タマゴ/7
金曜夜からの正詠先生ドキドキ勉強会で、まさかここまで疲れるとは思わなかった。
結局深夜近くまで行われた勉強会は、遥香の電池切れで幕を降ろした。とりあえず遥香をベッドで寝かせて、僕と正詠は床に布団を敷いて休んだ。
朝は部活の朝練に慣れてる二人に起こされた。
「ねみぃよ……」
「おばさんがご飯出来てるってさ」
「ほら、早く立て」
二人に引きずられるように階段を降りて居間に連れていかれた。
「あら、悪いわねぇ」
「いえ、当然のことです」
正詠が僕の頭を一回引っ叩く。
「二人ともパンでいい?」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとーおばさん」
「一気に家族が増えたみたいだわー」
本当の息子には向けない笑みを彼らに向け、母は上機嫌で朝食を準備し始める。といってもほとんど出来ているのかパンをトースターに入れて、スクランブルエッグと焼きソーセージを皿に載せて出すだけだ。
「おはようーお母さん」
「あら、愛華も起きたの? すぐにご飯食べる?」
「もうちょっとあとで食べるー。あ、正詠さんと遥香ちゃん、おはよー」
「おはよう」
「おはよー愛華ちゃん」
トーストができると、僕らは無言でそれをもそもそと食べる。土曜の朝は特に面白いバラエティーはなく、ニュース番組をだらだらと見ていた。
「お、テニスの相棒ゲームだ」
テレビには相棒と一緒にテニスをしている様子が映っていた。
「っておいおい。これ、玉が燃えてるぞ」
「VRだからな。多分玉もバーチャルだ。火に関してはどっちかの選手がスキルを使ったんだろ」
まさに漫画の中の世界だった。玉が見るからに巨大化したり、地面に付いた瞬間爆発したり。
そしてテニスプレイヤーの近くには常にホログラムが表示されていて、事あるごとにスキル名のようなものを叫んでいる。
「ああやって相棒のスキルを使いながら戦うんだ。ただスキルの使用回数は相棒の技力で決まる。ここぞというときに一気に使うもあり、少しずつ使ってペースを作るもよし、だ」
最終的には海外プレイヤーの猛烈なスマッシュ(というより雷みたいな早さのスマッシュ)が決まり、ゲームセットとなった。
「相棒ゲーム怖ぇー」
「シミュレーション……バディタクティクスってやつは、もっと凄いぞ。人間メインじゃなくて相棒メインだからな」
「まぁやることないから良いよ、別に」
「残念ながら授業でやるぞ。体育の時間にな」
「うちの学校にそんな施設あんのかよ」
「お前……それも知らないのか? うちは新しいもの好きの校長のおかげで、最新のVR施設が地下に二面もあるんだぞ」
全くもって存じ上げませんでした。
それにしても正詠のやつ、随分と相棒に関して詳しいな。あんまりゲームとかやらないのに。
「正詠は相棒ゲーム好きなのか?」
「好きってお前……お前から誘ってきたんじゃないか、小さい頃に。いつか一緒にバディタクティクスで戦おうって」
「えーっと……」
全然記憶にないな。
「ねぇ、にぃにぃ」
急に愛華が話題に入ってきた。
にぃにぃ、なんてまるで猫を呼ぶようだからやめてほしいなとも思ったが、可愛い妹だからそこは言わないでおいた。
「今日どこも行くとこないなら買い物付き合ってよ!」
「え、あぁ……って今は正詠と遥香もいるしなぁ」
ちらりと二人を見る。
「行ってこいよ太陽。可愛い子とデートできるなんて、あと十年はないぞ」
「そうそう。そのためには早く準備しなさい。さっさとシャワー浴びなさい。さっさと引っ込みなさい」
「けっ。お前たちはどうするんだよ」
「俺らは片付け手伝っておいとまする」
「そっか。じゃあシャワー浴びるかー」
ぼりぼりと頭を掻いて浴室へと足を向けた。
***
太陽が居間から出るのを見届けると、正詠と遥香は細く息を吐いた。
「すまんな、愛華。まさかあそこまで忘れてるとは思わなかった」
そんな言葉をかけられた愛華は冷たい瞳を彼に返す。
「いいんです。でも……なるべくにぃには近づかないでくださいね、二人とも」
「愛華ちゃん……」
「にぃがいないときにちゃん付けなんてやめてよ、気持ち悪い。仲良しのフリするのも疲れるんですから」
今までの柔和な雰囲気などどこ吹く風か。愛華は性格が変わったのではないかというほど、辛辣な言葉を吐き散らす。
「愛華! 太陽の友達になんてこと言うの!」
流石に母が口を出すが、それを鼻で笑い、愛華は自室へと戻っていった。
「ごめんなさいね。あなた達は何も悪くないのに」
太陽の母は困ったような笑みを彼らに向けた。
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