わたしの教祖さまっ!
一飛 由
第1話
「3日かぁ……思ったより長かったな」
そんなことをつぶやきながら、僕は校舎を見上げる。朝陽の下、青空に映える白い外壁は、見ているだけで気分が高揚する。
まさか、入学式から3日連続で休むことになるなんて夢にも思わなかった。
初登校がこんなに遅れるなんて、今後ないだろう。
これで学校まで間違ってたらシャレにならない……一応、学校名を確認しておこうか。いや、入試の時に来たし間違っているなんてありえないけど、念には念をってことで。
校門のすぐ横にある銘板には『
事前の連絡で自分の教室はわかっている。あとは直接向かえばいい。
詳しい場所まではわからないけど、この生徒の流れに乗れば、そのまま教室まで行けるだろう。
そんなことを思いながら、校舎へと視線を戻す。
目の前には、ごくごく平凡な朝の登校風景が広がっていた。爽やかな春の晴天の下、制服姿の生徒たちが、昇降口に続く舗道をのんびりと歩いている。
僕も休んだりしていなければ、この流れの中に乗れていたのだと思うと、少し寂しい。
はぁ、どうして僕はこうも間が悪いんだろうか。
休んでいた理由っていうのも、ただの風邪っていう笑い話のネタにもならないのだから、やりきれない。
いや、過ぎたことは仕方がない。今はこれからのことについて考えよう。
クラスの雰囲気はどんな感じなのだろうか。
あまり声を掛けるのは得意ではないのだけど、友達はできるかな。
できることなら美少女と同じクラスになれたらいいな。
あっ、同じクラスじゃなくても、同学年とか先輩とかでも嬉しいのだけど――。
「――君、新入生?」
「えっ?」
突然背後から声を掛けられて、僕は思わず振り返る。
そこにはロングヘアと凛々しい顔立ちが印象的な、長身の女性が立っていた。制服の具合とその雰囲気から見て、先輩なのは間違いないだろう。しかも、かなりの美形だ。
こんな美人な先輩に声を掛けられるなんて、僕の人生も捨てたものじゃない。
「アタシ、2年の
「お願い……ですか?」
「そう。私の所属してるクラブなんだけど、活動を続けるには人数が足りないの。だから君が入部してくれると助かるんだけど――」
それってつまり、僕がそのクラブに入れば、その間はずっと先輩と一緒にいられるってことだよね?
これは、僕の人生において千載一遇のチャンスなんじゃないだろうか。
しかも、幸い僕は小さい頃から続けているようなクラブ活動も習い事もない。
これは断る理由がない。
「あの、僕でいいなら構いませんけど……」
下心があるからだなんて言われたって構うもんか。
外野からどう言われようと、僕はこの先輩のいるクラブで幸せな学園生活を送るんだ。
――瞬間、両手に温かく柔らかな感触を覚える。
驚いて視線を落とすと、それは先輩の手だった。
「本当っ? ありがとう、入部届は部室にあるから、放課後になったら占い同好会まで来てちょうだい!」
僕の手を取って、無邪気に喜ぶ先輩。
登校時間ということもあって、周囲の目が恥ずかしい。けど、拒否するのももったいない。
結局僕は断ることもできず、先輩の方から手を放すまでずっと、その柔らかな感触を味わっていた。
「ありがとう。それじゃあ、部室は一階最奥の空き教室だから。よろしくねっ!」
手を振って軽やかに去っていく先輩。その後ろ姿を見送る。
あんな美人な先輩に声を掛けられて、しかも同じクラブに入ることになって、しかも手まで握ってしまうなんて、一生分の運を使い切ったんじゃないだろうか。
今日の放課後、占い同好会、忘れないようにしないと。
これからの学校生活。期待に胸を膨らませながら、僕は教室へと足を運ぶのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます