第25話

 


「何が考えさせてくださいだよ」


「し、仕方ねーだろ……俺はあの子の事を全く知らないんだから…」


「お前、俺が相談したときなんて言ったよ? 可愛いんだからとりあえず付き合っておけ、みたいな事言わなかったか?」


「実際告られると戸惑うもんだな……すまん」


 高志と優一は、現在帰宅途中だった。

 まさかの優一のラブレターが本物だった事が発覚し、優一は一年生の秋村芹那(あきむら せりな)に告白された。

 念願の彼女が出来るチャンスだったはずだったのだが、優一は返事を保留してしまった。


「可愛い子だったじゃないか? 小柄で元気も良さそうだ」


「まぁ、そうだけどよ……」


「お前、俺に言わなかったか? はじめは好きじゃ無くても、付き合っていくうちに好きになるかもしれないって」


「い、言ったんだが……う~ん」


 隣で眉間にシワを寄せながら、悩む優一に、高志は溜息交じりに話す。

 あのときは偉そうに言ったくせに、などと思った高志だったが、なんとなく優一の気持ちもわかるので、高志はそれ以上何も言わなかった。


「でも、お前のあんな姿を見ても好きって言ってくれる子だぞ? 良い子だと思うが」


「まぁ、そうなんだが……なんか引っかかるんだよなぁ……」


「引っかかるってなんだよ…」


 そんな事を話しているうちに、優一の降りる駅に到着した。


「じゃあ、また明日なぁ~」


「おう……」


 優一は何かを考え込みながら、ゆらゆらと電車を降りていった。


「あいつ、大丈夫かな…」


 優一の足取りを心配しつつ、高志も家に帰宅する。

 辺りはすっかり暗くなり、時刻は十九時を回っていた。


「ただいま~」


「あ、やっと帰ってきた、おかえり」


 高志を出迎えたのは、制服すがたの紗弥だった。

 腕にはチャコを抱え、高志を迎える。


(なんだ、この新婚っぽい感じ……)


 などと高志は感じながら、紗弥に言う。


「写真が送られて来た時点で、なんとなく察しはついてたけど……なんで居るの?」


「ダメ? ほら、チャコちゃんこんなに可愛くなったわよ」


「にゃ~」


 紗弥はそう言いながら、天使の羽を付けたチャコを高志の前に出してくる。

 チャコは、前足を動かし、高志の顔に軽く猫パンチをする。


(あ……可愛い……)


 高志はそう感じながら、チャコを紗弥から受け取り、頭を撫でる。


「……って、そう言う事じゃなくて、勝手に部屋に入られるのはちょっと……」


「高志のお母さんから良いって言われたのよ」


「………ちなみに、部屋の中とか漁ってないよね?」


「もう、私がそんな女に見える?」


 紗弥は高志の言葉に対して、頬を膨らませながら文句を言う。

 そんな紗弥の言葉に、高志は紗弥がそんな事をするとは思えないことに気がつく。


「だ、だよな? なら良いけど……」


「うん、あ。でもベッドのマットレスに隠すのは、分かりやすすぎると思うわよ?」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 見てんじゃん! 一番見ちゃダメなやつ見てんじゃん!!」


「だって、チャコちゃんが仕切りにそこの臭い嗅ぐから気になって……やっぱり猫耳好きなんだ……」


「お願いします……もうそれ以上は言わないで下さい……ごめんなさい…」


「別に謝らなくても……男の子はその……しょうがないじゃない?」


「その暖かい目をやめてくれ! なんかすっげー恥ずかしいから!!」

 

 高志達が、玄関でワーワー騒いでいると、リビングから高志の母親がエプロン姿で現れた。


「高志、何玄関で騒いでるの? まったく落ち着きがないんだから」


「母さん、アンタがその元凶なんだよ……」


「にゃ!!」


「そうだなチャコ、お前もだな……」


 人の言葉がわかるのか、チャコはタイミング良く鳴き声を上げる。


「なんでも良いけど、もうご飯よ。紗弥ちゃんも食べて行くでしょ?」


「え、良いんですか?」


「えぇ、手伝って貰ったし、お母さんには連絡してあるから」


「ありがとうございます、高志のお母さん」


「まぁ、なんだか娘が出来たみたいだわ~」


 いつも以上に楽しそうな母親を見ながら、高志は肩を落とす。

 いつの間に、そんなに紗弥の家族と仲良くなったのかなど、色々と疑問があったが、聞くと面倒くさそうなので、高志は何も聞かないことにした。

 自分の知らないところで、彼女の母親と自分の母親が仲良くなっている様子に、高志はなんだか外堀から埋めて行かれている気分だった。







「へぇ~、そんな事があったんだ」


「あぁ、だから今日はこんな遅くなってさ」


 夕食を食べ終えた、高志と紗弥は部屋で二人で話しをしていた。

 内容は、今日の手紙の事と優一の告白についてだった。


「それにしても、そんな質の悪い事をする人いるんだ……なんかごめんね」


「いや、紗弥のせいじゃないし、それになんともなかったし」


「でも、この先も同じような事があったらって思うと……」


 紗弥は表情を曇らせ、顔を俯かせる。

 そんな紗弥に、高志は笑顔で言う。


「大丈夫だって、それにこんな事で別れるとか言わないでくれよ? 母さんも父さんも紗弥の事気に入ってるんだから」


「にゃ! にゃ~!」


「チャコもだってよ」


「高志……うん……ありがと、やっぱり私……高志に甘えてばっかだね」


 高志は、まだ悲しそうな表情でそんな事を言う紗弥の手を握った。

 紗弥は突然の事で驚き、顔を赤らめる。


「た、高志? どうしたの?」


「いや……あの……良いって言ったろ? 甘えても……」


「………そうだったね……じゃあ、甘える」


 紗弥はそう言うと、高志の胸に顔を埋めて、高志のお腹に手を回す。


「ぎゅって……してくれるよね?」


「……うん」


 高志はそう言って、紗弥の体を抱きしめる。

 紗弥の体温と心臓の音を感じながら、高志は黙って紗弥を抱きしめる。

 やっぱり、紗弥は甘えるのが上手いと感じながら、高志は紗弥の気が済むまでこのままでいようと決意する。


「ありがと……高志はホント優しいね」


「紗弥にだけな…」


「あ、今のちょっとドキッとした」


「実際事実だよ、紗弥以外にこんなことは絶対しない」


 数分間抱き合ったのち、二人は離れた。

 それでも、手だけは話さず、握ったままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る