第17話

 時間にしすると、数秒の事だったが、高志からしたら数時間にも感じられる時間だった。

 そろそろ良いだろうと思い、高志は手を紗弥から話す。

 自分でも顔が赤くなっているとわかるほど、高志は顔に熱を感じた。

 しかし、一方の紗弥は一向に手を離してくれない。


「さ、紗弥……そろそろ良いか?」


「ん……もうちょい……」


「いや、ここ外だし……誰かに見られたら……」


 高志はこの間の部屋での一件を思い出す。

 こんな状況をまたしても身内や知り合いに見られたらと思うと、高志は更に顔が赤くなるのを感じた。


「……わかった」


 ようやく高志から離れる紗弥。

 しかし、右手はしっかりと誠実の手を握っており、これはこれで恥ずかしかった。


「じゃあ、そろそろ行くね」


「………ねぇ、もうちょっとだけ一緒に居たいって言ったら……怒る?」


 紗弥は高志の手を握ったまま、顔を赤く染め、俯きぎみに高志に尋ねる。

 確かに、今あの家には帰りたくないだろう、帰ったところで、あの父親から色々と質問攻めに合うのが落ちだ。

 色々あって疲れているのは、紗弥も同じだろうと思い、高志は自分の家で少し休んで貰うことにした。


「俺の家来るか?」


「行く」


「即答ですか…」


 高志はそのまま手を握って、紗弥を家まで連れて行く。

 昨日の出来事のおかげで、高志は既に紗弥との関係が親にバレている為、紗弥を家に連れて行くことに抵抗は無かった。


「ただいま~」


「高志、おかえ……え? えっと……」


 家に帰り、玄関のドアを開けた高志を出迎えたのは、エプロン姿の母だった。

 高志の母は、紗弥の姿を見るとどこか気まずいそうな表情で視線を泳がせ、言葉を詰まらせた。


「あ、こんばんわ。私、高志君と…その……お付き合いさせて貰ってます。宮岡紗弥ともうします」


「ちょっと、事情があって家に呼んだんだけど、良いよな?」


 礼儀他正しく挨拶する紗弥。

 しかし、昨日の事もあってか、一瞬言葉を詰まらせてしまった。

 高志の母は、慌てた様子で挨拶を返した。


「あ、あぁ…そ、そう! え、遠慮しなくて良いのよ? ゆっくっりしていって頂戴!」


「すいません、お邪魔します」


 そう言って、紗弥が靴を脱いでいると、リビングの方から、上下スウェット姿の高志の父が現れた。


「なんだ、お客様……か?」


 玄関に出てきた高志の父は、紗弥の顔を見て動きを止めた。

 紗弥も高志の父の姿に気がつき、再び挨拶をする。


「あ、初めまして。私、高志君とお付き合いさせてもらっている、宮岡沙耶と申します」 


「あ、えっと……高志の父です」


 紗弥の突然の訪問に驚いたのか、高志の父はなんと言って良いかわからず、短くそう答える。

 これ以上ここに居るのは、色々と面倒そうだと感じ、高志は紗弥を連れて二階の自分の部屋に向かう。

 階段を上がっている途中、玄関から高志の両親の興奮した話し声が聞こえてきた。


「あ、あなた! なんでスウェットなのよ!!」


「しょ、しょうがないじゃないか! まさか高志がこんな時間に彼女を連れてくるなんて思わないし……」


「やっぱり可愛い子だったわ~」


「高志の奴……一体どんな手を使って落としたんだ?」


「そんなの知らないわよ! でも、これを逃したら、あの子にあんな可愛い彼女が出来る事は一生無いわね」


「確かに」


(確かにじゃねーよ!)


 そう心の中で思いながら、高志は部屋のドアを開けて紗弥を部屋に入れる。

 昨日、紗弥が来たときとあまり変わっては居ないので、部屋はある程度綺麗なままだった。


「疲れただろ? リラックスしてろよ、俺何か飲み物持ってくるから」


「うん、ありがと。じゃあ遠慮なく……」


 そう言って紗弥は、高志ベッドに腰を下ろした。

 高志は未だに玄関先で話しを続ける両親の元に向かい。

 溜息交じりに両親に言った。


「うるせーよ」


「あら高志、どうしたの? 飲み物だったら私が持って行ってあげあるわよ!」


「昨日の事もあるから、俺が持って行くよ」


「何言ってるの! こんな時間に若い男女が密室で二人っきりなんて……まだ高志には早すぎるわ!」


「母さん、ちょっとうるさい」


「母さんの言うとおりだぞ高志」


「父さんはなんで着替えてんだよ……」


 いつの間に着替えたのか、高志の父は今から外出でもするかのような、服装に着替えていた。

 やっぱり面倒になった、そう思った高志は、溜息を吐いてリビングに向かい、キッチンの冷蔵庫から飲み物をを取って、再び二階の自分の部屋に戻ろうとする。


「高志! 高校生らしい、健全なお付き合いをするのよ!」


「そうだぞ! やるとしてもちゃんとゴ…グフッ!」


「何言ってるのよお父さん! 有りでも無しでもダメよ!」


「良いからもう黙れよ!」


 階段下で騒ぐ両親を高志は怒鳴り、そのまま部屋に戻って行く。

 ドアを開けると、紗弥がスマホを弄って待っていた。


「おかえり、親子仲良いんだね」


「うるさいだけだよ……って聞こえてた?」


「ばっちり」


 高志はまたしても羞恥心で、顔を赤く染める。

 飲み物を乗せたお盆を机に置き、高志は紗弥の隣に腰を下ろした。

 すると、紗弥はいつものように、高志にぴったりとくっつき、高志を見ながら尋ねる。


「私とそういう事……したい?」


 紗弥に聞かれ、高志は更に顔を赤く染める。

 さっきの両親の会話の内容から、高志はそういう事の意味を理解する。

 なんて答えて良いのか、高志はわからなかった。

 正直ちょっと妄想してしまい、今は立ち上がる事が出来なくなってしまった。


「したくない?」


「う……」


 つい数十分前まで触れたていた、紗弥の感触を高志は思い出してしまった。

 この状況は非常にまずかった。

 密室で二人きり、しかもデートが終わって一悶着あったが、今は結構良い雰囲気だ。

 しかし、高志は……。


「お、俺は……その……紗弥をまだちゃんと好きになって無いから……そういう事はしちゃ行けないと思う……そ、それに……ちゃんと好きになってからした方が……お互い良いと思う……」


 自分は何を言っているのだろう?

 高志はそんな思いでいっぱいだった。

 しかし、紗弥はそんな高志を見て、笑みを浮かべながら、高志に抱きついた。


「ウフフ、そっか! じゃあ、何しても高志は私に手を出さないんだよね~」


「ば、ばか! やめろ! 今は色々とヤバいから!」


「いや、高志がそんなに私の事を思ってくれてるなんて、思わなかったよ~」


「お願いだから、離れてくれ!」


「ねぇ、高志……」


 高志が抱きつく紗弥を引きはがそうとしていると、急に大人しくなった紗弥が、優しい笑顔をで高志の方を真っ直ぐ見て言う。


「大好きだよ」


 その言葉に、高志は今日一番ドキドキした。

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