「Aの君へ」
Aの君へ
もう久しく顔を見ていない。君は幸せだったんだろうか。
ぼくは、幸せでしたよ。きみを見つけることができて、今ここにいないとしても。
僕の声も届かない、姿も見ることはできないんだけど、君が幸せになることをただ願っている、そんな人間がいたことを、どうか君が忘れないでいてくれたら。
その時ぼくはやっと、救われる気がするんだ。
放課後の教室、きみに出会った。
寂しそうな首筋。薄い肩。
教室のなか、君は孤独。それだけはわかった。
ぼくといっしょ。
愛想笑いでごまかして、
しまをはなれたら、ためいきついて。
女の子は、大変なんですか。
そんなこと、ぼくは知らない。
ただ、君が気になっただけ。
孤独のなかの孤独。わかりやすい表現で。
わたし、がんばってる。
わたし、いいこでしょ。
こうやったら、愛してくれるでしょ。
君はそうやって、虚無をばらまく。
教室のなか、音楽室の床。
僕はそれを拾って集めて、
君をもう一度探した。
きみが作ったキグルミの猫。
脱げるのは、どうやら一人の時だけみたいで
人気のない階段の踊り場。そこで猫を脱いだ君を見つけた。
そうだ。きっかけは、ぼくが君を見つけて放った言葉。
「無理して笑っても、しんどくない? そんな無理しなくても、大丈夫だよ」
大丈夫。君を取って食ったりするやつなんていないさ。ぼくが全部、食い殺してあげるんだから。
君を傷つけようとするんだから、ぼくに食べられても文句なんかないよね。
あれから離れてしまったけど、
あれを後悔したことは一度もないよ。君を嫌いになることも、多分一生ないんだ。だからきみが遠くにいても、どうか幸せに笑ってくれてたらそれで。
本当にそれだけでいいんだ。
どこかで笑ってくれてたら、それだけが望み。
きっかけは、ぼくが君を見つけたこと。
同じ制服を着て、同じ教室にいた。
たったそれだけだったんだけど、
これ以上ないほど、
ぼくの人生を変えたんだ。
君に届くかはわからない。
それでも君に言いたかったんだ。
ありがとう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます