破綻した表裏

ヒヨリ

プロローグ 何処かの狭間の話

 ……。

 なんだ、また来たの?

 え? 初めて? ふぅん……まぁ、君がそう思うならそうなんじゃないの? これが“何度目か”だなんて、考えたって仕方の無いことだもの。


 じゃあ改めまして、ボクの名前はウィスパー。

 囁くだけの亡霊さぁ。


 さて、この前は何の話をしてたっけ。ああ、こっちの話だよ。気にすることないさ。意味無いしね。


 じゃあ今日は、神だとか世界だとかは無しにしよう。

 なに? 興味無い? 君なんかの意見は聞いてないよ。ボクが話したいから話すんだから。

 だから黙ってボクの話を聞けば良いさぁ。そしていつかこの話をしたボクに感謝するんだよ。きっとね。


 君は、“平凡”って何だと思う?


 普通であること。異常ではないこと──まぁ一般的にはそういう事を言うんだよね。

 だけどさ、これって結局は誰かが自分の物差しで決めただけの“普通”ってやつだろう?

 お前からすれば異常でも、そんな異常な奴からすればお前が異端だろうって、糾弾してやりたくなったことはない?

 ……へぇ、無いんだ。じゃあ君は凡庸なんだろうさ。少なくとも世間一般から見れば。


 まぁ何が言いたいかって、“平凡”ってやつは何を基準とするかで変わってくるんだってことだよ。

 それに気付かないまま“普通”であることを他者に求めるだなんて人間は本当に愚かだよねぇ。


 ……女神も、きっと“平凡”であろうとしたのさ。

 人間が愚かだと言うのなら、それを作った女はそれを遥かに凌ぐ愚か者でなくっちゃね。


“女神の話は無しにするって言ってた”? 固いこと言うなよ。

 ここのルールはボクだし、それにさっきも言っただろう?

 

 ボクが話したいから話すんだよ。


 ところで、君はさ。“平凡”って、なろうとしてなれるものだと思う?

 ボクは思わないね。誰の尺度で決められた凡庸かはさておき、そもそも本当の凡人って奴は初めから考えないもの。平凡になるとか、ならないとかをね。


 だからさ、君の周りにそういう奴がいたら教えてあげなよ。

 無駄な努力はやめろって。


 そういうのも優しさだよ? 叶わない夢を描くくらいなら、手が届く願いの方がずっと良い。

 身の程を知らずに破滅を呼ぶくらいなら、その場で腐った方がずっと良い。

 これはボクなりの親切心だよ。だって、そういう馬鹿で愚かな人間をずーっとここで見てきたからさぁ。


 人間って不思議だよね。

 どうせ決められた時間だけを生きて何の意味もなく死んでいくのに、どうしてくだらない事に拘るんだろうね?


 人の一生は線香花火のようだとか言う輩がたまにいるけど、それなら潔く散れば良いのにさぁ。


 話が脱線してる? そう?

 じゃあいつもみたいに締めに入ろうか?


 これは平凡であろうとした娘と、異端の者達の物語だ。

 女神が生み出したこの世界で、女神が生み出した人間が、憐れにも平穏を望む、ただそれだけの物語。


 果たして“彼女”がこの旅の果てに何を得るのか──何を、失うのか。


 それは、これからのお楽しみってやつさ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る