ひきこもりアイドル

マムルーク

元引きこもりのアイドルたち

「いよいよか......」

 俺は思わずそうつぶやいた。今日は彼女たちのライブで、新しい曲を披露する。

 俺の名前は圖鰡早戸(ずぼらはやと)。アイドルのプロデューサーをしている。


「みんなー! 今日は来てくれてありがとう!」

 リーダーの市野関楓(いちのせきかえで)が手を振った。ピンクの髪が特徴で、今年で19になる。リーダーだけあって歌もダンスもかなり上手い。

「私たち、元ひきこもりだけど、みんなを楽しませるように頑張るね!」

 大仙綺音(だいせんあやね)がそう言うと、観客の方から綺音チャーン! という声がちらほら聞こえてきた。彼女の年齢は17で、綺麗な紫の髪と大きい胸が特徴で多くのファンを夢中にしている。

 綺音の言う通り、このアイドルグループのメンバーは全員、元ひきこもりという特徴がある。

「それじゃ、新曲行くよー! 『私たちは引きこもる』」

 パチンと北上梓(きたかみあずさ)が指を鳴らした。彼女は今年で15である。小柄な体格で金髪、妹キャラっぽいとファンからは定評がある。

 早速、新曲の音楽が流れた。曲調は心が踊るようなポップな感じに作曲をした。


「私たちー今日もーひきこもるー♩」

「だってー♩」

「だってー♩」

 観客からDATTE! DATTE! という謎の叫び声をあげながらダンスをしているのが見えた。

「楽しーんだもーん♩」

 さぁ、いよいよ締めである。

「引きこもり最高!」

 楓がジャンプした。

「ニートは最高!」

 綺音もジャンプした。

「気分も上々!」

 梓は回転しながらジャンプした。

「ひきこもりー別に悪くーなーいー♩」

 三人が声を合わせて歌った。

「「「そうさ、私たちーひーきーこもりーガールズー♩」」」

 曲が終わった。

 次の瞬間、大歓声と拍手が巻き起こった。楓ちゃーん! というメンバーに対しての声が聞こえてきた。


「今日は私たち、ひきこもりガールズのライブに来てくれてありがとうございました! この後、握手会もあるから、みんな楽しんでいってね!」

 イェーイと言う声とともに会場が湧いた。今日のライブは結構いい感じだった。


 その一時間後、ライブの全日程が終了した。俺は楽屋に戻った。

「みんなお疲れ!」

 楽屋にいる、三人の元へ赴いた。三人はというと、全員床に倒れていた。

「ああー......圖鰡さん。お疲れ様です。フォーエバー」

 楓が床に寝そべりながら答えた。なんだフォーエバーって。

「お、お疲れ。お前ら大丈夫か?」

 すると、綺音が訝しんだ様子で俺のことを見てきた。

「大丈夫そうに見えますか? 元ひきこもりがあの大人数の前でライブをするなんて、疲れましたよ......」

 綺音が顔色が悪そうである。同意するように梓が、

「その通りだ。圖鰡。私も今日は疲れた。この後のラジオ収録休みたい」

 と言った。

「バカ言うな! せっかく人気出てきたのに! 絶対にラジオ収録に行け!」

 すると、楓がビシッと指を立てた。

「ニートに労働は難しい」

「どっかのアニメのタイトルみたいな事言ってるんじゃねぇ! 早く準備しろ!」

 なんとか三人をラジオ収録に連れて行った。


 彼女たちをプロデュースしてからもう三ヶ月になる。

 俺も彼女たちと同じく、高校時代は引きこもり生活をしていた。毎日、ゲームをしては深夜に寝るという生活を繰り返してきた。このままではやばいと、テレビ関係の仕事を始めたが、約半年で辞め、なんとなく引きこもり支援のボランティア活動を始めた。

 その時、気づいたのだが、引きこもりの女性には以外にも美人が多い。俺はひきこもりの女性をメンバーにしてアイドルグループを作れないかと考えた。普通の美人よりも元ひきこもりの方が、一般人に受けるのではないかと考えた。

 最初は元ひきこもりという事で偏見の目で見るものも多くはなかったが、最近は徐々に人気が出始めてきた。

「はぁ〜ラジオ収録行きたくないな」

「分かるーCMの間とか気まずいよね」

「うん、CM中どうやって乗り切ろう。楓、上手く司会者と会話してね」

「えー! 二人ともずるーい!」

 三人は車の中でのんきに会話している。MCとうまく打ち解けて欲しいのだが......まぁ、無理だろうな。俺がフォローしてやらねば。


 スタジオに到着し、早速ラジオ番組が始まった。MCの人は中堅のお笑い芸人で、俺が何度もカンペを三人に出す事でなんとか収録は順調に進んだ。

「それでは、続いて視聴者さんからの質問コーナーです! ここからはひきこもりガールズの皆さんに、視聴者さんからの質問に答えてもらいます!」

 このコーナーではカンペは使えない。大丈夫うだろうか。

「最初の質問は、ラジオネーム、おいひきこもり! さんから。ひきこもり始めたきっかけはなんですか? それじゃ、最初に梓さんからお聞きしたいと思います」

「私は特に理由はないんですけど、ある時、突然学校行くのがめんどくさくなって。家でゲームばかりするようになりました」

 ひきこもる理由は人それぞれだが、以外にもなんとなくという理由の人はわりと多い。

「そうなんですか。なんとなく......それで、どうやってひきこもりを克服したんですか?」

「ある時、プロデューサーが家にやってきてアイドルやりませんか? って勧誘されたんです。親もこのまま家にひきこもるよりやった方がいいというので監督のつられてみました」

「はーなるほどぉ。」

 綺音さんはどうしてひきこもりに?

「私はですねー中学時代、部活でレギュラーを後輩に取られてなんかやる気なくなって引きこもったんですよね。そんな時、プロデューサーから『君なら日本一のアイドル......いや、ひきこもりになれるよ!』っていう言葉を信じてアイドルになりました」

「なるほど、ネガティブなんだかポジティブなんだかよく分からないですね。それでは、リーダーの楓さんにはどうしてひきこもりになったんですか?」

 楓は真顔になり、ひきこもりになった経緯を話始めた。

「私は......いじめを受けてひきこもりになった」

「そうですか、それは辛かったでしょう」

「はい。無視や陰口はもちろん、上履きを隠されたり、トイレで水をかけられたりなんかもされました」

 いじめの具体的な理由を俺は楓から聞いた事があるが、いじめの主犯が好きだった人が楓の事を好きだったらしい。

 恋愛ごとのやっかみがいじめにつながったのである。

「しかし、よく立ち直れましたね。それもやはり、プロデューサーさんのおかげなんですか?」

「はい! プロデューサーさんに『日本一のアイドルにひきこもりアイドルになっていじめたやつを見返してやろう』と言われてアイドルを目指しました。まだまだ駆け足のアイドルですが、いつか日本武道館でライブできるように頑張りたいです!」

「おおー! 大きい目標ですね。ではここで一曲、ひきこもりガールズさんたちに歌ってもらいましょうか!」

「はい! それでは新曲、『私たちは引きこもる』」

 音楽が流れ、三人は歌い始めた。三人とも相変わらず、いい声してやがる。

 さてと、三人を日本一のアイドルにするために、俺も仕事すっかな。


 俺は明日の収録先に電話をかけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひきこもりアイドル マムルーク @tyandora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る