浴槽に溶けた私の肌も
乾いた浴槽の中にうずくまって。
胎児のように膝を抱えて。
ああ、栓をきっちりしめてから手足の自由を奪うのを忘れない方がいい。
水を吸った縄はきつく締まっていく。
思った以上に身動きが取れなくなって、驚くかもしれない。
それでも、もう戻ることはできない。
蛇口を捻ったのは、自分でしょう。
縄の処理をしなかったのは間違いだったかもしれない。
縄の繊維が肌を刺して、煩わしくて仕方がない。
だけど今から沈んでいくんだから、もう関係ないでしょう。
ほら、息を止めていられるのも今の内。
ゆっくりと目を開けて。
ぼやけた視界には何も映らない。
この中なら涙だって溶けてしまう。
この縄を抜けようなんて、詰めが甘いのよ。
いつだって願って来たじゃない。
助けになんて誰も来ない。
この冷たい浴槽の中に暖かい手が差し込まれるのを待っていた。
いつまで待っても、そんなものは望めない。
浅はかな希望は、冷たい水の中に溶けていった。
ぐずぐずに溶けてしまった体表、軟化組織はどろどろになってしまった。
髪の毛や爪、骨、それくらいが残っているんじゃないかと思う。
私はこの浴室の天井の上の方からそれを眺めていた。
ずっと冷たい水の中に、漂っている。
水面は静まったまま、波もたてずにただの平坦。
今の私の心みたいに、まっすぐでまっすぐでまっすぐで、ああもうなにものこっていない、の。
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