潜入学校の生徒たちの進学試験

ちびまるフォイ

進学に必要なのは教養などではない!!

潜入学校の朝は早い。


「おい、こっちの入り口はダメだ。動体感知器がある」

「昨日は通れたのに……ほかの道を探そう」


「こっちだ! 通気口なら教室に入れるぞ!!」


生徒たちはまず教室に入る方法を探すところから始まる。

それだけに時間に遅れて、ほかの生徒との協力ができないと絶望的。


ビービー!

シンニュウシャ、ハッケン、タイガクシマス!


うっかり正面入り口の赤外線に引っかかるなどして、追い出される。


「ふぅ、やっと教室にたどり着いた」


それぞれ着席すると、生徒はみんな一斉に机の中に手を突っ込む。

机の中には日替わりでコードネームと自分のキャラ設定が書かれている。


「これも常に自分本来の姿ではなく、

 相手に見せるべき自分の姿になるための練習ってわけか」


「おはよう、スネーク」

「こんにちは、イーサン」


生徒はお互いに自分のコードネームを呼び合い、

昨日まで親しくなかった人とさも旧来の友達のように接する。


潜入学校ではいかに本来の自分を偽れるかがポイント。



キーンコーンカーンコーーン。


チャイムが鳴ると、教壇にある隠し回転扉から担任がやってきた。


「みなさん、今日は大事なお知らせがあります。

 時期的にも察しがついていると思いますが、

 そろそろみなさんの進学試験を行います」


教室中がざわついた。


「試験といっても、潜入学校での生活を通してみなさんの実技は十分。

 ですから、筆記試験になります」


「先生、試験範囲はどこになるんですか?」

「私たち、今まで勉強らしいことしてなかったです」


「潜入学校で生活していて、質問をして教えてもらったことがありますか?

 ここでのモットーは『教えてもらうな、奪い取れ』ですよ」


担任はそれだけ言うと、今度は床にあった隠しダストシュートで消えていった。

テスト範囲も自分たちの力で調べるしかないことを全員が悟った。


「みんな、協力してテストの問題を盗み出そう!」

「「「 おぉーー!! 」」」


今までバカでかい看板を振り回す謎の授業とか、

ピッキングなどでドアを開ける授業だけしかしてない生徒だったが

こと潜入やスパイに関しては日常的に行っていて朝飯前だった。


そんな生徒への対策として、先生もテスト用紙を金庫に入れたり

偽物の金庫をいくつも用意して漏えいを防いだ。


が、生徒の狙いは用紙そのものではなかった。


「みんな! 先生のパソコンデータをコピーできたよ!!」


パソコンに残っているデータを生徒は回収した。

手書きで作った問題は、職員室のテーブルに刻まれた痕から問題を読み取る。


大人が考えている以上に、子供の頭の使い方は銃なんで末恐ろしい。


「それじゃ、明日みんなにデータを渡すね」


クラスで一番の成績を持つスネークの仕事は早かった。

誰もが安心した翌日、スネークが学校に来なくなったので全員が焦った。


「どういうこと!? どうして学校にいないのよ!」

「データくらいなら風邪でも渡せるだろうに」

「いったい何が……」


「ふふふ、みなさん。まだまだ潜入学校の生徒としては半人前ですね」


担任が空中のゴンドラから降りてきた。


「この学校の生徒として、二重スパイのことも計算して当然でしょう。

 どうして、生徒全員が仲間だと思ったんですか?

 私への内通者がいることくらい、簡単に想像できたでしょう」


「それじゃ、まさかスネークは……!」


「そう。みなさんの手口を把握するための、私の手先です。

 これくらい予想つけられないんじゃ、この先の進学も絶望的ですね」


「ぐっ……!」


大人は子供ほどの発想力はなくても、経験からくる狡猾さがあった。

ついに、スネークは作戦通りテスト当日までボイコットを決めるものだから

誰もがテストの事前入手を諦めて作戦を切り替えた。


「みんな、テストがある限りスネークはやってくる。

 だからスネークの答案をみんなでカンニングすればいいんだよ」


「「「 それだ!! 」」」


ギリギリの作戦ではあるが、テストの事前入手ができない以上これしか方法はなかった。

テスト当日、スネークは何食わぬ顔で登校してきた。


「みんな、席につけ。おや、不二子は欠席と聞いているが

 イーサンも今日は休みなのか。テストなのに、まったく……」


担任は空いたままの席を気にしたが、すぐにテストを配り始めた。


「まぁいい。今日受けなかった人は後日受けるだけだ」


テストを配る先生の頭上、教室の天井裏にはイーサンが隠れていた。

事前に警報を切って安全を確保した天井裏に潜み、スネークの答案を監視する作戦。


生徒には鼓膜を直接振動させる小型内臓イヤホンで答えを伝える。


「よし、あとは答案を見るだけだ……!」


イーサンはスネークの答案を天井裏からのぞいた。

問題はどれもカンニングありきで作られているのでとても難しい。

宇宙飛行士の筆記試験だってもっと簡単だ。


それでもスネークはスラスラと答えを知っているので答えを埋めていく。


その答えをほかの生徒に伝えようとしたとき。



――カタッ



うっかりイーサンは物音を立ててしまった。

テスト時間で静かな時の小さな音はどうしても聞こえてしまう。


「誰だ!!」


イーサンは慌てて逃げたが、天井裏を逃げる足音が逆に目立たせた。

抵抗のかいもなくあっという間にイーサンは担任に捕まった。


「天井裏に潜んでいたとはな。古典的で原始的すぎて、逆に盲点だったよ。

 だが、我々にとって物音を立てることはもっともあってはならない。

 このままテスト終わるまでおとなしくするがいい」


生徒はイーサンからのカンニングもできなくなり、

普通に試験を終えることになった。テストの間中、イーサンはずっとブツブツ言っていた。


「テスト終了だ。後ろの人から用紙を集めてこい」


用紙を集めて担任は採点へと向かった。

すべての問題を正しく回答できたスネークだけドヤ顔だった。


「ははは。お前ら、残念だったな。今年の進学者は俺だけのようだ。

 有象無象の生徒と仲良しこよしごっこするくらいだったら、

 さっさと担任を取り入るのが賢いやり方なんだよ」


「この野郎……!」


担任は採点を終えて戻ってきた。



「みなさん、試験の結果、進学できない人間が決まった。

 それは……スネーク、お前だけだ」



「なっ……! 先生、何言ってるんですか!!

 友達を騙したとかそういう精神論だけで評価しないでくださいよ!!」


「いいや、この潜入学校にそんな甘っちょろい精神論が入る余地はない。

 お前がこのクラスで一番テストの点数が悪かっただけだ」


「そんな馬鹿な! だって俺は事前に答えを――」


返却されたテストにはスネークだけ全問不正解で、

ほかの生徒は全問正解になっていた。


「こ、これはいったい……!」


スネークはやっと答えにたどり着いた。

思えば、欠席者はもうひとりいたことに。


「解答用紙をすり替えたのか!!

 テスト中、イーサンがブツブツ言っていたのも

 ほかの奴らの答えを全部、ニセ解答用紙の答えと一致させるために!!」


あまりに難しすぎる問題で、答えがあっているかどうか誰にも分らない。

解答用紙が別の偽解答になっていたってわかるわけがない。


試験の結果、スネークだけ脱落し全員が合格となった。



「みんな、試験通過おめでとう。これで、我々の仲間入りだ。

 勉強はできなくても、この潜入スキルはたくさんの人に笑顔を届けられるだろう」


「「 はい!! 」」



卒業式を終えた生徒は、全員が同じ進学先へと進んでいった。



そして、彼らは今。



「おはよ~~ございます。時刻は午前3時です……。

 あ~~っと、寝てますねぇ。ではいきましょう」



寝起きドッキリ専門家として、寝起き潜入学校の生徒たちは活躍している。

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