第7話

 それはさておき、高志は紗弥の誘いを断る事が出来なくなってしまった。

 まさか弁当を作って作ってきてくれているなんて、高志は想像が出来ず、高志は別々にお昼を食べるという選択肢を諦め、紗弥と一緒に食事を取る事にした。


(わざわざ用意してくれたのに、断るのも悪いしな……)


「じゃあ、行こっか」


「え? どこに?」


 教室で食べるとばかり思っていた高志は、紗弥の言葉に首をかしげる。


「二人になれるとこ」


 高志の問いに、紗弥はそう答え、高志の手をとりその場所まで歩いて行く。

 到着したのは、学校の屋上だった。

 昼の屋上はあまり生徒は立ち寄らない。

 食堂や購買などに人が集中する為、屋上には誰も来ないのだ。


「ここなら、二人で食べれるでしょ?」


「まぁ、確かに……他人の視線が無いのは良いけど」


 教室で、クラスの皆にガン見されながら食べるよりは良いかと、高志は良い方に考える。

 お昼休みに可愛い彼女と二人でお昼。

 そんな、男子高校生ならば、誰もが夢見るようなシチュエーションのはずなのに、

 高志は不安と期待が入り交じったような、複雑な心境だった。


「隣、座んなよ」


「あ、あぁ……」


 屋上のフェンスを背にして、高志と紗弥は腰を下ろす。

 紗弥は高志に弁当を渡し、高志はその弁当を恐る恐る開ける。

 弁当の中身は以外と普通だった。

 厚焼きの卵焼きに、ミートボールなど普通に美味しそうだった。


「いただきます」


「あ、じゃあ、俺も…いただきます」


 高志は紗弥の弁当に箸を入れ、卵焼きを取り、口に運ぶ。


「あ、美味しい」


「ほんと? ありがと」


 高志の食べる様子を見ていた紗弥は柔らかい笑みを浮かべて、高志にそう言う。


「宮岡って、料理出来たんだな……」


「まぁね、ママに教えてもらったのよ。嫁に行けなくなるから、料理くらいは出来ておいた方が良いって」


「これだけ出来れば、十分だろ。本当に美味いよ」


「じゃあ、嫁にもらってくれる?」


 高志は紗弥のその言葉に、改めてなんで自分の事をそこまで思ってくれるのかを聞いて見ることにした。

 

「あのさ……なんで、俺の為にこんなにしてくれるの? 好きって言われてもなんで好きなのか……その、気になるしさ……俺ってそんなに顔が良いわけでもないし」


 すると、紗弥は空を見上げ何かを考え始める。

 そして、笑みを浮かべながら高志に言う。


「そうだなぁ……やさしくて、一生懸命なところかな?」


「そう言われても、俺と宮岡に接点なんてないだろ?」


「もしかして、私が本当に八重の事好きなのかって、疑ってる?」


 少し不安そうな表情で尋ねてくる紗弥に、高志は無言で頷く。


「だってさ……宮岡可愛いし……それに、モテるし……」


「フフフ、ありがと」


「か、からかうなよ! それに俺は宮岡と昨日まで話した事も無かったんだぞ? それなのに、急に好きって言われても……」


「信じられないよね……それが普通だよ」


 子供をあやすような感じで、紗弥は高志にそう言う。

 どうしても、昨日のあの告白を信じられない高志は、ここでハッキリさせたかった。

 

「うーん……あんまり言いたくないんだけどな……早すぎるし」


 言いたくないと言うワードに、高志は紗弥を怪しいと思った。

 やっぱり、ただからかって楽しんでいるだけではないのかと思う高志。

 しかし、紗弥は悩んだ末に口を開いた。


「八重はさ……私と初めてあったのっていつだとおもう?」


「初めて会ったの? そんなの高校の入学式じゃないか? 俺もお前も中学違うし……」


「実は、中学時代に一度会ってるんだよ?」


「え……」


 高志は驚いた、一体それはいつなのか、どういった場面だったのか、そもそもこんな可愛い子だったら、忘れるはずなんてない。

 高志は思い出そうと、頭をフル回転させるが全く思い出せない。


「やっぱり覚えてないんだ……」


 高志の様子を見て、紗弥は頬を膨らませて不満そうに呟く。


「あ、いや……人違いとかじゃ……」


「そんなわけありません~、私名前ちゃんと覚えてたし」


 紗弥に言われ、高志はもう一度必死に考える。

 しかし、全く思い出せない。

 思えば中学時代に、こんな可愛い子と出会っていたら、絶対に忘れないだろうと思う誠実だったが、そんな素敵な思い出などは一切無い。


「私さ、中学の時に交通事故にあった事があるのよ」


「交通事故?! 大丈夫だったのか?」


「大丈夫じゃなかったら、今こうしてここには居ないわよ」


「あ、そっか」


 しかし、その話しと高志への告白と、一体何が関係しているのか、高志は全くわからなかった。

 未だに納得の言っていない高志に、紗弥は話しを続ける。


「引かれて、血とかすっごい出てさ……あぁ、もう死ぬんだなって思ったの……でも、そんな時だった、体中痛くて痛くてもう死ぬんだって思ったとき、知らない男の子が、私のところに走って来て、私に言うのよ『大丈夫?! 今救急車を呼ぶから!』って……」


「あ……ま、まさか……」


 高志はここまで言われてようやく気がついた。

 それは高志が中学二年生の時の事だった。

 夏の日差しが暑い日、高志は目の前でひき逃げ事故を目撃してしまった。

 辺りには自分以外に誰もおらず、高志は慌てて引かれた少女に駆け寄ったのを覚えていた。 しかし、当時その少女はショートカットで、しかも血まみれだった為、顔を良く覚えては居なかった。

 あまりの衝撃で、高志は事件の事自体は覚えていたが、少女に関しては全く覚えていなかった。


「ようやく思い出した?」


「もしかして……あのときの女の子?」

 

 高志の言葉に、紗弥は柔らかい笑みを浮かべながら、首を立てに振る。

 

「髪伸ばしたし、あのときの私って血だらけだったから、気がつかないのも無理は無いけど」


「いや……そんな偶然気がつかないって……」


 あの衝撃的な出来事を高志は今でも忘れてはいなかった。

 目の前で事故が起きるなど、想像もできなかったし、その場にいたのは自分だけだったので、忘れられるはずもなかった。


「自分が事故にあった訳でもないのにさ……泣きながらずっと、私に声掛けてくれてたよね?」


「あ、改めて言われると……恥ずかしいんだけど……」

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