第20話
*
その日の帰り道、高志は隣を歩く紗弥に違和感を感じていた。
「あのさ……」
「な、なに?」
「手、繋がなくて良いの?」
そう、いつもなら自然な流れで、紗弥は高志の手を握ってくるのだが、今日に限ってそれが無い。
しかし、紗弥はなんだか必死に何かを我慢するように、下唇を噛みしめながら、高志の隣を歩いていた。
そんな紗弥に、流石の高志も気がつき、何かあったのでは無いかと尋ねる。
「つ……繋ぎたいの? そ、そんなに……私と手を繋ぎたいの?」
「えっと……嫌なら別に……」
「い、嫌とは言ってない……」
「じゃあ……」
高志は煮え切らない紗弥の手を自分から握る。
こんなことは初めてだった。
初めて高志から、手を握られ紗弥は凄く嬉しかった。
しかし、今日の由美華との会話を思い出す。
「しょ、しょうが…ないなぁ~……い、家に着くまでだよ? それ以上は離しちゃうから……」
「えっと……それはいつも通りなのでは?」
高志は、今日の優一との会話を思い出し、こうして自分から手を握ったのだった。
しかし、紗弥はやはりどこかおかしい、やっぱりチャコに構い過ぎて怒っているのだろうか?
なんて事を高志は考えながら、それとなく探りを入れてみる事にした。
「あ、あのさ……今週末、どこか行かないか?」
それは、高志からのデートのお誘いだった。
紗弥は更に嬉しくなった。
いつも以上に積極的で、なんだかいつもの高志では無いかのようだった。
しかし、そこで紗弥は由美華の言葉を思いだす。
「ご、ごめん……こ、今週末は……忙しいの……」
もちろん忙しくなど無い、忙しかったとしても、高志とのデートなら、なんとか都合をつけて駆けつける思いの紗弥だが、今日は違う。
「そ、そっか……残念だな…」
高志は苦い笑みを浮かべながら、がっかりそうにそう言った。
そんな高志の姿を見て、紗弥は胸が張り裂けそうな思いだった。
しかし、これも高志に嫌われない為、あんまり甘え過ぎるのは良くないと言う、由美華からの助言を聞き、紗弥は必死で高志に甘えるのを堪えていた。
(やっぱり、怒ってるのかな? 昨日確かに紗弥を放って、チャコばっかりに夢中だったし……)
高志はそんな事を考えながら、再び優一の言葉を思い出す。
『………女って生き物は、好きな人の一番でいたいんだから』
優一の言った事なので、あまり気にするつもりは無かったが、なんだかそんな気がしてきてしまった。
「さ、紗弥……今日は家寄っていくか?」
「ご、ごめん……今日は真っ直ぐ帰るわ……」
「そ、そっか…」
本当は行きたかった。
高志の部屋には、チャコがいる。
紗弥が現状のライバルだと思っている子猫がいる。
本当なら、昨日のリベンジでチャコから高志を取り返したい。
しかし、紗弥は決めたのだ、今日はグッ我慢しようと。
「じゃ、じゃあ……」
「う、うん……また明日…」
紗弥と高志はお互い気まずい状況のまま分かれた。
高志は、チャコの事で紗弥を怒らせてしまったと思い。
紗弥は、甘えすぎている自分を変えようと思い。
それぞれ自宅に帰宅する。
「ただいま~」
「にゃー」
「チャコ、ただいま」
玄関を開けた高志を迎えたのは、チャコだった。
チャコは二階から、一回の玄関に向かって駆け下りてきて、高志の足に体を擦りつける。
「チャコ、俺さー紗弥を怒らせたかも……」
「にゃーにゃー」
「え? 喧嘩したの?」
「母さん、音も無く背後に立つのやめてくれよ……」
チャコを抱きかかえながら、チャコに話し掛けていると、後ろから高志の母親が高志に尋ねて来る。
「あんた、紗弥ちゃんと喧嘩したの!? さっさと土下座して謝って来なさい!」
「余計なお世話だよ! 全く……」
高志は母親にそう言い、チャコを抱いて自室に戻って行く。
「ゴロゴロ……」
「チャコ……紗弥、お前ににヤキモチ焼いたのかなぁ……」
膝の上で喉を鳴らすチャコに、高志はそう尋ねる。
返事が帰ってくる訳でも無いが、なんとなくチャコに語りかけてしまう高志。
紗弥の性格上、動物にヤキモチを焼くなんて思えない高志だったが、それ以外に、今日の紗弥の態度を説明出来ない。
「連絡……してみるか……」
「にゃ!」
「お前もそれが良いと思うか?」
「シャー!!」
「なんで怒ってんだ?」
何故かスマホに威嚇を開始するチャコ、そんなチャコの頭を撫でてなだめながら、高志は紗弥にメインでメッセージを送る。
一方の紗弥は、家に帰った瞬間、すぐに自室に向かい、ベッドに倒れ込んでいた。
「あぁ……辛い……」
高志に甘える事が出来ず、紗弥は寂しさを感じていた。
かろうじて手を握れたが、紗弥はそれだけでは足りない。
「今週末も行きたかったなぁ……」
デートにも誘ってくれたのに、断ってしまった紗弥。
これでいいのか、ずっと考えていた。
今までは押しまくってばかりだったから、引くという事をしてみた紗弥。
しかし、それは必要だったのだろうか?
「なんか……今日は積極的だったなぁ……高志」
自分から手を握ろうと言ったり、デートに誘って来たりと、今日の高志は紗弥に対して積極的だった。
心配する必要など無かったのでは無いかと思うほどに。
「……電話くらいなら……」
紗弥がそう思っていた時だった、紗弥のスマホが震え、ディスプレイにメッセージの受信を伝える通知が表示される。
「高志!!」
相手が高志と気がつき、紗弥はベッドから勢いよく起き上がり、スマホを見る。
高志からのメッセージにはこう書かれていた。
『もしかして、怒ってる?』
そのメッセージに、紗弥はすぐさま返事を打つ。
『怒ってないよ、どうして?』
返事はすぐに帰ってきた。
高志にしては珍しいほどに。
『今日、手も紗弥から繋いで来なかったし、なんか表情もいつもと違ったから、怒ってるのかと思って…』
紗弥は逆に高志が怒っていないか心配だった。
今日の自分の態度や、今まで甘えすぎで、愛想を尽かしているのでは無いかと心配になった。
紗弥は思わず、高志にこう返していた。
『今から会える?』
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