第480話文化

その後もいくつかの国を回ったが、文明レベルが下の国から、何かしらの収穫が得られるわけもなく、それどころか、国の黒い部分だけが見えてしまった。


「はぁ、まぁ最初からこんなことになるんじゃないかとは思っていたけど…」


もともと、アインのこの視察に関しては、やることがなくなってしまったので、バカンスのようなつもり出来ていたのだ。


しかし、自国よりも文明が劣っているような国で、楽しめるわけもなく、娯楽が発展していない国々では、そこまでの長期滞在をする気にもなれなかったのだ。


「帰るか…」


久しぶりに、何も考えないまま、国外に出たというのに、いざ出てみれば、他国に対する失望感のみがアインの心の中に残った。


「やはり、他の国々の文化レベルも上げるしかないのか?

しかし、ほかの国に過度に介入するのも、それはそれで問題だしな。」


そもそも、バルバロット帝国の文化を他国に教えれば、すぐにでも広まるだろう。


人間、楽できるものに関しては、寛容になるのだ。


しかし、それで困ってしまうものもいる。


それは、もちろん国の上層部だ。


もしも、バルバロット帝国の文化をこの国に教えてしまっては、この国の住民たちは、バルバロット帝国の文化を優先するだろう。


しかし、そうなってしまえば、自国の文化を大切にしないことが進んでいくと、自身の国に対する愛国心もなくなってしまうのだ。


実際、日本は日本文化という風に、世界の中でも、独立した1つの文化を持っている。


だからこそ、愛国心がないといわれている人たちでも、日本の文化にのっとった生活を送っているだろう。


しかし、今までの歴史でほかの国に占領されてしまった国に関してはどうだろう。


占領されてしまった国に関しては、占領した国の文化の影響を大きく受けている。


もともとは、ヨーロッパだけの文化だったものが、南北アメリカ大陸や、オーストラリア、ニュージーランドなどにも深く残っているのは、イギリスやスペイン、ポルトガルが当時、自国の文化を原住民に教育し、そして植民化していったからだろう。


「だからこそ、過度な文化干渉は、それ自体で、国を変えてしまうようなことなのだ。」


それに、もしも上層部の意見で、文化の受容が認められなければ、市民層からの反感も買ってしまうだろう。


「ここは自国内の、発展を待つしかないのか?」


しかし、バルバロット帝国に関しては、これ以上、政府のほうからの政策はできない。


今はいい感じに、成長を続けている。


そんな中で変な政策を入れてその成長を政府が止めてしまうようなことがあってはならないのだ。


そして、この国以上の力を持っている国もない。


だからこそ、外交に関しても、自分たちのほうから積極的に交流を深めていく必要はないのだ。


「これは…帰ってから、相談かな。」


アインの周りには、多くの優秀な人材がいる。


その者たちと話し合いを重ねれば、きっといい案が出るだろうなと思って、アインは早い段階だが、もう自国に帰ることにしたのだった。

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