死に包まれた少女たち
まきりょうま
第1話 GIFT
始まりは、Mr,Childrenの『GIFT』だった。
「ねえ、今度ミスチルの『GIFT』を覚えてよ。なかなかちゃんと歌える人がいなくてさ。でも太田くんなら、きっと歌えると思うんだ。ねえ、覚えて!お願い!」
女友達の一人が、目を輝かせながら僕にそう言った。
僕はミスチルの曲を、ほとんど知らなかった。僕が好きな音楽は、ビートルズのような古い洋楽だった。同時代のJ-Popを、僕はほとんど聴いていなかった。しかし、頼まれたからしょうがない。僕は『GIFT』のシングルを購入し、練習を開始した。そして、その歌詞にハッとさせられた。
曲の中で、桜井さんは「本当の自分」や「生きている意味」を問題にしていた。そして「白と黒の間には、無限の色がある」とも歌っていた。
僕はその時28歳にだった。普通の会社員である僕は、毎日深夜まで残業し、土日はずっと寝るだけの生活をしていた。つまり僕には、「自分」がなくなっていた。僕は完全に空っぽな人間だった。
「こんなはずじゃなかった」
『GIFT』を歌いながら、僕はそう思った。だけど、19歳のときの僕は空っぽじゃなかった。あの頃の僕は、『本当のこと』を真剣に考え、悩み、答えをひねり出した。その答えを握りしめて、僕はガムシャラに行動した。今からは考えられないほど、僕はアグレッシブだった。僕は『GIFT』を聴いて、記憶からあの頃の自分を引っ張り出した。敢えて目を背けてきた、”あの頃の自分“を。
あの頃、僕は「良心」の声を聴いた。悩みに悩み抜いた後で、「良心」が僕に語りかけてきた。かすかな声だったが、「良心」は猛禽類のような鋭い爪を持っていた。鋭い爪は、僕の心臓を鷲掴みにした。そして爪の激しい痛みと引き換えに、僕は強固な信念と決心を受け取った。僕は、その決心に従って行動した。僕は、強い男だった。
僕は今、19歳の頃の出来事を記録しようと思う。僕の話なんて、つまらないかもしれない。誰も興味を持たない、大した話じゃないかもしれない。しかし僕は、頭が割れそうなくらい悩んだ。「自分に似合う色」を探し求め、それを見つけて他者にぶつけた。「自分に似合う色」を使って、人の心を揺さぶろうと試みた。
僕は、正しいことをしたのだろうか?19歳だった僕には、それはわからなかった。いくら考えてもわからなかった。僕は、あまりにも若過ぎた。なんの経験も知識もなかった。しかし今ならば、あの時の自分を冷静に評価できるのではないか。僕は、そんな気がしている。
これは、僕の物語だ。無視してくれて構わない。これは第一に、僕が自分を見つめ直すための物語だ。そして第二に、『彼女たちのために』あの出来事を見つめ直したい。僕は、それを実行する。
彼女たちのために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます