ふたりはフリキュア！

白の仮面

邂逅 白

　や、どーもどーも。

　初めまして、コンニチワ～。

　いやー、びっくりっすよ。ここで人と会うのは初めてっす！

　ところでお兄さん、なんか妙な恰好してますね

　え、それ、何の衣装ですか？

　アニメか何かのコスプレ？

　うーん、その黒い衣装はちょっと趣味悪くないすか？

　ま、いいや。

　で、どうよ最近？　元気？　健康？　幸せ？　青春？

　俺はもちろん元気ハツラツ、毎日青春をエンジョイしてますよ～。

　やーいいっすよねえ、青い春って。

　甘酸っぱい恋愛、熱き友情、全国制覇！

　手探りの季節、可能性の塊っすもんね～。

　人生の花盛りだワ～。

　奥さん知ってます？

　ここだけの話、青春って結構貴重な時間らしいっすよ？

　いや、ホントホント。

　人生を一日、２４時間として換算すると、青春はたぶん１時間程度の時間でしかないんですから。

　ね、少ないでしょ？

　花は短し恋せよ乙女、少年よ、大志を抱けってね。

　いやあ、良い言葉っすね～。

　え、『大志』って何って？　知らないっすけど。

　いや、たぶんあれですよ、ほら。

　きっと将来の俺はすげえビッグになってんだろーなあ。みたいな？

　そういうのをこう漠然と持ってればいいんじゃないすかね。ええ。

　そして漠然と生きて、なんとなく毎日を過ごして、青春を無駄に浪費するがいいさぐへへ。

　ってことですよ。

　まあ冗談ですけど。

　っていうか真逆なんですけどね。

　本当はウィリアムさんはこんな風に言ってたんです。

　少年よ、大きな志を持って世に出なさい。そして１日１日を大切に過ごしなさい。

　みたいな。

　ちょっと意訳入ってますけどね。

　でもさ、そんな１日を大切にったって、どうすりゃいいのよ？　って感じでしょ。

　俺らまだ若いんだから。

　人はいずれ死ぬから～とか。

　人生は有限だから～とか。

　ぶっちゃけ実感湧かないんですよ。

　そんな老人みたいな人生観持って生きてても、楽しくないでしょ。ねえ？

　俺はね、前者に述べたような、漠然とした希望を持って生きれば、それでいいと思ってるんです。

　だって、そうでしょ？

　青春の間くらい、何も考えずパァーッと楽しみたいじゃないですか。

　青春は来るべき結実の秋への準備の季節でもあるって、それは分かってるんですよ。

　社会に出て大人になっちゃうと、もうモラトリアムなんて言ってらんないすからね、ええ。

　でも、モラトリアムである前に、青春は人生の花盛りなんすよ。

　俺ら今、青春パラダイスなんです。

　要するにあれです。

　こう言いたいんです。

　――まだあわてるような時間じゃない。

　分かります？

　俺ら、大人になる準備なんてするより、今を楽しみたいんですよ！

　いいじゃないですか。

　社会から目を背けたって。

　俺の心はいつでもネバーランドなんすよ

　世界は、信念と信頼と妖精の粉でできているんすよ。

　もし私が神だったら、私は青春を人生の終わりにおいただろう。

　なあんて、偉い人も仰ってるんですよ。

　それぐらい大切な時間なんです。

　かけがえのない時間なんですよ？

　分かりましたか？

　そう考えると、ほら、楽しまなきゃ損って思いません？

　いいじゃないですか、それで失敗したって。

　若い時にたくさん苦い水飲んどきましょうよ

　ほら、笑って笑って。

　笑えるでしょ？　口角をつりあげて、自慢の白い歯見せてー

　ニカッ！

　わはははははは。

　ね、楽しいでしょ？

　――まあ、俺は全然楽しくないですけどね。

　ああ、すいません。いや実は俺、いつも笑っているのに、何故か俺のなかは真っ白なんです。

　真っ白。

　おかしいですよね。

　本当にこれが青春なんですかね。

　やっぱり、俺がおかしいんですかね？

　実は、よく言われるんですよ。

　人として深みが無い。とか中身が無い。とか薄っぺらい。とか

　でもこれ全部、自分でもそう思っているんで言い返せないんですよ。

　それが少しだけやるせないです。

　あ、もう一つよく言われる言葉があったの、忘れてました。

　――欠陥品。

　いや、まあなんでもいいんですけどね。

　あ、前置きが長くてスミマセン、スミマセン。

　いや～、俺ってば馬鹿だから結構話が脱線しちゃうんですよねー。

　てへ。

　ま、俺がどういった人間か、少しは分かっていただけたんじゃないですか？

　そうです。

　ちゃらんぽらんで適当なことばっかり言う、薄っぺらい人間なんです。

　――で、本日はどういったご用件でこちらへ？

　あー、そうっすか。なるほど、ふむふむ、へー。

　や～お兄さんかっこいいっすね～。モデルさんみたいっすわ。

　あのー、某イケメンアイドルに似てますよ、肘の当たりなんて特に！

　ところで、あなたのお名前とか伺っちゃってもよろしいですか？

　や、だって、ねえ？　これからしばらくそこにいてくれるんでしょ？

　え？　お前次第って？　いや～きついこと仰いますワー。

　流石、目を開けてシャンプーできるクールな男は違う！

　で、あなたのお名前は？

　え？名前は言えない？

　分からない？

　あらら。うんうん。あるある。

　分からないんなら仕方ありません。

　……ってそんなわけあるかーい！

　ってね。どうよ？このノリツッコミ。

　うん。ま、言えないってんなら仕方ありません。

　いやあ、にしてもその黒い衣装お似合いですねー。

　お兄さんモテるでしょ？

　あ、ヤバイヤバイ惚れる惚れる。

　ちょっと隠せ隠せ、女隠せ。やべー、マジ全員虜になっちゃうから。

　あ、俺の名前っすか？

　俺は白鳥、『白鳥一斗』。

　しがない底辺ボディガードっす。

　ま、ボディガードと言っても、まだ正式に資格を取ったわけじゃないんですけどね。

　あの～ほら、知ってます？

　虹ヶ丘南区（にじがおかみなみく）にある馬鹿でかい学園。

　え、知らない？

　あの有名な学園知らないんすか？

　え？　マジで？　ぷぷっ。

　おっと失礼。

　ようがす。それでは、何も知らないあなたに、この町のことから丁寧に教えて差し上げましょう。

　虹ヶ丘市。

　人口２００万を超える大都市。

　日々、若者が田舎から夢見て出稼ぎにやってきては、苦悩と挫折によって去っていく町。

　馬鹿高い土地の値段と家賃によって、貧乏人がふるい落とされる町。

　まあ、それでもなお人口は増え続けているんですけどね。

　何故かって、

　その理由は大きく分けて３つあります。

　ひとつは、先ほど述べたように、出稼ぎに来る若者が多くいること。

　この都市には、国が誇る大手会社の本社が複数建てられています。

　そのため常に多くの人材を求めているのです。

　この町ほど所得が高く、就労先も多い場所は他にありません。

　ふたつめは、娯楽、レジャー施設が非常に充実していること。

　テーマパーク、ゲームセンター、競馬場、カジノなど、様々な施設がこの町に集中しています。

　特に東区の方は、所謂歓楽街と呼ばれる場所で、いつも非常に多くの若者で賑わっています。

　休日や祭日ともなると、そりゃもう凄いですよ？

　人がゴミのように溢れかえっています。

　観光者も数多くいますので、見かけたら洗礼の目つぶし（バルス）をお見舞いしてやってください。

　冗談ですけど。

　いや、そんな恭也くんみたいな真似しちゃ駄目ですよ？

　あー、それから、西区の方もまあ娯楽施設がたくさんあるんですけど……。

　……あの辺に行く際はくれぐれも気を付けてくださいね。

　あっちは……何ていうか、違った意味での娯楽といいますか……俺たちのようなフレッシュな若者がふらっと行くような場所ではございません。

　おじさん達の間では、『楽園』なんて呼ばれてたりするんですけどね。

　あのー、疲れとかストレスとか、色々溜まったサラリーマンとかが、色々吐き出して、色々ハメを外すにはうってつけの場所なんですけど……。

　ええ、まあ、はい。

　俗に言う風俗街です。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　大人になったら行ってみるのも良いと思いますけど……一人で行くのはあまりおすすめしません。

　というのも、西区は治安が悪いことで有名なんです。

　えー、ちょっぴりアナーキーな連中が闊歩している場所なんですよね。

　それも、丈の長いズボンに、刺繍の入った学ランのリーゼント。なんてかわいいものじゃなく、

　背中にお絵かきしてたり、何故か小指が無かったりする特殊な人たちなんで、　下手なことするとカツアゲや半殺しでは済まない場合があります。

　てめえどこ中だ？　なんて聞いてみると「薬中だ」なんてユニークな返事が返ってくること間違いなし。HAHA!

　ええ、海の底で余生を過ごしたいって言うんなら、彼らの頭をかち割ってみるのもいいと思いますけど。

　なんにせよ、一人であの辺を歩くのは危ないんで、

　西区に行く際は、臨時でボディガードなんて雇ってみるのもオススメですよ？

　ええ、こう見えても実は俺、ボディガード見習いでして。

　え？　ボディガードなんてマイナーな職業だって？

　あら、あらら。そんなことも知らないんですか。

　時代に取り残されたガラケー男（アナログボーイ）ですかあなたは。

　今やボディガードと言えば職業の花形ですよ？

　男の子が憧れる人気職の一つとなっているんです。

　とめどなく大きくなり続ける格差によって、非行に走る若者の増加。

　右肩下がりで落ちていく景気のせいで社会不信に陥る大衆。

　そして、国内の暴力団組織『大滝組』の勢力の拡大により、警察の身動きが取りにくくなってきた現状。

　そんなわけで、治安の悪化が社会問題となってきた今日、ボディガードの需要は急激に高まってきています。

　警察が動けるのは飽くまで事件が起きてからですからね。

　最近では、一般の方でもプライベートボディガードを雇って、外出する人がたくさんいるんですよ。

　しかもなんと今なら、特に優秀なボディガードをすぐに手配できますよ！

　あなたの町の便利なボディガード屋さん！

　いつでもどこでもあなたの命を時給１５００円でお守りします。

　ちょっぴりワイルドでクールでハードボイルドなフリーター、黒澤（キュアブラック）！

　そして、ワタクシこと夢見るボディガード訓練生、白鳥（キュアホワイト）！

　以上、2名でエスコートしまっす！

　フリーボディガード「フリキュア」で検索、検索ゥ！

　どうすかこれ？　よくないすかこれ？

　……。

　そもそもボディガードの訓練生って何だよ。って顔してますね。

　ようがす。

　それは３つめの理由と並行して教えて差し上げましょう。

　３つめの理由、それはこの町に数多の大手訓練学校が存在していることにあります。

　近年、この国では職業能力開発促進法が大幅に修正され、大学、短期大学、専修学校の他に、

　特殊な技術、長期間の訓練が必要である職業において、一般的に「訓練学校」の名目で特殊訓練施設が多数設置されることになりました。

　さらに、ここ数年で訓練校卒業生による活躍が社会的に大きく認められ、「訓練校卒業」の肩書きの価値が急激に高まってきているのです。

　えー、その肩書きにどれくらいの価値があるかといいますと、他の学校に比べ就職内定率がなんと30％以上高く、国内業績トップクラスの企業でも、訓練校卒業生以外に対し、門戸を閉ざしているとかなんとか。

　さらに言えば、生涯賃金の平均も群を抜いて秀でていて、結婚率も高いときたもんです。

　今では普通の学校と特殊訓練学校では雑魚カード（ワイト）とレアカード（ブルーアイズホワイトドラゴン）ぐらい違うのです。

　そして、その中でもとりわけ実績が多く、全国の訓練学校Ａ～Ｆでランク付けした場合、ＡもしくはＡ＋に該当する訓練学校が多数この町に集結しているのです。

　どうです？　すごいでしょ、虹ヶ丘。

　そんなわけで、今の若者はみーんなこの町で大手訓練校卒業を狙っているのです。

　ま、俺もその中の一人なんですけどね。

　あ、俺が通ってるのは南区にある『明堂学園』ってとこなんすけど……。

　えーと、ああほら南区にブルーム街っていう住宅街があるじゃないですか。

　ほらあの、お金持ちばっかり住んでるとこ。

　あそこの住宅地を抜けたあたりに『リネアリス女子学院』って小綺麗な学校があるでしょ？

　そうそう。セレブなお嬢様方が通ってる。

　え、知らない？　ま、いいや。

　そこの隣に馬鹿高いビルみたいなのが建ってるんですよ。

　そう。それがなんと実は俺が通ってる『明堂学園』でしてね。

　そりゃもう、この学園が大変でしてね。２年に進級するときだって――

　……っと！

　ああいや、これは失礼いたしました。

　また話が脱線しちゃうとこでしたね。いやー危ない危ない。

　どうです？　この町のこと、少しは分かって頂けました？

　え、もっと知りたいっすか？

　まあ、続きは実際にそこで、自分の目で見ててくださいよ。

　どぞどぞ、これから長くなりますんで、ええ、楽にしください楽に。

　あー、調度何故か偶然『コックピット』の横の席が空いてますんで、そこに腰かけちゃってください。

　ええ、もうずかっとね。ずかっと。

　どうせ誰も使わないイスですから。

　あ、コーヒーか紅茶でもお出ししましょうか？

　はは！　無いっすけどね、ここにはそんな気の利いたもん。

　ま、ゆっくりしてってくださいよ。

　――ね、死神さん。