第3話 妹

食事が終わり、憂鬱な気持ちを与えられ、部屋に戻る。


手にはビリビリに破かれたテスト、そして、母親からの罵声とも思える記憶が残っていた。


僕は、ドアを閉め、跪き両手で顔を覆い、声を押し殺し泣いていた。


(どうして、僕だけこんな目に遭うんだ…どうしてだ!何か悪いことでもしたのか?苦しいよ…苦しいよ…)


一頻り泣いて、気持ちが落ち着くと、再びスマホを手にしてイヤホンを付ける。


そのまま、僕はベッドに横になり、この日は風呂にも入らず、眠ってしまった。






翌朝、スマホの充電は無くなっていた。


目を覚まし、置き時計を確認すると、朝の6時ちょうどを指していた。


それを見て再び憂鬱に襲われる…


(いっその事、朝なんて来なければいいのに…)


(でも、今日は終業式…明日から夏休み…少しは気持ちが楽だ…)


僕は風呂場に向かうと、シャワーを浴びた。洗面台で歯を磨き、メガネを掛けて鏡に映る自分を見る


(ひどい顔だ…それに、体系も…)


「おはよーキンドラ、あのさキンドラさ?」


莉乃が声を掛けてきた


「痩せれば、少しはかっこいいんだから、痩せればいいのに」


僕の体を見てクスリと笑う。


何気ない言葉で、悪意は感じられないが、その言葉が再び僕を傷つけた。


「うん、気をつけるよ」


僕は下を向き、洗面所を後にしようとする。


「お母さん…また、帰って来なかったみたいだよ。」


すれ違い様に莉乃が言う。


母親は、毎晩遅くに毎日と言うほど、どこかに出かけていた。


僕らは、その事に『嫌な予感』は感じていた。


「そっか…」


僕は言葉少なくそう言うと、キッチンに置いてある食器棚の上に置いてあった食パンを取り出し食べた。


消費期限が4日過ぎている食パン、我が家はそのくらい過ぎている食パンを食べる事など、当たり前のことだった…


『バターなんて、贅沢品。』


そのくらい、毎日、切羽詰まった暮らしをしていた。


部屋に戻り、憂鬱な気持ちになる。

何故なら、制服に着替えるからだ…制服に着替えると言うことは、つまり「学校に向かう」ことを指しているのだから…


嫌な気持ちを押し殺し、ハンガーに掛かった制服を手に取る


いつものように着替えて、7時15分に家を出た。


莉乃も同じ時間に家を出る。


鍵を閉め、用心深くドアノブをガチャガチャと戸締りを確認して振り返ると、雨が降っていた。


「終業式なのに、雨かぁ」


莉乃はそう言うと、僕に傘を渡してくれた。


「ありがとう」と返す。


莉乃は心配そうに眺めてくる。


「キンドラ、前から思っていたけどさ」


「うん?」


「学校行くとき、なぜ嫌な顔してるの?中学校ってそんなに嫌な所なの?」


僕は目線を逸らし、莉乃の為に笑顔を作った。


「そんなことないよ」


莉乃は勘が鋭く、そんな嘘など簡単にお見通しだった。


「どうせ、イジメにでもあっているんでしょ?」


「…」


僕は黙り込むしかなかった。


「昨日のテスト、ビリビリに破れたのを見てはっきりわかったよ」


「見てたのか…」


「中学校に行くようになってからさ、おかしいと思ってたよ。しゃべらなくなったし、毎日、目の下にクマ出来てるし」


僕は返す言葉がなかった…その中で、必死に言葉を探して、発する言葉が、これしかなかった。


「莉乃…学校に行こう…遅れるぞ」





すると、莉乃は大声で怒鳴りだす。


「おかしいよ!おかしいよ!おかしいよ!」


その声は、団地中に響き渡った。


「お兄ちゃん、変なふうに変わっちゃった。お母さん、いつもどっか行っちゃうし、お父さん帰って来ないし」


「…」


すると、莉乃は大声で泣きだした。


「うわぁぁぁぁぁあ!」


「莉乃…行こう…それしかないんだよ…」


僕は莉乃の手を引き、学校へと向かった。

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