A・H風味

 彼は、いつか、七犯をかさね二十年以上、獄中生活を送つてきた。彼はとうに四十をすぎて、どこにでもいる中老人の顔つきとなつていた。刑務所のどこの房にも、工場にも、かならずボスがいて、それぞれのお気に入りのマンジュウを持つていた。彼等はマンジュウを持つことに、地位を確保する見栄と、性欲のバロメーターとを感じ、マンジュウをつくり得ぬ者を甲斐性かいしょうなしと叫んでいた。

 彼は人間の尊厳を守るために、マンジュウを持たず、あえて背を向けてきた。

 マンジュウを持つたら獣以下だ!

 薄暗い牢獄の中で、彼は不貞腐れた顔のまま煙草をもみ消した。

「やあ新入りがきた」

 と、きまり文句のように、在来囚は出迎える。

 彼のもとに少年といつてもよい若い囚人がやつてきた。

 眩しかつた。

 二十歳という年が嘘と思われるくらい子供つぽい。

 厚ぼつたい真つ赤な唇。

 色白で、長い睫毛のある二重瞼が瞬く。

 まるで女のようである。

 かわいいな!

 このとき、彼はごくりと生唾を飲み、心の臓は、どきんどきんと高鳴つた。



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