女王と双子。

尾道 洋

第1章_魔法_


 とある大きな国に囲まれた小さな国の小さな城で双子の兄弟が生まれました。

 兄の名は、ラインフォート・ハインツィオ。 弟の名は、ヘントロート・ハインツィオ。と名付けられた。

 そして、その双子はすくすくと育ちやがて5歳を迎えようとしていた。

 そんなある日、隣国の”アインスライト王国”が軍を率いて攻めてきたのです。双子の父である小さな国の国王は、アインスライト王国のトップである、”リジーワイス・レッド”女王に、説得を試みました。ですが、説得の甲斐も無く双子の父の国王は殺されてしまい、その小さな国を滅ぼしてしまいました。

 双子とその母と数人の使用人は、命からがら怪しげな森へと逃げ込み助かりました。そして、数日が過ぎた頃に母が、疫病にかかりほどなくして亡くなりました。そして、使用人も疫病にかかる者がいたり、精神を病む者もいた。

 それを見た、双子は使用人たちに自由に生きることを命令しました。それを聞いた使用人たちは双子のことを心配しながらも、街のある方角へと歩き始めました。それを見送った双子は、頼れる母も使用人もいないたった二人で森の奥へ奥へと、歩き出しました。

 数時間ほど、歩き続けふと兄のラインフォートが立ち止まり唇を噛み締め手をきつく握りしめこう言いました。

「俺にもっと力があれば、あいつを倒せたのかなぁ…」

 …弟のヘントロートは、何とも言えない顔で何も言わず、ただ、兄の顔を見つめていた。

 そうして、また少し歩き続けていくと、日の暮れはじめた頃に小さな小屋が見えてきました。少し近づいて、良く見てみると玄関の前にある切り株で、フードを目深に被った人が寝ている。

「僕らもここで、休ませてもらおうか。」

「そうだね」

 そして、双子は、その寝ている人の近くによって行き、声を掛けてみたが目を覚ます気配がない。仕方ないと思い、その人の座っている切り株の近くに座り込み、眠りに落ちた。

 その双子が眠りについて数時間後に、切り株に座っていた者が目を覚ました。そして、眠気を覚ますために、立ち上がろうとした時にふと、足元に違和感を感じ下を見ると”人間”が眠っていた、そのフードを被った者は、驚き小屋の屋根まで”飛び上がった”。

「どうして此処に人間が…。」

 そう呟き、屋根から躊躇無く”飛び降りた”。そしてゆっくりと、双子に近付き、そぉっと顔を覗き込んだ。

 すやすやと、警戒心もなく眠っている、双子を見てこれほど小さな人間に警戒する必要は無いと判断し、その双子を軽々と両肩に担ぎ小さな小屋の中に入っていった。

 その後数時間ほど眠っていた双子だったが先に弟のヘントロートが目を覚ました。先に目を覚ましたヘントロートは、先程までいた場所とは全く違うベッドの上にいることに驚き、兄のラインフォートを叩き起こした。

「起きて!!起きて!!起きてよ!ラインフォート!!」

 ラインフォートの首元を掴み、がくがくと激しく揺さぶるヘントロート。その呼びかけに起きているのに声を出せないラインフォートは目を回し始めていた。

 そこに、彼らをここに運んだ張本人が部屋へと入ってきた。それに気付いた彼らは驚きベッドから落ちた。そんな彼らに、フードを被った"人"が

「おいおい、そんなに驚く事は無いだろう、人間。どうしてこんな森の奥にいるのか知らんが、早くお前らの領土へ帰ってくれ。面倒ごとは嫌いなんだ。」

 と言った。

 それを聞いた双子は、顔を見合わせ少し寂しそうな顔をしてこう言った。

「僕らにはもう帰る場所はないんだ……。」

 そう言うと、はぁ…と溜息を吐いて、「……仕方ない…もう外も暗いからな…一日だけだからな…。」と言った。フードの隙間から見えたその人の瞳はとても悲しそうなそれでいて、とても美しい金色の瞳をしていた。

 双子には、一つ気になることがあった。それを弟のヘントロートが、フードを被った者に聞いた。

「どうして、フードをずっと被っているの?」

「…、お前たちに言う必要は無い。」

「どうして?」

 そう言うと、その人は面倒くさいと言わんばかりに溜息を吐いてフードを外した。パサリとフードの外れる音がして、見上げるととても整った顔をした女性が居た。しかし、少し人間とは違うものが”付いていた”。それは…、狼の耳と先程フードの隙間から見えた美しい金色の瞳、極めつけに狼の尻尾。正しく、人外のそれである。それを見た双子は、二人そろって頬を赤く染めた。

 どうやらこの女性は、小さいころに、人間の街に迷い込み、その容姿のせいで、迫害を受けていたようだ。そこから人間を嫌い、この森の奥に住んでいるということだった。名前は、ワーダスと言うらしい。

 そして、ワーダスが部屋から出ていくと、双子も後を追って部屋を出た。

「ここはいったい何処なの?」

そう聞くと、

「お前たちが見つけた小屋の中だよ。」

 ワーダスがそう言うと双子は驚いた顔をして、部屋の中を見渡した。信じられないとワーダスを見つめる。それを見たワーダスは声を上げて、笑い出した。

「アハハハハハ!!!お前たちは、魔法を知らないのかい?アハハ!」

 そう言うと、双子は顔を向かい合わせ、首を傾げた。その反応を見て、さらに笑い出すワーダスにさすがにムカついたのか頬を膨らませる双子。

「アハハ!……あー悪い悪い…へー…魔法を知らないのか…」

笑うのをやめ、少し真剣な顔でそう言うと、

「仕方ない、特別に私の魔法を見せてやるよ。」

 そう言うと、ワーダスはその場で指を鳴らした。すると、どこからか風が吹き周りの”空間”が歪みだした。

「うわぁ!」

双子は、驚き目をきつく閉じた。

「目を開けろ、そして私の魔法をよく見ていろ。」

 双子は、少し怯えながらも目を開いた。するとそこには先程まであった部屋は無くその代わりどこかの小高い丘の上と満天の星空がそこにはあった。双子は驚き、大きく目を見開いた。

「すごーい!」

「これワーダスがやったの!?」

「当たり前だろう。これが、私の得意とする、空間転移の魔法だ。まぁ、ほかにもあるがね。」

「「す、すごい!!」」

 二人が声を揃えてそう言う。その二人を見てワーダスは少しだが笑って見せた。

「僕らも練習すればできるようになるのか?」

 ラインフォートがワーダスに問いかける。

「まぁ、できるんじゃないか?」

 と、言った。

「じゃあ、俺らの師匠になってくれよ!」

 そう言ったラインフォートにワーダスは、真剣な顔をして、

「だめだ。」

 と言ったが双子はここは引けないとばかりにワーダスに言い続けた。

 それは、部屋に戻ってからも続いた。そして、ワーダスはどうしてそんなに魔法を使えるようになりたいのかを聞いたすると、

「母様と、父様の大切な国を取り返したいんだ!」

 そうラインフォートは、言い切った。その後、自分たちの国で起こった事をワーダスに伝えた。

「…人間はホントに愚かだ。だが、魔法は万能ではない。自分を守る力くらいは教えてやるよ。」

「ほんと!?」

「あぁ、だが、魔法を一から学ぶのは、大変だ、___それでもいいのか?」

「もちろんだよ!!」

「「ありがとう!!」」

 双子は満面の笑みでわーダスへお礼を言った、その時双子の小さなお腹からぐぅー…と2つの小さな音が鳴った。

 その音を聞きワーダスが笑いながら台所に入っていくと刃物で何かを切る音が聞こえ双子は気になりワーダスの後を追って台所へと入ると、ワーダスが、”ナニカ”の”ニク”を片手に持っていた。

「どうした、餓鬼ども?」

「そ、その手に持ってるモノは何…?」

 ラインフォートが、涙目になりながらも、ワーダスに聞いた。

「これは鼠だ。お前たちの晩飯だよ。」

「「え…」」

・・・

「できたぞ。」

 ワーダスがそう言うと、双子は、顔を歪ませた、机の上には、先程のネズミのニクが入っているであろう、どす黒い色をした、スープがあり、臭いはドブの臭いがほんのりと香る。

こんなものを食えというのか…。

「そんじゃ、いただきまーす。」

「「……い、いただき…ます…。」

 ワーダスは、おいしそうに食べ始めるが、双子は未だに、スプーンにも手を付けていない。

 すると、それを見かねたワーダスが、自分のスプーンでスープをすくうと、ヘントロートの口へと”押し込んだ”。

「ヘントロート!!!」

 ラインフォートが叫ぶ。すると、ヘントロートの顔は、涙目だったのが、次第に頬を紅潮させとろんと溶けたような笑顔に変わった。

「お、おいしい………!」

 ヘントロートがそう言うと、ラインフォートは、意味が分からないという顔をしていた。

「お前…え、は…?」

 ラインフォートは困惑しているその間にヘントロートは、自分の目の前にあるスープをガツガツと勢いよく口の中にかき込んでいた。それを見たラインフォートは、恐る恐るスプーンに手を伸ばしゆっくりとスープをすくい口元へと近づけ、パクリと一口食べた。その瞬間、目を見開いたと思ったら、

「う、うまい…!」

 こちらも、ガツガツとがっつき始めた。おいしいらしい。

 ネズミのスープを飲み干した双子は、おなかがいっぱいなのか、椅子に座りながら、寝息をたて始めた。

「はぁ…まだまだ子供だな。」

ワーダスはそう言うと、双子を抱え先程まで眠っていた部屋へと連れていき、2人をベッドへと寝かせた____。

 翌朝、先に起きていたワーダスはなかなか起きてこない双子を起こしに部屋の中へと入っていき、何処からか鶏を呼び出し窓から差し込む朝日を見せた。すると、鶏の大きな鳴き声が部屋の中で木霊した。その鳴き声で目を覚ました、双子は寝ぼけながらも、「おはよぅ…」と言った。

「今日から魔法を教えていくわけだが、お前らしっかりついて来いよ!」

「はい!!」

 その日から、双子の特訓が始まった。

 それから数年が過ぎ。双子はもう14歳になる。ワーダスは、相変わらず人間嫌いのままだが…。

 そんなある日、双子が外で作業をしているワーダスの前に立ち、こう言った。

「ワーダス、今まで育ててくれて、本当にありがとう。」

「僕たちがここまで魔法を使えるようになったのは、あなたのおかげだ。」

 双子がそう言うと、ワーダスは、分かっていたかのように頷きこう言った___。

「そうだな、まだまだ修行が足りない気もするが、人間の寿命は短いからな。まぁ…悔いが残らないように____生きろ。」

「本当にありがとう。」

 双子が、そう言い終わると共に"消えた"、ワーダスは、先程まで双子が”立って居た”場所を見つめていた_。

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