第34話

*



 私、宮岡紗弥は文化祭の準備で、今日も教室で作業をしていた。

 しかし、最近そのせいで、私は彼氏である高志と、全く話しが出来ずにいた。

 そのせいもあってか、私はここ最近不安な事があった。

 それは高志に愛想を尽かされていないかという不安だった。


「今日も高志と話してない……」


「あーはいはい……もうわかったから、紗弥も手伝って」


「いいねぇ~彼氏持ちは。私も素敵な彼氏ほしぃ~」


 そう言ってくるのは、同じクラスの中村香奈(なかむらかな)と今井美羽(いまいみう)だ。

 二人ともクラスの女子の中では、中心的人物であり、人望も厚い。

 私も、この二人は気さくで良い人だと思っている。


「そうね……ぼやいてても高志と話せる訳じゃないものね…」


「紗弥って、ホントに八重君にはデレデレだよね?」


「そうそう、いつもはクールでなんだか大人っぽいのに」


「そうかしら?」


「そうよ、気がついてないの?」


「八重君の前だと顔つきが違うのよね~」


 私は二人にそう言われたが、あまり自覚は無かった。

 ただ、高志と一緒だと、自然に笑えるし、なんとなく甘えたくなってしまうのだ。


「でも、八重君って、いままで目立たなかったけど、結構格好いいよね?」


「そうそう! なんて言うか、優しいオーラが全体から出てるっていうか! 案外顔も良いし!」


 自分の彼氏がよく言われるのは、嬉しい。

 だが、あんまりモテられても困る。

 いつ、私は高志に捨てられてもおかしくないからだ。

 高志は、恐らく未だに私の事を恋愛対象的に好きでは無い。

 そりゃあ、もう二ヶ月以上も付き合っているのだが、彼は一向に私に何かしてくる気配も無い。

 正直、自分に魅力が無いのでは無いかと不安にもなる。

 

「あ、あの……紗弥……」


「ん? どうかした?」


「あのさ……彼氏は別に取らないから……その……恐い顔で私たちを睨むのやめて……」


「え? あたしそんな事してた?」


「「してたわよ!!」」


 そんな馬鹿な、私はただ高志から捨てられると思って、不安になり、その原因が何かを考えていただけだ。

 別に彼女たちを睨んだ覚えは無い。


「気のせいよ、私は今考え事をしてたし」


「そ、そう? それにしては殺気も感じたような?」


 そこまで言わなくても良いのでは無いだろうか?

 確かに私は一瞬だけ、彼の魅力をこの二人が気がつかなければ良いのに、と思ったが、別に殺気を放った覚えは無い。


「でも、本当に羨ましいわよ、毎日二人を見てると、私も彼氏欲しいなって思っちゃう」


「そう?」


「そうよ! 教室では毎日、ラブラブだし、登下校は手を繋いで楽しそうだし、何より二人とも本当に幸せそう」


「そう見えるんだ……」


 第三者からはそう見えているのかと思うと、私はなんだか照れくさくなった。

 私は確かに毎日幸せだ、高志は優しいし、一緒にいて楽しい、何より甘えた私をいつも優しく抱きしめてくれる。


「で……どこまでいったの?」


「どこまで?」


 香奈の質問に、私は首を傾げる。


「いや……だから、その……男女の関係的な?」


「あぁ……そう言う事…」


 意味を理解し、私は考えた。

 どこまで、そう言われてもキスもまだしていない。

 私は、本当は彼からしてくれるのをずっと待っていた。

 本当は何回も自分からしてしまおうと思ったが、それでは意味が無いと紗弥は毎回耐えていた。

 本当に私を好きになってくれた時、高志はきっと自分からキスを求めて来てくれると、私は信じているからだ。


「ハグ止まりね……」


「「えぇぇぇぇ!!」」


「いきなりどうしたのよ? 大きな声を出して」


「だって、あんなにラブラブなのに?! 本当にハグ止まり!? 信じられないわよ!」


「私はてっきり、毎晩……」


「ちょっと! やめなさいよ、女の子がそんな……」


「でも、信じられる?! あの紗弥と八重君よ?」


 どうやら、私の言葉をこの二人は信じていない様子だった。


「本当はどうなの?」


「キスねぇ……私はしたいんだけどねぇ……」


「え?! もしかして、八重君からしてくれるの待ってるの?」


「そうよ、だからハグ止まりなの」


「まぁ、確かに八重君はあんまりガツガツ行きそうな感じじゃ無いしね…」


 確かに、高志はあまりそういう事を積極的にはしてこない。

 それどころか、ボディータッチもどこか気を使っている感じがする。

 本当は高志に色々して欲しい……なんて言うと痴女のようだが、私は高志になら何をされても構わないと思っていた。

 それは彼の人柄や性格を見てきた私が、高志をどんどん好きになってきているから言える事だった。

 しかし、最近はそのせいか、少々高志に対して独占欲が出てきてしまった。

 だから、高志がモテるのは、私としては少し嫌だった。

 もちろん、彼氏が女子に人気があるなんて、彼女からしたら嬉しいし、それだけ魅力があると証明されているようなものだ。

 それでも、私は彼が自分だけを見てくれるのを望んでしまっていた。


「はぁ……どうしたら……」


 二人から解放され、私は溜息を吐きながら作業をしていた。

 すると、そこに一人の男子生徒がやってきた。


「えっと……宮岡、ちょっといい?」


「私に何か用?」


 確か、去年一緒のクラスだった男の子だ。

 女子からはイケメンだなんだと評判が良かった気がする。

 二年になって、クラスが変わってからは全く接点が無かったが、急にどうしたのだろう?


「いや……ここじゃ言いにくい事なんだ…」


「あぁ……良いよ、行こっか」


 私は彼の態度と、その言葉で彼がやってきた理由がわかってしまった。

 私は彼と共に、人気の無い屋上に向かった。

 

「えっと、突然ごめん……でも、言っておきたい事があって…」


 屋上で彼は、私に向き合い顔を赤く染めながら、そう言ってくる。

 高志と付き合い始めてから、こういうことは無くなったと思ったが、まさかまたこんな事を言われる日がくるとは、私は思ってもみなかった。


「お、俺! 宮岡の事が好きなんだ!!」


 彼は、私の肩を掴み私の目を見てそう言ってくる。

 正直予想通りの言葉に、雑誌で見たような告白方法で、私は溜息がこぼれそうだった。

 正直、なんで肩を掴む必要があったのだろう?

 なんでこんな至近距離で告白したのだろう?

 疑問は多いが、その理由もなんとなく察しはついた。

 確か、異性に告白する際は、なるべく近い距離で、相手の体に触れながら告白すると、相手もドキドキして、そのドキドキを恋愛感情と勘違いしてしまうらしい。

 その効果を使って、告白を成功させる方法なのだ。

 私も実際に高志にこの方法で告白したので、知っていた。

 しかし、これは正直、今他の誰かに見られたらまずい気がする。

 顔も近いし、屋上の扉の方からみたら、キスしているのと勘違いされそうだった。


「ごめんなさい……知ってると思うけど、付き合ってる人がいるの……」


「知ってるよ……でも、俺! 諦められなくて! だから、今度の文化祭で、君をどれだけ好きか証明するから! だから、答えはその後にしてくれないか?」


 彼の言葉の途中、ドアの開いたような音が聞こえたが、気のせいだろうか?

 目の前の彼が、気がついていないのだから気のせいなのだろう。

 しかし、この人は何を言っているのだろう?

 私は確かに付き合ってる人が居ると言ったはずなのに、答えを聞くのを引き延ばそうとしている。

 文化祭で何をされようと、私の高志に対する思いは変わらない。


「それは勝手にすれば良いけど、私の彼に対する気持ちは変わらないわよ?」


「俺は……俺は……あんな奴には負けない!」


 正直、人の好きな人をあんな奴呼ばわりする人を私は好きになれない。

 この時点で、彼に対する私の評価はだだ下がりだ。

 彼は、そう言うとすぐに屋上を後にしてしまった。

 私はそんな彼の背中を見ながら、高志に事を考える。


「………会いたいなぁ」

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