廊下の冷たい床の上
教室の笑い声が嫌いだったんだ。
君たちが、そこに居るだけなのに痛かったんだよ。
針のむしろ、そんな感じで。
だから、恐くて逃げだしてたんだよねえ。
教室は冷たい場所だと思っていて、そこに自分の場所なんてないと思ってた。
だって、私でなくてもいいわけで、誰でもいいんだもん。その場所で共同生活をするだけで。
そう考えたら逃げるのも簡単だった。
授業と授業の間に、教室から抜け出す。
短い時間なら廊下で、もっと逃げ出したいときは階段の踊り場。止まった時間。
屋上の手前なら、誰も来なかった。冷たい廊下の床に座り込んで、時間が経つのを待った。
待っていればいつか卒業できる。そうやって過ごしていたんだ。
「お前の居場所はここにはないよ、俺たちはこんなに楽しい」
「こんなに楽しいけど、お前とは違うんだ」
そう、聴こえてた。そんなこと、無かったと思うけど。ただの、被害妄想なんだと、分かっていたけど。
教室から聴こえた笑い声が、痛かったのは覚えてる。
君たちは、私のことを覚えているだろうか。
飄々とグループの輪を転々として、気が付いたら教室からいなくなっていた私を。
一体どういう風に見えていたんだろうね。
かくれて生きて、目立たないように、こっそりしていたように、見えたかな。
悪目立ちしていたんじゃないかと、今になって可笑しく思っているよ。
今、私はたくさんの人に囲まれて、なんとなくちょっとは上手に生きられるようになってきたよ。
周囲のみんなに助けてもらって、ここまで来れたよ。やっぱり弱いまんまだけど、なんとかかんとか。ここまで来ちゃった。
あの頃の私を、あの廊下に置いてきてしまっていないか、今でも心配になる。
心に棲んでくれていたらいいんだけど。
抱きしめて上げられたらいいんだけど、ちょっと恥ずかしいから後ろからでもいいかな。
あの頃より、体格もしっかりしたし筋肉もついたんだ。ねえ、多分、ちょっとはあったかいよ。
少しでも、照らせたらいいんだけど。あの頃の、自分ごと。傷も痛みも影も、全部一緒に。
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