第26話



 優一が告白を受けた次の日、珍しく高志と紗弥は屋上で二人きりでは無かった。

 屋上には、いつもは居ないはずの優一と由美華が居た。


「っと言うわけで……デートすることになった訳だが」


「どういう訳だよ……」


 優一は購買で買ってきたパンを口に入れながら、三人に言う。

 高志はそんな優一に視線を向けながら、肩を落とす。


「だから、なんか試しにデートすることになっちまったんだよ! それで、こうやってバカップルのお二人に、デートコースのアドバイスとかを貰おうとだな……」


「バカップルって、俺と紗弥の事か? 生憎だが、お前に出来るアドバイスなんてねーよ」


「おい! お前の相談には乗ってやっただろ! 俺の相談にも乗れ!」


「そう言われてもなぁ……」


 そう言いながら、高志は紗弥の方を見る。

 紗弥は食べ物を飲み込み、高志の方を向いて話す。


「私は高志が一緒なら何処でも良いかな?」


「こんな感じで、俺も紗弥と一緒なら神社でも楽しいんで……」


「悪い、バカップルのお前らに相談した俺が馬鹿だったわ…」


「その通りだと思うが、なんかむかつくな」


 優一は溜息を吐きながら、パンにかじりつく。

 いつもは食堂派の優一だが、今日は高志達に合わせて購買のパンにした。


「んじゃあ、女子代表で連れてきた御門の意見も聞こうか」


「なんでそんな上から目線なのかしら?」


「まぁ、いいじゃねーか……おかげで宮岡と飯が食えるんだから」


「う……そ、そうね……」


 由美華を誘ったのは、優一だった。

 カップル二人に優一だけでは混ざりづらく、最近良く話す由美華を誘ったのだった。

 誘われた由美華も、久しぶりの紗弥との食事とあって、上機嫌だった。


「デート……映画とかは?」


「あぁ、なるほどな、それなら無理に会話をする必要もないしな…」


 由美華の提案は優一に好感触だった。


「俺と紗弥の初デートも映画だったな」


「そうね、なかなか高志が手を握ってくれないんだもん、私から握ったのを覚えてるわ」


「いや、結構男からしたら勇気いるんだよ?」


 初デートの話しに、華を咲かせる高志と紗弥。

 優一も映画なら、話しの話題作りも出来て、なかなか良いのではないかと思っていた。


「有りだな、でその後は?」


「ウインドウショッピングとかはどうかしら?」


 この提案を出したのは紗弥だった。

 映画館の近くには、大きなショッピングモールもあるため、暇つぶしやデートのコースには丁度良かった。


「なるほどな…飽きたら、どっか店に入ってお茶でもすれば良いしな」


「そうなったら、完全に俺と紗弥のデートコースだな」


「マジか……なんかそれは嫌だな」


「おい、どういう意味だ」


 急にテンションを下げる優一に、高志は少し強めにそう言う。

 しかし、それ以外の案も中々浮かばず、結局は誠実と紗弥のデートコースを参考にする事になった。


「で、なんでデートなんて事になったんだよ?」


「いや、今日の朝、お互いを知る為に、まずは出かけようって言われて、半ば強引に約束を……」


「意外だな、あの子そんなに積極的なのか…」


「ちなみに私とどっちが可愛い?」


 紗弥は高志の顔を見ながら、突然質問してくる。

 高志は紗弥の顔を見て、小さな声で答える。


「……紗弥」


「ありがと」


「けっ! リア充が! 滅びろ!」


「那須君、それは貴方も滅びる事になるわよ…」


 いちゃつく高志と紗弥。

 そんな高志と紗弥に恨みの視線と滅びを願う優一。

 そして、そんな優一に呆れた様子で突っ込む由美華。


「はぁ……紗弥、本当に八重君にべったりね…」


「そうかしら?」


「そうよ……おかげで私とは全く遊んでくれないし……」


「そうかしら?」


「そうよ! 全く誘ってくれないし! お昼も別だし! 帰るのも別! 私がどれだけ寂しかったか……」


 紗弥に向かって泣く真似をする由美華。

 そんな由美華を見て、高志は優一に尋ねる。


「ちなみにお前は?」


「高志なんて死ねば良いと思ってた」


「あぁ、なんか知ってたわ…」


 高志は優一との会話を早急に終了し、紗弥に向かって言う。


「なぁ、紗弥。友達も大切にな?」


「そうね……ごめんね由美華、高志と付き合ったばっかりで、由美華と遊べなくて……今度、二人で買い物行こ?」


「う~、紗弥ぁ~、なんで彼氏なんて作るのぉ~? 紗弥は私のなのに~」


「私は高志の物なんだけど?」


「紗弥は物じゃなないと思うんだが?」


 由美華は紗弥に抱きつき離れない。

 よほど寂しかったのだろう、しっかり掴んで離そうとしない。

 

「なぁ、昼くらい二人じゃなくて、御門さんも呼んであげたら良いんじゃないか?」


「高志が良いなら、私は何も言わないわよ。由美華、そうする?」


「する! ありがとう紗弥~、大好きだよぉ~」


(それは、友達としてだよな?)


 仲良しムードの三人のなかで、優一だけは由美華にそんな疑問を持っていた。

 そうこうしている間に、あっという間にお昼休みは過ぎていった。







 休日の昼前、高志は着替えを済ませ、出かける用意をしていた。

 紗弥とデートという訳でもなく、今日は高志個人の用事で駅前に向かう予定が

あったのだ。


「にゃ~」


「ん? 行ってくるなぁ~チャコの爪研ぎ用の木、買ってくるから」


「にゃ……」


「流石にあの柱は無残だからな…」


 チャコは爪研ぎ用の段ボールを早々に壊してしまった。

 消耗品でしょうがないと思っていた高志だったが、代わりをすぐに買わなかったのが悪かった。

 チャコはリビングの部屋の柱で代わりに爪研ぎをしてしまい、柱は無残な姿に変わってしまった。

 今日は、二度とそんな事にならないようにと、爪研ぎ用の木を買いに、高志は駅前のペットショップに向かった。


「意外に種類あるんだなぁ……」


 ペットショップで無事目的の物を買い、高志は店を後にした。

 後は帰るだけだと思いながら、駅に向かおうとした瞬間、高志は見慣れた人物を駅前で見かけた。


「ん? 優一?」


 優一が芹那と一緒に歩いているところを見つけた。

 あちらは高志に気がついて居ない様子で、二人でショッピングモールの方向に向かって歩いていた。


「あぁ、確か今日か……デート」


 そう言えば今日が、優一と芹那のデートの日だったなと高志は思い出し、納得する。

 そんな二人を見て、高志はなぜか二人の様子が気になってしまい、気がつくと二人の跡をつけはじめていた。

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