秘密結社のお姉様!?
折上莢
いっかくじゅう編
第1話 貴女を、探していました
味気のない平凡な一日だった。一日の筈だった。
朝、いつものように起きて、朝ご飯を食べて学校へ行った。
昼、友達ととりとめもない話をしながらお昼を食べる。午後の授業はどうしても眠くなって所々記憶がないが、頑張って授業を受けた。
そして、今。
帰路を辿っていると、道端に蹲る女の子を見つけた。
歳は自分と変わらないくらいだろうか。膝に埋められた顔は見えないが、垂れた黒髪は驚くほどやかだ。なんて言うんだっけ、天使のリング?も見える。
だがしかし。一つ、なんとも言えぬ違和感を覚えた。
歳は自分と同じくらいの筈だ。なのに、なのにだ。
「何で着物…?」
薄ピンクの、桜模様の散りばめられた、綺麗な着物を着ていた。
そんな目立つ格好で、こんな所に蹲っているのに他の通行者は気にも留めない。ただ、そこには何も無いかのように通り過ぎていく。
「あ、あのぉ…、大丈夫ですか…?」
着物の女の子はふっと顔を上げると、半分閉じた桃色の瞳に私を映す。
女の子が口を開きかけた瞬間、腹の虫が盛大な音で鳴いた。
ぶわああっと女の子の顔が赤くなっていく。
「…ご飯、食べます?」
私の言葉に、女の子はぎょっと驚き即座に頷いた。
カランコロンと下駄を鳴らし、私の後を付いてくる女の子。
そんな彼女のことなど、誰も認識していないかのように街はいつも通りに活動するのだった。
そんなことがありながらも、一応我が家についた。
「…一人暮らし、ですか?」
女の子が首を傾げながら小さく尋ねてきた。
私は、冷蔵庫の材料で簡単に作ったホットケーキを出しながら答えた。
「…ま、結果そうなっちゃうのかな」
本当なら、この家に住んでいるのは私だけではない。
「両親が海外に仕事に出ちゃっててね。一年に一回は必ず帰ってくる、なんて言ったくせに、結局私たちの事はほったらかし。」
何度も送られてくる、同じような文面の手紙。
仕事が忙しいだの、まだ帰れないだの。
毎回毎回同じ言葉が綴られる文面に、一番悲しんだのは妹の
まだ幼い、私の妹。
「妹も、半年前に出てったし。家には私だけだから、肩張らなくてもいいよ。」
「…そうでしたか。なんか、すいません」
「ううん、いいの。仲良い友達が留学に行っちゃってて、愚痴れる機会なんてなかったから。逆になんかごめんね?」
女の子はふわりと微笑むと、いいえと首を振った。
桜が吹雪く背景が似合いそうな笑顔で。
…いや、違う。本当に、床に桜の花弁が落ちている。
あれ?何でだろう。今は秋だし、桜の花弁なんて…。
「…剣木、梓さん。」
女の子の目が一層桃色に輝いたように見えた。
いや、実際に輝いたのかも知れない。
吸い込まれそうな程綺麗なその瞳と、力強く紡がれた私の名前。
「何で…知って…?」
掠れた声で問うと、彼女は意味ありげに首を傾げ微笑んだ。
そして丁寧に手を合わせ、ホットケーキを食べ始める。
「…おいしい…」
ほわっと幸せそうな顔をする彼女にさっきまでの疑惑が吹っ飛ぶ。そうだよね、表札とかあるし、それでわかったのかも。考えすぎか…。
彼女が黙々と頬張るのを見て、自然と息をついた。
私はホットケーキくらいしか得意料理がないから、美味しくないとか言われたらどうしようかと…。
そんな事を考えてる内に、彼女はホットケーキを食べ切ってしまった。
「おいしかったです」
「それはよかった。はい、紅茶」
コトン、とティーカップをテーブルに置く。
そういえば、まだ名前聞いてなかったな。
「名前は、なんて言うの?」
女の子はふっと顔を上げ、数秒私を見つめ目を細めた。
「
千春、と口の中で小さく反復する。
桜の着物を纏った彼女に、ぴったりの名前だと思った。あと何故か、桜の花弁は未だ落ちてるし。
「…これ、千春の?」
問題の花弁を一つ、拾い上げる。
千春はティーカップを口につけたまま固まった。
目が泳いでる。わかりやすく動揺していた。
「あ、いえ、その…家に桜の花びらを飾っていまして。多分、それが服に付いてきてしまったのでは無いかと…すみません。」
あぁ、成る程。確かに有り得る。それだけ桜が好きなんだろうなぁ。
「大丈夫。今時桜なんて珍しいから気になっただけ。桜の花びら飾ってるんだ。珍しいね。見てみたいな」
何気なくそんな事を呟くと、千春は人が変わったように勢いよく私の手を包み込むように掴んだ。
「是非!是非いらしてください!」
キラキラと私の名前を呟いた時とは別の輝きを宿す桃色の瞳。
戸惑いながらも、こくこくと首を縦に振った。
お淑やかな子だと思ったが、人は見かけによらないってこういうことか。
「そう言えば、千春は、どうしてあんな道端で蹲っていたの?」
輝いていた瞳がぴしりと固まった。
そしてまた、目が泳ぎ始める。
随分表情変化の激しい子だなぁ…。
「あぅ、えっと、あのー…」
何故だろう、最初ここに来た時は微笑んだりするだけで、こんなにあからさまには表情が変わらなかったのに。
心を開いてくれた、のかな?それはそれで嬉しいけど…。
すると彼女は、諦めたように溜息を吐き、私に向き直った。
「貴女を、探していました」
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