第21話



「高志? 帰ってきたばっかりで何処にいくの?」


「ちょっと、散歩」


 高志は紗弥からの返信を貰って、すぐに返信を返し、家を出た。

 家を出て一分くらいの場所にある、自動販売機の前。そこで待ち合わせをした。

 お互いの家が近いため、待ち合わせの場所も必然的に近場になる。

 

「お待たせ」


「ん、私も今来たから……」


 紗弥は自販機の前に座り、ペットボトルの飲料水を飲んで待っていた。

 高志はそんな紗弥の隣に立ち、自販機に寄りかかる。


「今日はどうしたんだ? なんかいつもと違ったっていうか……」


「うん……あのさ……」


 紗弥は立ち上がり、高志と同じく自販機に寄りかかる。

 そして、不安そうな表情で言う。


「私って……甘えすぎかな?」


「………は?」


「いや……その……今日、由美華に……」


 紗弥は今日の由美華との会話の一部を高志に話す。

 それを聞いた高志は、深い溜息を吐き、ほっとした様子で紗弥に言う。


「はぁ~、よかった……それで今日の帰りはあんな感じだったんだ……」


「うん……そう言うのって、やり過ぎると……嫌われるらしいし……」


「俺はてっきり、チャコにヤキモチ焼いて、怒ってたのかと思ったよ」


「ヤキモチは焼いたわね、私に全然構ってくれないし」


「あ、焼いてたんだ……」


 紗弥は頬を膨らませながら、高志に文句を言う。

 そんな紗弥を見ながら、高志は紗弥もヤキモチとか焼くんだ、と思いながら横目で頬を膨らませる彼女を見ていた。


「こんな小さい事でヤキモチ焼く女って……面倒だよね……」


「……確かに面倒かもね」


「う……」


「でも、それを承知で付き合ってる訳だし……気にする事無いよ」


 高志は覚えていた、紗弥が部屋で高志に言った言葉を。

 紗弥が自ら言った、自分は面倒臭い女だと言う言葉を。 


「それに、俺もちょっとチャコに構い過ぎてたかもしれないし……」


「高志……」


「それに、いつもの紗弥じゃないと、こっちまで調子狂っちゃうよ」


 高志は笑顔を浮かべながら、紗弥に言う。

 そんな高志の言葉に、紗弥は安心し、いつもの笑顔で高志に言う。


「あ~あ、慣れない事ってするもんじゃないわね~」


 やっといつもの調子に戻った紗弥。

 紗弥は、高志の隣にぴったりとくっつき高志の肩に頭を乗せる。


「今週末は、どうする?」


「行く」


 結局、紗弥の我慢は半日も経たずに終わってしまった。

 その後、そのまま別れようとした高志だったが、紗弥がそれを許さず。

 まだそこまで遅く無いからと、高志の部屋についてきた。


「ただいま~」


「おかえ……あら? 喧嘩してたんじゃないの?」


 帰ると、高志の母親が不思議そうな顔で紗弥を見る。


「喧嘩なんてしてませんよ」


 紗弥は笑顔で高志の母親にそう言い、高志の後に続いて部屋に向かった。 

 部屋には案の定、チャコがベッドの上で眠っており、高志が帰ってきたのに気がつくと、飛び起きて、高志の方にやってきた。


「にゃー」


「ただいま。紗弥に唸るなよ~」


 高志がそう言っている間に、チャコは紗弥を発見し、昨日同様に威嚇を始める。


「シャー!」


「やっぱり、慣れるまでは時間が……って紗弥?!」


 紗弥は威嚇するチャコの首根っこわ掴み、自分の膝にチャコを乗せる。

 もちろんチャコは、大人しくなどしている訳も無く、大暴れだった。 

 しかし、そんなチャコを紗弥は押さえつけながら、頭を撫でる。


「はいはい、そんなに暴れないでね~」


「にゃ! にゃ-!!」


「大丈夫よ、恐くないわよ~」


 そう言いながら、紗弥はチャコを優しく撫で続ける。


「シャー!! ゴロゴロ……」


「お前は、怒ってんのか? それともじゃれてんのか?」


 撫で続ける事約数分。

 チャコは、紗弥にお腹を撫でられ、怒りながらも紗弥にじゃれていた。

 そして、更に撫で続けること数分……。


「にゃ~、ゴロゴロ……」


「はいはい、良い子ね~」


「懐いたな……」


 チャコは紗弥に懐いていた。

 先ほどまで、唸って居たのが嘘のように甘い鳴き声を出し、紗弥の膝の上で紗弥の手を追いかけて遊んでいる。


「可愛い~、ちゃんと懐くのね」


「やっぱり昨日は警戒心が合ったんじゃ無いか?」


 隣でチャコと戯れる紗弥を見ながら、高志は言う。


「チャコ~こっちにもこ~い」


 そう言って、高志はチャコに手を差し出すが、チャコは紗弥に夢中で気がつかない。

 昨日はあんなにも懐いて居たのに、なんだか疎外感を覚える高志。


「チャコちゃ~ん、ほ~ら気持ちいい?」


「ゴロゴロ~」


 紗弥はチャコの喉を撫でながら、チャコに向かって言う。

 チャコは気持ちよさそうに目を細め、喉をならす。


「なぁ、紗弥…そろそろ俺にも触らせ……」


「まだ、もうちょっと。ね~チャコちゃ~ん」


「にゃ!」


「う~チャコ……」


 チャコを紗弥に取られ、高志はなんだか複雑な気分だった。

 昨日の紗弥もこんな感じだったのかな? 

 なんて思いながら、高志は溜息を吐きスマホを弄る。

 すると、それを見た紗弥がチャコを抱きかかえたまま、高志の膝の上に頭を乗せてきた。


「え?! きゅ、急に何?」


「チャコちゃん取っちゃたから、代わり私を撫でて良いよ」


「は、はぁ?」


「あ、それともにゃ~って言った方が良い?」


「あ、あのなぁ……」


 チャコが紗弥に甘え、紗弥が高志に甘えると言う構図になり、高志はなんだか大きな猫が一匹増えたような気分だった。

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