32. キムチにはきれいになる力がある
「んー…眠い」
引っ越してきて驚いた。田舎と違い夜になってもなかなか気温が下がらない。冷房のタイマーが切れると目が覚めるし寝苦しい。
特にこの日は目が覚めたらなかなか寝付けず寝不足ぎみだ。それでも二度寝するわけにはいかないし主婦業も子育ても休めない。
寝ぼけ眼でなんとか朝食を用意する。ちいちゃんは朝からご機嫌斜めで、グズグズしながらテレビを叩いたり足元を歩き回ったりしていた。
「はーいちいちゃんこれどうぞ~」
ちいちゃんはごはんを見てテーブルにやって来た。じっと見つめ、何から食べるか考えているようだ。
わたしもごはんを盛り、消費期限の迫ったキムチをのせた。空を捨てるのを後回しにして、ちいちゃんといただきますをした。
…これがあとで惨事を引き起こした。
─…好きなものを食べあげたちいちゃんは、あおさのかかった部分だけ食べたごはんを残していた。最近お米を残しがちである。
「ごちそうさまでした~。ちいちゃんのも持っていくよ~」
お皿を水に晒し、ちいちゃんのお着替え。脱いだ服とあちこちのタオルを替え、洗濯機を回した。回っている間に洗い物をする。
ふと、ちいちゃんがぴとっと密着していることに気づいた。でもこちらを見ないし構って欲しそうな様子はない。むしろうつ向いていて…。わたしは家事の手を止めてちいちゃんの前にしゃがんだ。
「どうしたの?………ん?」
ちいちゃんのワンピースの裾に赤い斑点がついていた。びっくりして振り替えると、作業台からちいちゃんのあしもとまで赤い液体が広がっていた。
「キムチの空(液体入り)ーーーーー!!」
ちいちゃんを怒りそうになったが、元はと言えばわたしが捨てなかったせいだ。しかも忘れていた…。すぐにちいちゃんの服を脱がせ染み抜きをし、床を掃除した。ついでにキッチンの床を重曹で拭き上げた。
あれ、なんか普段なら絶対しないことしてる。普段よりずっとピカピカなんだけど。
キムチのおかげで我が家はきれいになった。
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