73. カシスオレンジのせい
「ねぇもし学生時代に出会ってなかったらどうだったと思う?」
千葉から戻った夫と滅多にしない晩酌を楽しんでいた夜、夫と話題はもしもの話になった。
「というと?」
「だから、あのとき出会ってなかったらよ。どんな人生だったかなーとか」
夫は缶ビールをくいっと傾けると生ハムユッケをつまみに考え始めた。
「たぶん、変わらない。家を出て、自衛官になって。今の生活にちいちゃんとキミがいないってだけ。そっちはどう?」
「わたしは…そうだね、たぶん別の人と付き合って、それなりの恋愛とそれなりの収入で、友達と遊んだり夜更かししたりしてたんじゃないかな?」
「普通だね」
夫はあっという間につまみを平らげ、物足りなげに缶ビールを飲んでいた。わたしはなんとなく原点回帰したカシオレがなかなか進まなくてもっと話したくて仕方なかった。
「じゃぁさ、自衛官になったあとにわたしに出会ってたらどう?そうだな、
「それは面白いね~。でもね、たぶんキミは自衛官なれないよ、目悪いし」
「雑だな~」
カシオレはようやく底が見え始めていた。つまみは半分、楽しく飲めそうだ。
「でも自信あるよ、それでも好きになるって」
「どうして?」
「ドストライクだから。オレはキミの目が好きなの。だから好きになってたと思う。むしろもっと好きになってたかも。男社会でタイプな人に出会うんだから」
夫は酔ってもあまり顔に出ない。だから今のこの表情がどんな意図があるのかもわたしにはわからない。
「顔赤いね」
「久しぶりだからカシオレでも酔えたのかも」
さっさとカシオレを
「…今までタイプの
「めっちゃあるよ!」
「いやあるんかい!」
ストライクゾーンの広い彼とこうして夫婦として晩酌できる幸せにとりあえず乾杯。
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