第77話 離乳食はいりません
「や!んーんっ、んー!」
唐突にやって来た「離乳食食べない期」。
「ちいちゃーん、まだ半分も食べてないよ?もう少し食べよ?」
この前まで普通に食べていた…と思う。残すこともあったけれど、完食する日だってもちろんあった。なにより、3分の1ほどで食べないことなんて早々なかった。
「もう4食目だよ?昨日もあんまり食べてないのに…」
「んっんー!」
「もう~じゃぁいいよ、ごちそうさましよ、ごちそうさまー!」
たまにある、いつもより少食だけど次の食事のときにたくさん食べる…という流れなら安心できるのに。
「んー、んー、んー」
でも元気がないわけじゃないし、機嫌が悪くなければ大丈夫って育児書にもネットにもあったし、イヤイヤ期のママさんはもっと食べてくれない場面に遭遇してるし…………。
今は自分に言い聞かせるしかない。
「…ちいちゃん、まだ2口だよ!」
もう3日目、9食目に入った離乳食は、2口で拒絶反応を示した。
「た、べ、て!!」
「う~、んや!や~、ンアーッ、あー、あーあ!」
無理矢理口にいれると泣いて暴れる。泣き止んでも離乳食をひっくり返したり遊んだり。わたしは普段感じることのない過大なストレスの渦に絡まれ始めていた。
「だからっておっぱいを欲しがるわけじゃない、飲み物をたくさん飲むわけでもない、おやつも別段あげてない…なんで…」
お昼寝をしている娘の横顔を見ながら、少しでも長く寝ていてくれと願った。隣に横になって休息をとらないと精神が蝕まれていく感覚に歯止めをかけられない。
「…今日は眠れないな」
何となく眠れない。お昼寝でも休みたいのに。そう思いながらまた指先は「離乳食 食べない」と検索している。
「…ん?」
“赤ちゃんは飽きっぽいです。食器に飽きたり、味に飽きたり、見た目に飽きたり、変化を求めるのです。”
味はまだしも、食器に飽きるなんてあるんだ?赤ちゃんて不思議。
半信半疑だったけれど、今のわたしには試す価値がある。
「ちいちゃん!一緒に食べよ!」
赤ちゃん用の薄い味付けの煮物。大人が使う大皿に盛り付け、わたしもおなじものを食べる。おかゆじゃなくごはんを小さなおにぎりにして並べる。
いつものように手掴み用の食器や食べ物は用意しない。フォークでもスプーンでも手でも、したいようにさせる。
「んっんっんっ」
テンション高めのちいちゃん。
でもやっぱりべーっと出してしまった。
だめなのかな、と見つめていると、それをもう一度つかみ、眺めて、口にいれた。もぐもぐごっくん、また手を伸ばし、食材を取った。
わたしはこの瞬間の嬉しさが今年で指折りのものだとすでに確信している。
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