60. 靴下はけるかな?




「ちいちゃんお出掛けしようか」

「うんっ」


 最近、ちいちゃんはしっかり「うん」と言えることが多くなった。頷く動作もしていてすこぶる可愛い。


「あ、待って靴下履かないと!」


 お出掛けだとわかるとちいちゃんは玄関までダッシュする。そのため、オムツ替えも靴下もアウターも玄関で。


「ほらほら~、これ着て、ちょっとおしり拭き置いてくるからね」


 小走りに片付け、靴下で少し滑りながら玄関に行くとちいちゃんは座っていた。


「おまたせ~、じゃぁはい…!!!」


【ちいちゃんは真剣に靴下を履こうとしている!】


 ピンクの柄編み靴下は、ちいちゃんの靴下の中でもゴムが柔らかく、最も履かせやすいと思っていたものだ。ひとり履きチャレンジに持ってこい!


「んーっ!んーっ!ん!」

「履けたー!」


 わたしは娘の前にまわると、掃除できていない玄関も厭わず靴下で乗り出した。普段あれほど「玄関ではしっかり靴を履く!」と注意している母親がにこやかに靴下で飛び出したことが、この娘にとって悪い意味で影響しないかと今になってちょっと反省する。


「よかったね!すごいね!頑張ったね!」

「うんっ」


 わたしの小学生並みの誉め言葉にとても嬉しそうに頷く娘。その視線はもう片方の靴下へと注がれていた。もちろん、しっかりとそれを掴み、反対の足先へと滑り出した。上手に入れられず少し苦戦している。


「きゃっきゃー」


 こちらに靴下を渡し、にょきっと脚を伸ばす。


「え?履かせてほしいの?」

「うんっ」

「自分でするのやめたの?」

「うんっ」

「…そうですか」



 まだまだ道のりは長そうだ。

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