少女を救いたいので、まずは世界を救おうと思います

菊川睡蓮

第1話 少し短いプロローグ

「キミの負けだ」


「てめえの負けだ」


 眼に映るのは鬱蒼と茂る樹海と、咲き乱れる様々な植物。だがその森のいたるところが極冷気の氷に覆われ、膨大な熱量の業火に包まれている。変わり果てた森人種の森ーアリエール大森林で、両の手に杖と銃を携える人類種の少年と豪奢な法衣に身を包む森人種の少年が同時に告げた。


「てめえ、かなりやるな。何モンだ」


「僕はエルガンド帝国議会議長、ユーカリア・エペ・キュースだ」


左手に携える白銀の杖を油断なく構えつつ、人類種の少年が答える。

目までかかる黒髪は軽く癖がつき、フレームレスのメガネの奥にある双眸は真っ直ぐで揺るがない。幼少の頃からの厳しい鍛錬をうかがわせる筋肉質の体躯を超合成繊維で編まれた戦闘衣で包み、半身を引きつつ眼前の敵と対峙するその様はまるで抜き身の刀を思わせる。


「僕は名乗ったが、キミは名乗らないのかい?」


「俺はエレオノール連邦王国第一皇子、エルライド・ファースだ。アレをやったのは、てめえで間違いないか?」


「ああ、相違ないよ」


そう問う森人種の少年の後ろには無力化された森人種、地人種ドワーフの戦闘員たちが転がっており、全員気絶している。昏倒している戦闘員たちには戦闘の痕跡が一切なく、傍目にはただ寝ているようにも見える。


「平然と言いやがるが、一応こいつらはうちの連邦の直轄部隊だったりするんだ。それを突破してくるとはな。本当にてめえら、人類種か?」


「……そうだよ。僕はまごうこと無き人類種だ」


 会話の間にも二人の間には相手の隙を探る視線が交錯し、一触即発の空気が流れる。


「その人類種サマが、どうやったら亜人種で構成された部隊を圧倒できるってんだ? まさか、帝国議会の全員がテメエみたいなデタラメ人間な訳ねえよな?」


「それはこっちのセリフだ。いかに森人種が強いと言っても、最新鋭の兵装で固めた僕たちを一人で抑え込むなんて常識はずれにもほどがある」


 圧倒的な冷気によってキラキラと空気中の水蒸気が凍りつき、幻想的とすら思わせる中で佇む、人類種の少年。


 膨大な熱量の青白い炎がゆらめき、近くの木々がパチパチと爆ぜる暴力的な美しさの中で仁王立ちする、森人種の少年。


 種族こそ違えど、二人に共通するのは単身で精鋭集団相手に完封して見せたという、隔絶された戦闘力。それこそ、その気になれば国を滅ぼせるほどの。






 科学で大陸半分を席巻し、その名を轟かせるエルガンド帝国の最高戦力――ユーカリア・エペ・キュース


 魔法で大陸半分を統一し、その名を輝かせるエレオノール連邦王国の切り札――エルライド・ファース




 世界を代表する二大国家の、史上最強の二人が出会った。




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