戦利品

 私たちが手に入れたのは、馬十五頭、大太刀が四十本で、あとは細々したものしかなかった。短刀の類が数本しかなかったのは、おそらく兵士がくすねてしまったのだろうが、今回は見て見ぬふりをすることにする。

 一本の大太刀を手に取って眺めると、片刃でかなり重量があり、馬上から斬りつけるために手元から大きく反っていた。そのやいばは鍛造のいかにも人を斬れそうな業物わざもので、刀鍛冶の腕前がかなり優れていることが見て取れた。

「ストルコム君。鬼角族は自分たちで刀を鍛えているのか。それともどこかから買っているのだろうか。そういうことは知らないかな」

「さあ、鬼角族はみなその大太刀を使っていますね。槍や弓を使うやつを見ることはほとんどありません。でも、そういうことは教官殿のほうがご存知じゃないですか」

 昨日の酒がまだ残っているようだったが、待望の初勝利にストルコムの顔は明るかった。

 調べた限りの記録では、特に鬼角族の文化や風習に関する記述はなかった。遊牧生活をおくり、技術水準は高くないはずなのに、人間の刀鍛冶でもなかなかつくれないような大太刀をどこから入手しているのだろうか。何本か大太刀を調べても、すべて質の高いものであることに違和感を感じたが、いまはこれ以上どうしようもない。

 大太刀は重すぎるのと、馬上で使うためのものなので私たちが利用することはできない。馬はなかなかの駿馬のようだが、鞍をのせるための訓練が必要であろうし、なにより鞍がない。

「教官殿、これだけの戦利品があれば一財産ですね」

 ストルコムがうらやましそうにつぶやいた。

 戦場での戦利品は、最高責任者が半分、残りの半分を国庫に納める決まりだから、私が最高責任者であったと認められれば、ざっと見積もっても正銀貨五十枚は懐に入る計算になる。もちろんワビ大隊長が認めてくれれば、だが。

「さっそくで悪いが、ストルコム君はターボルに報告にいってもらえないか。大太刀はだれも使えないだろうから、取りに来てもらうように伝えてくれ。裸馬に乗れるなら、馬にのっていってもいいぞ」

「貴族様じゃないんだから、馬なんてのれませんよ。じゃあ、ひとっ走りいってきます」

「ああ、それとまた頼み事だ。ワビ大隊長に、鬼角族の大規模攻撃が起こる可能性があるので、ぜひ兵士の増員をして欲しいと依頼してくれ。それが無理なら、柵をつくるための木材をもっと送るように頼んで欲しい。それと、またやじりがほしいから、鍛冶屋に寄り道してくれないか」

 そういって、懐から正銀貨五枚を取り出して握らせる。

「今度こそ余ったお金で、好きなものを買ってくればいい。あと、この手紙をもっていってくれるかな」

 昨晩用意した手紙を渡すと、ストルコムは自分の天幕に姿を消した。

 総員集合の鐘を鳴らすと、兵士たちが徐々に集まりはじめる。

 昨晩から見張りを続けていた兵士と、眠そうな目をこすりながら集まった兵士たちだ。

 全員が揃ったのを見はからい、隊列を整えさせた。

「おはよう、チュナム防衛隊の諸君。昨晩からの見張りのものは、この後すぐに解散して一杯ひっかけてから眠ってくれ。たっぷり酒を飲んだものは、さっそく今日から仕事だ」

 不満の声がおこるが、そんなことをいっている場合ではない。

「昨日は私たちの圧倒的な勝利だった。しかし、この勝利は鬼角族にとって許せないものだろうから、近いうちに必ず総力を挙げてこの村を襲いにくるだろう。今回のような不意打ちをくらってはくれないだろうし、本気になった鬼角族ともう一度戦わなければ、私たちは枕を高くして眠ることはできない」

 全員が理解するまで待ってから、話をつづける。

「これからは、一日中見張りを交代でしないといけないし、不意をつかれればこの守備隊は全滅することになる。私たちにできることは、とにかく壕を掘ることだ。騎兵は穴に弱いから、掘って掘って掘りまくることだけが私たちの命を守ってくれる。だから、辛いかもしれないが協力してほしい」

 静まり返っている兵士たちは、これからの殺し合いが恐ろしいのか、昨晩の酒で胸がむかむかしているだけなのかはわからないが、みな表情暗く黙り込んでいた。

「その代わりといってはなんだが、もし今回の戦利品に関する権利が私に認められるのなら、その戦利品から得られるお金を全員で均等に分けたいと思う。今回の勝利は、我々すべてのものなのだから」

 せいぜい一人当たり正銀貨一枚くらいだろうが、平等に分けるといったことには効果があったようだ。

「気前がいい隊長は大好きだ。俺たちはあんたについていくぜ!」

 誰かの叫び声とともに、みなが興奮した口調でことを誓った。

 そう、いまはこれでいい。

 鬼角族の襲撃に対し、どれくらいの準備ができるかが問題なのだ。

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