第25話
*
「何が考えさせてくださいだよ」
「し、仕方ねーだろ……俺はあの子の事を全く知らないんだから…」
「お前、俺が相談したときなんて言ったよ? 可愛いんだからとりあえず付き合っておけ、みたいな事言わなかったか?」
「実際告られると戸惑うもんだな……すまん」
高志と優一は、現在帰宅途中だった。
まさかの優一のラブレターが本物だった事が発覚し、優一は一年生の秋村芹那(あきむら せりな)に告白された。
念願の彼女が出来るチャンスだったはずだったのだが、優一は返事を保留してしまった。
「可愛い子だったじゃないか? 小柄で元気も良さそうだ」
「まぁ、そうだけどよ……」
「お前、俺に言わなかったか? はじめは好きじゃ無くても、付き合っていくうちに好きになるかもしれないって」
「い、言ったんだが……う~ん」
隣で眉間にシワを寄せながら、悩む優一に、高志は溜息交じりに話す。
あのときは偉そうに言ったくせに、などと思った高志だったが、なんとなく優一の気持ちもわかるので、高志はそれ以上何も言わなかった。
「でも、お前のあんな姿を見ても好きって言ってくれる子だぞ? 良い子だと思うが」
「まぁ、そうなんだが……なんか引っかかるんだよなぁ……」
「引っかかるってなんだよ…」
そんな事を話しているうちに、優一の降りる駅に到着した。
「じゃあ、また明日なぁ~」
「おう……」
優一は何かを考え込みながら、ゆらゆらと電車を降りていった。
「あいつ、大丈夫かな…」
優一の足取りを心配しつつ、高志も家に帰宅する。
辺りはすっかり暗くなり、時刻は十九時を回っていた。
「ただいま~」
「あ、やっと帰ってきた、おかえり」
高志を出迎えたのは、制服すがたの紗弥だった。
腕にはチャコを抱え、高志を迎える。
(なんだ、この新婚っぽい感じ……)
などと高志は感じながら、紗弥に言う。
「写真が送られて来た時点で、なんとなく察しはついてたけど……なんで居るの?」
「ダメ? ほら、チャコちゃんこんなに可愛くなったわよ」
「にゃ~」
紗弥はそう言いながら、天使の羽を付けたチャコを高志の前に出してくる。
チャコは、前足を動かし、高志の顔に軽く猫パンチをする。
(あ……可愛い……)
高志はそう感じながら、チャコを紗弥から受け取り、頭を撫でる。
「……って、そう言う事じゃなくて、勝手に部屋に入られるのはちょっと……」
「高志のお母さんから良いって言われたのよ」
「………ちなみに、部屋の中とか漁ってないよね?」
「もう、私がそんな女に見える?」
紗弥は高志の言葉に対して、頬を膨らませながら文句を言う。
そんな紗弥の言葉に、高志は紗弥がそんな事をするとは思えないことに気がつく。
「だ、だよな? なら良いけど……」
「うん、あ。でもベッドのマットレスに隠すのは、分かりやすすぎると思うわよ?」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 見てんじゃん! 一番見ちゃダメなやつ見てんじゃん!!」
「だって、チャコちゃんが仕切りにそこの臭い嗅ぐから気になって……やっぱり猫耳好きなんだ……」
「お願いします……もうそれ以上は言わないで下さい……ごめんなさい…」
「別に謝らなくても……男の子はその……しょうがないじゃない?」
「その暖かい目をやめてくれ! なんかすっげー恥ずかしいから!!」
高志達が、玄関でワーワー騒いでいると、リビングから高志の母親がエプロン姿で現れた。
「高志、何玄関で騒いでるの? まったく落ち着きがないんだから」
「母さん、アンタがその元凶なんだよ……」
「にゃ!!」
「そうだなチャコ、お前もだな……」
人の言葉がわかるのか、チャコはタイミング良く鳴き声を上げる。
「なんでも良いけど、もうご飯よ。紗弥ちゃんも食べて行くでしょ?」
「え、良いんですか?」
「えぇ、手伝って貰ったし、お母さんには連絡してあるから」
「ありがとうございます、高志のお母さん」
「まぁ、なんだか娘が出来たみたいだわ~」
いつも以上に楽しそうな母親を見ながら、高志は肩を落とす。
いつの間に、そんなに紗弥の家族と仲良くなったのかなど、色々と疑問があったが、聞くと面倒くさそうなので、高志は何も聞かないことにした。
自分の知らないところで、彼女の母親と自分の母親が仲良くなっている様子に、高志はなんだか外堀から埋めて行かれている気分だった。
*
「へぇ~、そんな事があったんだ」
「あぁ、だから今日はこんな遅くなってさ」
夕食を食べ終えた、高志と紗弥は部屋で二人で話しをしていた。
内容は、今日の手紙の事と優一の告白についてだった。
「それにしても、そんな質の悪い事をする人いるんだ……なんかごめんね」
「いや、紗弥のせいじゃないし、それになんともなかったし」
「でも、この先も同じような事があったらって思うと……」
紗弥は表情を曇らせ、顔を俯かせる。
そんな紗弥に、高志は笑顔で言う。
「大丈夫だって、それにこんな事で別れるとか言わないでくれよ? 母さんも父さんも紗弥の事気に入ってるんだから」
「にゃ! にゃ~!」
「チャコもだってよ」
「高志……うん……ありがと、やっぱり私……高志に甘えてばっかだね」
高志は、まだ悲しそうな表情でそんな事を言う紗弥の手を握った。
紗弥は突然の事で驚き、顔を赤らめる。
「た、高志? どうしたの?」
「いや……あの……良いって言ったろ? 甘えても……」
「………そうだったね……じゃあ、甘える」
紗弥はそう言うと、高志の胸に顔を埋めて、高志のお腹に手を回す。
「ぎゅって……してくれるよね?」
「……うん」
高志はそう言って、紗弥の体を抱きしめる。
紗弥の体温と心臓の音を感じながら、高志は黙って紗弥を抱きしめる。
やっぱり、紗弥は甘えるのが上手いと感じながら、高志は紗弥の気が済むまでこのままでいようと決意する。
「ありがと……高志はホント優しいね」
「紗弥にだけな…」
「あ、今のちょっとドキッとした」
「実際事実だよ、紗弥以外にこんなことは絶対しない」
数分間抱き合ったのち、二人は離れた。
それでも、手だけは話さず、握ったままだった。
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