第12話

あれほど大切だと思っていた

あの場所から離れて

時が経てば経つほど

寂しくて悲しくなると思っていたのに


ある日突然

寂しさが薄らいで

悲しみが離れていって

その場所に自分がいないこと

その場所を想わなくなること

そんなことに違和感を覚えなくなった


日常もルールも常識も

まるっきり変わってしまったはずなのに

それらに染まり始めた自分がいた


私にとってのあの場所の、比重か何かが

すっ っと減った感覚が

脳に靄がかかったように

不明瞭ながらに確かに解った


その場所が私にとって

もはやどれほど大切だったか解らなくなった

そこは純粋に私の過去となり

それには何の感情も伴わなくなった


今ではもう

ごくたまに起こる

私とこの場所との雑音のような

バグのようなブレを感じたときにだけ

その過去が頭の奥の奥で瞬く


それがどういうことなのか

解るようで解らない


大切な何かは本当に大切なのか


それくらいの疑問と異音を覚えるくらいの

些細なことのようで重要なのか

重要なことのようで些細なのか

やっぱり解らない


その程度の何かが

この場所を離れる私に降り注いだ

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