27. ひょっこり田舎に帰省した




 久しぶりに実家へ帰省した。というのも、この時期は田舎のお祭りがあるのだ。田舎のわりに人の集まるイベントなので、数日前から帰省することにした。


 高速に一時間、降りてたんぼ中をひた走ること40分、少しずつ民家が増えてくる。それらを隠すように繁った大木の群れの中を続く細い道沿いに、酒蔵や割烹がある。木漏れ日の中を抜け、住宅街へと出ると道路が開けて大きくなる。田舎の中でも広いこの道路沿いに『ようこそ』とある。帰って来たという安堵と高揚に包まれ、桜並木を走る。


 ちいちゃんもすこし前に目を覚ましたが、泣く様子はない。不思議そうに窓の外を眺めていた。


「ちいちゃん、見て、綺麗だね!葉っぱがいっぱい」


 下り坂を進み、老人ホームの前の信号を曲がると急に田舎っぽさが増す。閉めきった車内にまで響くほど蝉が鳴いていた。


「これがセミの声だよ!ジージージー」

「ちー!」


 わたしを真似て話す娘の可愛さを噛み締めているうちに、実家付近まで来た。玄関は施錠されており、休みをとったという実母の姿はない。


「待ってね、ちょっとばあばに連絡してみるから」



 すると近所のじじばばが車に向かって手を振る。こどもの少ない田舎にとって、ちいちゃんはまさにアイドルなのだ。


 10分ほどで戻るというので、ちいちゃんとすこしお散歩することにした。



「あらあ!久しぶりぃ、なにちゃんだったかねぇ」

「ちいちゃんです」

「ああ!そうそう、ちいちゃん!かわいいたんた履いてぇ!いいねぇ」


 懐かしい空気、人間の距離が近い。街より涼しくて空が高い。


 まだ話したりないようなもだもだとした気持ちが顔を緩ませたが、ちいちゃんがうつむきがちにバイバイをしているので、今は実家いえまで歩いて帰ろう。

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