俺TUEEE!

ハムヤク クウ

第1話 光が差す

 青春真っただ中の高校二年生の春、吹井秀ふくいしゅうは昼間だというのにカーテンを閉め切って部屋の中にこもっている。周りに見えるものは全て薄暗い黒色と混じり、色づくものはほとんどない。秀はベッドとノートパソコンの置いてある机の間に体育座りをしている。かといって、彼はパソコンの電源を入れるでもなく、あるいは登校のための準備をするでもなく、ただじっと膝の間に顔をうずめ動かない。朝から何も食べていないため、そのほうがエネルギー効率としてはいいのだと秀は知っていた。もう何年、朝ご飯や昼ご飯を食べない生活を過ごすようになっただろうか。それもこれも原因は、いじめられて学校へ行かなくなったからだろうなと秀は思った。

 俺はこの世界にふさわしくない人間なんじゃあないだろうか。秀は異世界転移モノの小説を読むのが好きだ。元の世界では特に評価されない、何の能力も持たない冴えない人間が、突然異世界に転移しそこで覚醒した能力によって世界に適応するようになる。どこの誰がこんな話を考え始めたかは知らないが、きっと自分のような引きこもりだったに違いない。俺も異世界転移をして、俺TUEEE! とやってみたいものだ。誰か俺をここから連れ出してくれ……。頼むから、俺の秘められた能力が開花して俺TUEEE! と世界を圧倒してみたい……。

 ――パアーーーーー。

 目を閉じているはずの視界の中に、暖かな光と音が飛び込んでくる。

「なんだこれは!?」

 混乱する頭の中にかすかに声が聞こえてくる。

「吹井秀、あなたを異世界へ連れて行ってあげましょう。あなたの隠された能力を開放して差し上げます。これできっとあなたは、もう二度と他人に馬鹿にされることはなく、自分と他人とを比べて嫉妬することもなくなるでしょう。そんな力をあなたは欲しいと願いますか?」

 もう二度と他人に馬鹿にされることがない。もう二度と他人に嫉妬する必要がない。もう二度と自分を卑下する必要がない。そんな世界行きたいに決まっているじゃあないか。世界に自分より強い奴のいない、そんな能力を身につけたいに決まっているじゃあないか。

「お願いだ、俺に力をくれ! 力さえあれば、俺はどんな苦難にだって立ち向かえる! どんな逆境だって乗り越えられる! 俺に力をくれえ!!」

 その瞬間、秀はバチバチっと頭の中で電気が走ったような感覚に襲われた。

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