いならなんで右の壁に沿って進めって言ったんですか! ……結局看板のところから20歩ほどでゴールにたどり着きました。無駄に疲れた……。
🌳 🌳 🌳 🌳 🌳 🌳
「豆大福? こんな所で何をしているのですか。今はお嬢様の宿題のお手伝いをしている時間だった筈ですが」
「じいやさん! ……あ」
迷路を制覇した後お屋敷に戻った私は廊下でじいやさんに会いました。……ってすっかり忘れていました! 私は迷路の攻略をしていたんじゃありません! お嬢さまを探していたんです!
「お嬢さまが宿題をせずに逃げ出してしまいまして……今お嬢さまを探しているところなんです」
助かりました。じいやさんならきっとお嬢さまを見つけ出してくれる筈です。あんなに探しても見つからなかったお嬢さまが一体どこに隠れていたのか、私気になります!
私が今までの経緯を話すとじいやさんは少しだけ考えた後、
「そうですか……では、一度お嬢さまの部屋に戻りましょうか」
と言いました。
「? お嬢さまのお部屋にですか……?」
お嬢さまは今どこかに隠れていてお部屋にはいない筈なのにどうして一度お部屋に戻るのでしょうか? よく分からないままじいやさんと一緒にお嬢さまのお部屋までやって来ました。
「あら、じいや! ちょうど良かったわ。今学校の宿題が終わったところだったの!」
……へ?
どういう事でしょうか。まだお庭にいる筈のお嬢さまがお部屋で宿題をしています。しかも1人で全部終わらせています!
「お、お嬢さまがどうしてここに……!?」
「あら、豆大福いたのね? てっきりメイドをやめて、にげ出したのかと思ったわ」
じいやさんから私に視線を移した途端、お嬢さまの視線が一気に冷たくなりました。
直前までの笑顔も一瞬で
「に、逃げ出したのはお嬢さまでしょう!? だって窓からカーテンが……」
「カーテン? あぁ、前のメイドとラプンツェルごっこをした時のカーテンね」
このメイドはなんて馬鹿な事を聞いてくるのかしら? みたいな感じで返答されました。
それよりラプンツェルごっこ……? なんだかお嬢さまには似合わないメルヘンな名前の遊びですね。
「お嬢さまは以前このお屋敷に勤めていたメイドの1人にこのカーテンを登らせたのです。半分以上登ったところでそのメイドは落ちて怪我を負いました。そのメイドは退院と同時に姿を消したので今どうしているのかは分かりませんが」
うわぁ……これ以上ないほどお嬢さまにぴったりの遊びでした。というかこのお嬢さま、他のメイドにもそういう事してたんですね……
「じゃあ緑の迷路の入り口に置いてあったお嬢さまの靴は……?」
「あら、くつがかた方無いと思っていたらそんなところにあったのね」
なんてわざとらしい棒読み……! 絶対に確信犯です!
この悪魔! 私と宿題をしたくないからって靴や看板を仕込んで私を遠くに追いやったんですね!? また嵌められました!
「じいや、そろそろおやつの時間でしょう?」
「えぇ、ちょうど準備が整ったところです」
「じゃあ早く行きましょう! ふふっ今日のおやつは何かしら?」
お嬢さまとじいやさんが部屋を出ていきます。今日もまたメイドらしい仕事を何も出来ませんでした……
扉をくぐる直前、お嬢さまはこちらを振り返ると、
「豆大福、今日のあなたの仕事は終わったのだから、もう帰っていいわよ」
一言そう言い残して部屋の扉を閉めました。
バタンと扉の音がして暫く経っても、私はその場から動くことが出来ませんでした。
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