B・G風味

「おつかれさまでした。かんぱーい!」

 ろばが乾杯の音頭をとりました。

「かんぱーい!」

 猫と犬と雄鶏おんどりもビールの中ジョッキを高らかにあげグラスをぶつけました。

「いやあ、ライヴ後のビールの味は格別なもんだよなあ?」

 と、ベーシストの犬がいいました。

「もう最高だね。ぼくらは今じゃすっかりブレーメンで人気を誇る有名なロック・バンドになった。むかしは、ぜんぜん売れなくて、ぼくらはみんなやせっぽっちで、一個の饅頭をなかよく四等分して食べていたもんさ。あの頃をなつかしく思えるよ」

 と、ドラムスのろばは、しみじみと答えました。

 これを聞いて、猫はにやりと笑いました。

「解散コンサートは、日本の東京ドームがふさわしかろう」猫がいいました。「そこでお別れするのさ」

「そいつは名案だネ」

 と、雄鶏はニヒルな顔で笑いました。

「おい、おい、おまえさんがた、縁起でもないことをいうもんじゃないよ」

 ろばが吠えました。

「バンドを結成して、まだ六年じゃないか」

 犬は唸り声をあげました。

「ジョークだよ、ジョーク」

 と、猫は短い舌でペロペロ舐めて毛づくろいしました。

 雄鶏はトサカをくしでととのえました。「ちょっと酔いがまわっただけサ」

「わははは!」

 四人の音楽師は腹をかかえてげらげら笑いました。

 でも、このとき、お馬鹿なろばとお人好しの犬を差し置いて、ギタリストの猫は虎視眈々と、群鶏一鶴ことヴォーカルの雄鶏は、ひそかにソロデビューを目論んでいました。


 ロック・バンドは永くは続かない。

 偉大なるツートップバンドはその傾向にある。

 ビートルズしかり、キャロルしかり……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る