72. 可愛いは無敵の言葉



「ちいちゃんはなんでそんなに可愛いの~?」

「今日もきゃわいいね~」

「ちいちゃんかわいい大好きぎゅー!」


 …と、これでもかと可愛い可愛い言い続けた結果、娘はすっかり「かわいい」を覚えた。


「おかーしゃんかわいいー」

「ありがとうー」


 最近やたらとわたしにかわいいかわいい言ってくる娘。わたしは可愛くもなければ特別ブスってほどでもない、いわば世の中一般レベルなのだが、最早、聞き流してしまうほどに1日に何度も何度も言われる。悪いけどお父さんにもそんなに言われたことないよ?


「こらっ、ちいちゃん!ごはんのときテーブルに足あげない!」

「やぁだよー」


 イヤイヤ期のちいちゃんはすべてのことにイヤと返答するのだが、本当にだめなことにはさすがにきちんと注意しなくてはいけない。


「昨日もいったけどね、ここは足を乗せるところじゃないよ?」

「んー!いーや!」


 唇を尖らせてそっぽむく娘に疲労がたまる。すると娘はこちらを見つめ、両頬を小さな手で挟むと歯を見せて笑ながら「おかーしゃんかわいいー」というのだ。


「え?」

「おかーしゃんかわいいー、かわいいー」


 満面の笑みで突然のかわいいコールを繰り出す娘。怒ってる顔がかわいいだと?そんなわけあるまい。


「ごまかそうとしても無駄です!だめなものはだめ!」

「おかーしゃんかわいいのー!!」

「かわいいじゃなーい!」

「んー!かーいいのー!!」


 可愛いはけして無敵な言葉ではないと早く教えなければ。

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