VRMMO3.14事変~刹那と戦風~

猫雅

第1話 憧れを持って、君を…

最近、主流になってきたVRMMORPG。その中の一つ。

 

 セブンス ゲート オンライン。通称、SGOもしくはナナオ。


完全オリジナル神話と、世界観が売りである。神話好きにはたまらん話も

 到る所に盛り込まれ、割と多くのプレイヤーに愛されている。と、思う。


今、有給休暇を取って俺は日頃の疲れを癒すべく、

 サブキャラで初心者~中堅までが集まる、

 初期フィールドの城下町の広場を散歩している。

…優秀なAIなどが登場する他のVRMMOと違い、ナナオは其処の所は微妙だ。

 NPCとの自然な会話なぞはまず、期待出来ない。


軽く溜息を一つ吐き、周囲を見回す。白いお髭を蓄えたボテ腹王のおわすお城から

 真っ直ぐに伸びた大通りには、中々に見事な木が立ち並び、露天も負けじと並ぶ。

 行き交う人々はNPCが大半に思えるが、実はほぼプレイヤーという盛況ぶり。


ソレもその筈、近日、超大型アップデートが来るという事で、復帰者や新規が多い。

 PT募集もいつになく活気に満ち溢れてい…あー。

アサシン娘がPT募集出してるよ。アサはソロ職だってのに…。

 ナナオにおいてアサシンは不遇職である。というかPT戦闘に向いて無い。

 単体瞬間火力は凄まじいが、耐久力が極端に低く、また継続力に欠ける。

同じ火力職なら、MP回復スキル持ちのウォーロックの軍配があがるわけだ。

 単体・範囲両方兼ね備え、尚且つ、浮遊スキルまであるからな。仕方無い。


黒い髪が後頭部で纏められ…ポニテだな。服装的にはアサシンというよりも忍者か。

 …そういや次のアプデで、待望のアサシン上位職【忍】が来るんだっけか。

 だが、一つのサーバーに一つきりの超レア職だ。

 見た所、40前後の彼女には厳しい所だ。


そのまま十分程、忍者の格好したアサシン娘を観察していると、面白い事に

 時々アクションを起す。声をかけてみようと思い決めて、口を開く。

だが、声が出ずに池から餌を欲しがる鯉のようにパクパクと、動くだけ。

 不遇職というのを理解しているのだろう。


俺は、サブキャラのまま、近場の露天でコーヒーのようなモノを二つ買い、

 口をパクパクさせている鯉に近寄り、話しかけてみた。


 「やー。はじめま。PT募集してんの? 行き先は?」


ん? 何か、目を丸くして、口をパクパク…まさに鯉。

 そんなアサシン娘にコーヒーを手渡し、隣にンコ座り。


 「もっかして、PT募集初めてとか?」


図星のようだ。顔を真っ赤にしながら、コーヒー握り締めて頷いた。

 当然ながら紙コップなので中身が溢れて

 あちゃちゃちゃちゃ!をやっちまうわけで。…ドジッ娘?


 「俺は、ナッセってんだ。クラスは騎士。Lvは45」

 「わ、わわ私は、戦に風と書いてソヨカゼ。クラスはアサシン。

   レ…Lvは41」

 「お、近いね!で、行き先は?」

 「イ、息吹装備が…欲しくて、その」


コミュ症?何か空気がそのなんつーか、会話し難いつーか、うんまぁ。

 息吹ったら40から受注可能なわりと難易度高めのクエストだな。

条件は、ソロorペア。懐かしいなソロで何度も挑んだもんだ。


 「OK、息吹な! 良し取りにいきますかい?」

 「え? いいの? でもその私、その…」

 「アサシンだから…か?」


かー…どいつもこいつも、悪い部分ばっかみて長所を見やしねぇ。

 俺のギルドの連中もそいや、のきなみこの症状だったなぁ。

軽く肩をポンと叩き、アサシンの長所と立ち回りを伝える。


 「な、成程」

 「特に騎士との相性なんざ抜群だ。論より証拠、さぁいこうか?」

 「あ、そ、その…」


両手を後頭部に当ててもっさり動作で歩こうとする俺に、

 ソヨカゼは、頭を下げて礼を言ってきた。

どう見ても初心者だしな。先輩アサシンとして優しくしてやらんとねー。


――――――――― クレセント森林――――――――


さて、クエも受けたし準備も万端。と、

 足取り軽く三日月の形をした森へとやってきた。

この森の奥に…と、早速のお出迎えご苦労さんと。


  「ナッセさん、前方の茂み左右に、モンスターが4体程、潜んでます」

  「お、看破スキルあげてんのな? そいつぁイイモンだ」

  「いや、ではなくて…」

  「んじゃま、かるーくお掃除しますかね」


 俺だけ、左右の茂みに挟みこまれる位置に走り寄り、

  騎士スキル、シールドレゾナンスを使用。

 名前は格好いいが、単純に剣で盾をシバいて音を出すだけなのだ。

  が、ヘイトを集めるのに特化した優秀なスキル。

 周囲の空間10m程に波が生じ、茂みの中に隠れていた敵のヘイトを全て稼いだ。


 その瞬間、青みがかったふっさふさの銀色毛並み。

  フォレストウルフLv48×4が飛び掛ってくる。

  右側はシールドバッシュで弾きつつ、スタン。 左側はソヨカゼが背後から

  バックスタブで一撃で倒しつつ、残り一体をオーバーキル。

 敵はLv的には格上だが、そもにアサシンは格上を倒せる性能なんだよな。

  Lv差補正無視のクリティカル多段攻撃にハイドアタックと。

  何より、パッシブで質量を伴った残像でもでるんじゃねーかってぐらいに

  移動速度をカチ上げられる為、回避が容易い。


  「GJ!」

  「いや、君がタゲを維持していてくれるから、こうまで容易い」

  「よしんじゃ両方GJってことだな!」

  「…」


 だんまりだと!? 俺なんか変な事いった!? 扱いにくいなこの子。

  と、なんとか取り付く島を見つけようと足掻いてみるが中々難しい。

 幾度か、戦闘を済ましていく内に、通りがかった大樹の陰に小さな泉が見えた。

  そこへソヨカゼが視線をチラチラソワソワ。 …なんだ?


  「あ、あの。ナッセ、す、少し時間を貰って良いだろうか?」

  「お、おう。構わんが…」

  「か、かたじけない」


 というと、アサシンのアクティブスキル、

  高速移動でシュバッと消え…水場、ソワソワして…ああ、糞か。

 そういやこのゲーム何故か生理現象あんだよな。女性プレイヤーなんぞ

  あの日まであるらしく、かなりしんどいと、不評らしい。

 

 まぁ、乙女ちゃんでもトイレなきゃ野糞の一つもするわな!

  と、一人頷きつつ、彼女の帰りを待つ事5分程。


  「ま、またせた」

  「いいってことよ! 糞の一つや二つ誰でもすらぁな!」

  「…は?」

  「ちゃんと拭いたか? いや、水で洗ったんか。

    サイズはギガ盛りかー結構ながかったしおべぁぁあああっ!?」


 瞬間、俺の顔面にソヨカゼの蹴り足がめり込み、

  そのまま背中からずぅん…と倒れた。


  「なななな、ききき君はでで、テリカシーというももも、ものが…」


 顔を真っ赤にして、プンスカ怒っている。…糞したぐらいで隠す必要ねぇだろ。

  倒れながら、親指を立て、一言。


  「ギガ盛りん子と認識しますた」

  「認…識、するなぁぁぁああああっ!!!」

  「ふべらぁぁぁぁああっ!!」


 トドメとばかりに鳩尾に蹴りを入れられ、絶叫をあげて以来、

  ん子が口をきいてくれなくなった。何故だ、俺のギルドだと

  これぐらい普通なんだぞ!? 軽いジョークなんだぞ!!


 と、心の中でぶちぶち言いつつ、日が暮れて、野営。

  あと数時間で辿り着くが、クエスト対象の敵は夜だと手強い。

 だもんで朝まで待たなきゃならんわけで…。


  「もしもーし、ん子ちゃーん?」

  「…」


 返答は無いが、研ぎ澄まされた刃のような視線だけが向けられる。

  間が持たねぇ。なんとか話題を変えようと試みた。


  「そいや、なんでアサシン続けてんの? ナナオでアサシン不遇ってな、

    2年も前から知れらてる。wikiにだって載ってたろ?」

  「…」


 反応無し、夕飯のコーンスープをズズ…っと啜るだけだ。どうしよ。

  と、反応に困っていると、ん子は夜空を見上げた。


  「海竜王の門。さながら津波の如く押し寄せる魔物を電光石火の如く

    蹴散らし敵中突破、最速クリアした。アサシンのみで構成されたギルド」

  

お、俺んとこじゃね?


  「ほうほう」

  「その動画を見て、私はナナオに着た。私も、別のVRMMOで

    暗殺者をやっていて、それなりに強さに自信もある」

  

成程、腕に自信ありっつーか、あの慣れた手際はその為か。

 

  「で、続きは?」

  「うむ。刹那殿というギルドマスターがこのナナオ。いや、センティアで

    最強のアサシンと聞いた。私は刹那殿を、倒す為に、着た」


ぶっは! 異世界のアサシンのお眼鏡に叶ってしまっちゃいましたか。

 …そいつはいい。憧れるとかは言われるが、こうも正面きってブッ殺宣言された

 のは、初めてだな。いや、今はサブだが。 さて、どうしたもんかね。


俺もコーンスープをズズズ…と一度啜って、少し煽ってみた。


  「Lv41のアサシンが、Lv120のカンストプレイヤーを倒すのか?」

  「…いまは無理でも、いずれ、必ず」


その瞳は、夜空のどの星よりも強く煌き、名のある名刀でも見ているようだ。

 

  「…3.14超大型アプデは聞いてるか?」

  「アサシンの上位職…サーバーに一名のみの」

  「いくんだな?」

  「無論」


俺達もいくんだが…さて、どうしたもんか。いや、

 そもそも俺達はアサシンが好きであって忍者はなぁ…。

誰かに取られるのがいやだから、とりあえず確保!ぐらいのもんだし。

 なら、将来、俺をブッ殺予定の有望な成長株に譲るのも、いいな。


  「…どうした? 私みたいな新参者が出るのが可笑しいか?」

  「んー? いやいや、糞なんぞ誰でも出るもんだっ…ちょっ…まっ…」


ダメだ。野郎ばかりのギルドなんで女の子の扱いがイマイチ…判らん。

 またしても蹴りを喰らい倒れつつも、強い忍…いや、くノ一ちゃんに

 成長して、俺を手こずらせるその光景を思い浮かべた。


  「君という男は、本当にデリカシーの欠片も無いな」

  「いやだってよ? 

    ん子ちゃん、ぺたんこ中性的だから女の子に見えなぷげらっ!」

  「これでも女だ。そして、ん…ん子とか言うな!!」


この後、散々蹴り回され、夜明けの鶏の鳴き声の変わりに、

 俺の絶叫がクレセント森林に響き渡った。  続く。    


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