26. ストレス蕁麻疹
「ほーらちいちゃんお手手洗うぞ~」
…それは真夏日となった7月某日の出来事だった。
「…て、え!?なにこれ!?」
夫が旅立って数日後、まだ置き手紙にも気づいていない昼下がり。自分の腕を見てぎょっとした。
「すごい蕁麻疹…!!!」
わたしは高校生のときにアレルギーで蕁麻疹を発症して以来、アレルギーのみならず、ストレスやそのときの精神状態でも蕁麻疹が出るようになってしまったのだ。実は引っ越したときも蕁麻疹が出ており、3週間ほどブツブツとしていた。集合体が苦手な人には辛い代物だ。
ところがわたしは蕁麻疹が全く痒くない。その上、頻繁に出るのは決まって太ももの内側。ふくらはぎの内側や二の腕に出るのはひどくなってからなので、肌を出さない季節は周囲は全く気づかない。
しかし今は夏、今日は真夏日、灼熱の昼下がりだ。当然半袖を着ていたし、カーディガンを羽織るという選択肢はあり得ない。
「困ったなぁ今日は特売日なのに…」
それはさておき、二の腕に出るのは相当ひどくなってからだ。それもこの大量さ……ふくはぎはもちろん、足首までブツブツ、太ももは悲惨なんじゃないか……?
そっとワイドパンツをめくりあげてみたが、思っていたほど酷くはない。拍子抜けするほどだ。
「いつもと違う精神負荷でもかかったの?それとも寝不足のせい?」
それから数日で蕁麻疹は少しずつ薄くなり、まだ出てはいるものの大分ましになった。
「─…ってことがあってさ~」
この日は家族が行きつけのイタリアンへ行くらしく、お誘いを受けた。田舎からは1時間以上かかるが、ここからは30分、ちいちゃんを連れていくのもなんとかなる。
わたしは一連の蕁麻疹事件を話した。ご飯のときにそういう話をしても平気な人たちなので遠慮はない。
「そりゃ大変だったね~痒くないのが救いだよ」
「ほんとほんと、痒いの辛いのよ~」
むしゃむしゃとサラダとパンを頬張るちいちゃんを見つつ話をする。美味しそうに食べるなぁ。あ~、ローストビーフたまらん~!
「あんたってほんとに旦那のこと好きなのね!寂しくて蕁麻疹出すなんて!」
「ぐっ!っ!」
危うくローストビーフをたいして噛まずに喉へやってしまうところだった。
「え!?好きすぎて蕁麻疹なのこれ!?」
「それ以外ないでしょ~、やぁねぇ、のろけちゃって~」
「いちゃいちゃしてんだろ。ねぇ、ちいちゃ~ん」
…………え、わたし寂しいの?いや寂しいけど。それをストレスに感じて蕁麻疹ほぼ全身に出しちゃうくらい好きなの?え??
「…やっぱりドルチェも頼もうかな」
「よっ!旦那の金!」
そんな横槍も気にならなかった。それくらい、なんだか気恥ずかしくてふわふわして、夫のことで頭がいっぱいだった。
「おまたせしました、本日のドルチェです」
でも、シェフが気ままに作る本日のドルチェが、すこし前に頼んだ妹のものとちょっと違うのは気になった。
嗚呼、さくらんぼ。
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