黒の鎧
邂逅 黒
――――あ?……誰だお前は?
……お前、いつからそこにいた?
何でそんな場所に座っている?
っつか何だその恰好は?顔真っ白じゃねえか気色わりぃな。
……チッ、あークソ。
そういうことか。また一人増えたのか。
ったくめんどくせえな。
しかしおかしいな。お前、どうやってこの場所に入ってきた?
まあ、お前が何者か知らないが、俺はこの席を譲る気はないぞ。
変わってもらうなら他の奴に頼むことだな。
悪いがこの時間は俺専用だ。覚えておけ。
なに?俺の名前だと?
人に名前を聞くときはまず自分から名乗るもんだろ?
……ふん、まあいい。俺は黒澤。無敵超人『黒澤恭也』だ。以上。はい終了。
んじゃ。
あん?なんだよ。まだなにかあんのかよ?
……ああ、そういうことか。
外のことについて知りたいんだな?
そうだな。お前も知っておいたほうがいい。
だが悪いな。俺は長々と人に説明することは得意じゃねえんだよ。
俺からお前にしてやれるのは、せいぜいいくつかの忠告だけだ。
それでもいいってんなら話してやる。
いいか。西区と特区には近づくな。
西区はカタギじゃねえ奴がうろついてるし、自称自警団の妙な連中に絡まれることがある。
奴らに絡まれたらかなり面倒なことになる。覚えておけ。
そんで、特区に関しては、ありゃもう無法地帯だ。
特区ってのは、所謂スラム街ってやつなんだが、あそこでは平気で人と人が殺し合い、金や食い物を奪い合って生活している。
どこから流れてるのかは知らねえが、薬や銃器の売買も日常茶飯事だ。
国の政府は見て見ぬフリをしているが、今この国はそれだけ大きな闇を抱えている。
富裕層のおっさんが女中を侍らせながら、高級ワインとステーキを食っている傍らでは、まともに衣服も着れないやせ細った子供たちが、カビたパン一つで命を奪い合っている。
日本の治安が良いなんて言われていた時代は数十年前に終わった。
お前に自分の身を守れるだけの力が無いなら、特区には絶対に近づくな。いいな、絶対だぞ?
……なに?ボディガードを連れて行く?
ハッ。冗談はやめろ。ボディガードなんてのはクソのやるもんだぜ?
奴らのことを信用するな。
お前に一つ教えておいてやる。
人間ってのは自分の命が何より重いんだよ。
ボディガードってのはな、脅威に遭遇した時、必ず自分の命とプリンシパルの命を秤にかけることになる。その時、金で雇われているボディガードが、迷わず自分の命を差し出せると思うか?
俺は思わない。
例え忠義心の強い人間であっても、いざそういう現場に遭遇すれば、必ずどこかに迷いが生じる。そしてその一瞬の迷いが現場では致命的になる。
――実際に、俺の親父はボディガードだったが、テメエの女一人守れず消えちまいやがった。
だからな、俺はボディガードなんてもんは信じちゃいない。
俺は他人を信じない。信じられるのは世界でただ一人、自分だけだ。
この世界は、言わば暗い深海の底だ。
無暗に手を伸ばしても捕まるものは何もない――真っ黒な海の中。頼れるのは自分の力だけだ。
俺には他人を守る力なんてもんは無い。
人が人を守るってのは難しいことだ。
護衛なんて言葉を使うには、人体ってのはあまりに脆すぎると思わないか?
例え武術を極めた達人であっても、ガトリングを持った子供を前にすれば、ただの肉の的に過ぎない。
だから自分の身は自分で守る。それが自然界のルールだろ?
だからな、ボディガードなんてのは、雇うだけ金の無駄だ。やめとけ。
あァ?「フリキュア」?
チッ。テメそんなことまで知ってやがったのか。
あのな、俺はあのクソ野郎に勝手に巻き込まれただけだ。俺はそんなことやりたかねえんだよ。
あいつは喧嘩が弱いから、いつも暴力沙汰は勝手に俺に押し付けやがる。
そもそも、そのだせえ名前が気に食わねえしな……。
まあもういいだろ。お前と雑談するつもりはねえよ。
忠告は以上だ。俺はもういく。
ああ、そうだ。最後に一つだけ聞いておきたい。
――もしかしてお前、俺を殺しにきたのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます