駄菓子屋
水蛭子
秘密
お店というものがほとんど無くなり通販となった時代。この街で唯一の個人営業のお店がある。客が入っていくところなど見たことがない。それなのに生き残っているのが不思議だった。"願いが叶う木村駄菓子"と看板に書いているのが滑稽だった。
こんな小さな店で願いが叶うわけがない。
常々、バカにしていた。しかし好奇心もあった。
一度も利用していないのにバカにしていいものか?確かめてからバカにするのが人間じゃないか
半ば言い訳に近いのだが私は今度、訪ねていくことにした。
店の前に行き改めて外装を確認する。「(ボロすぎだよ。こんなところ潰れない方がおかしい)」
立ち尽くしていると「お客さんかえ?」
としゃがれた老婆の声が聞こえて声も出ないほどに驚いた。私は慌ててうなづいた。
店主と思われるその老婆は手招きをし私を店の中に導いた。「お客さんなんて久しぶりじゃのう。お茶どうじゃ?」
「ありがとうございます。えっとそんなにきていないのですか?どれくらい?」「そんなに昔のこと忘れてしもうたわ」
昔だと・・・ならこの店はどうして?
「潰れたりしないんですか?」
しまった直球すぎる
「わしの道楽じゃよ。金はたっぷりあるのでな。飽きたら店を畳むつもりじゃ」
なるほど店自体の経営でまかなっているわけではないのか・・・
このご時世に店を維持できる金があるとはね。
「このお茶、不思議な味ですね」
「ばあばの特製ブレンドじゃ。・・・長生きできるぞい」
何が入ってるんだろう?
「願いが叶うって看板に書いてあるのですが。どういった意味ですか?」
「お客さんは取材でもしにきたのかのう。先程から質問ぜめじゃの。わしにとって今の"店"というものは好かん。ジジババがやっている店にこそロマンがあるというもの。わしの子供の頃は・・・(中略)。じゃからわしは一人になってでもこういう店を残したいと思ったのじゃ」
「なるほど、子供達のためですか」
「そうじゃそのためにも、この店を潰すわけにはいかん。そろそろ効いてきたかの?」
「え?」
なんだ意識が・・あの・・・お茶・・か?
ーめがさめたかの?
ばあばの声が頭の中から聞こえる。
ー何をした?
ーもうわしも歳じゃて夢を実現するには永遠の命が必要でな。
ー永遠の命だと?乗っ取る気か?
ーそのとおりじゃ。さすが若者、勘がええ。わしの旦那は科学者でな
ーバカみてえな研究をしてたってわけか
ーその研究が成功したのじゃよ。人の身体と魂は別物じゃ。その魂を他の身体に移し替えることができるのじゃ。
ーなんだよそれ
ーもう一度ねむってもらおうかのう。今度は永遠に目覚めないじゃろう。
ーくそ・・・消えち・・ま・・う
その日から"木村駄菓子"の店主は
しゃがれ声の若者になった
駄菓子屋 水蛭子 @hirukoawashima
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