星降る空

私は星を眺めていた。

砂浜の真ん中に仰向けに寝転んで、背中が砂にまみれようが御構い無し。何せ立ったままだと首が上を向いた状態で固定されてしまう。肉眼で天体観測するには仰向けの方が好都合なのだ。あの弱々しい光たちは、じっと目を凝らさないと私の所まで届いてくれやしない。

水が波打つ音をどれくらい聴いただろうか。陸に這い上がってくる音も砂を攫っていく音も決して変わることがなく、はじめこそ穏やかな音色に聴き入ってはいたが、今は眺めている時間とともに味気なく感じていた。

どうしようもなく退屈だった。いっそのこと寝落ちしてしまえばいいのに、しかし体が眠る事は稀であった。そっちの方が遥かに有意義に思えるが、自分ではどうにもできない問題だった。

一応、この観察には意味がある。某所にて聞き及んだ話では、なんと近々星が流れるというのだ。

昔こそ満天であった星空も今は暗闇が勢力を広げて小さな光がまばらに散らばるだけ。流れる程の星々がなくなって久しい状態だ。

星が流れるときは一際眩く光って、砂浜の後ろにある街の一番高い建物に目掛けて落ちてくるらしい。その建物は「天文台」と呼ばれている。思うのだが、あんな高いところから勢い良く星が落ちてくればあの細い建物なんて中から折れて大変なことになるんじゃないか...。

なんとも不安ではあるが、それも杞憂かもしれないなと少し考えた。

そりゃあ天文台が倒れてきたら下の建物はぐちゃぐちゃになるけど、その建物で生活している人なんてほとんど居ない。昔はもっと住人が多かったらしいからその時分は大変だったろう。けれど今はもう私を含めて ...たぶん十数人くらいの集団だ。困ることなんてないと思う。むしろ、四角い建物しか並ばない無機質な街にちょっとした彩りが追加されて楽しくなるかもしれない。

「ちょっとした探検気分が味わえていいかもね」

そう考えを巡らせていると少しだけ笑いが漏れた。

しかし、そのプレゼントを届けてくれる張本人はいつまで経っても現れない。

ホント、いつからこうして寝そべっていたっけか。

再稼働して、近所のスワンと喋って、天文台の先生に会いに行く途中で流れ星の話をしていたのを聞いて砂浜に直行...着いたときの時計が14時だっけ。

「...あれ、今も14時だ」

既に1日経っていたんだ...いや、待て待て。残電力が52%だ。いったい何日仰向けになってたんだ。

「1日で消費してた電力が確か10%前後で満タンの状態だったから...4日程?」

退屈しない方が可笑しかった。

これだけ眺めていても星に何の予兆も変化も見られなかったということは、やっぱりただの噂だったのかな。

「それか私が性急すぎただけね」

思えば「近々」って言ってただけだし、もうちょっと先の出来事なのかもしれない。

期待して待つことにして、いい加減戻ることにしよう。

身を起こそうとすると、ギギギッと腰や腕の関節から金属が擦れ合う音がする。慣れてしまったがこの音はまったく好きになれないし苦手だ。

「あらよいしょっと」

二本の脚で立ち上がり砂を払う。たぶん継ぎ目の隙間にたくさん入っていそうだけど、あとで先生に掃除してもらおう。きっと小言をぶつぶつ喋り出すだろうけど、普段からこき使っている割にあまりメンテナンスしてくれないから丁度いいさ。

さて、街へ戻りましょうか。

歩を進めて、やっぱりまだ気になって上を見ながら足を動かす。

すると、星空がさっきより少しだけ明るいことに気づいた。もしやと思って辺りを見渡すと、海側の空に輝く一等星があった。

「なんてこと!」

思わず叫んで、迷わず天文台へと走り出す。

向かう途中、背後から白い輝きが私の頭上を通り過ぎていった。もちろん、天文台目掛けて。

本当のことだったんだ。

笑いながら一生懸命身体を動かして同じ場所を目指す。

星が天文台へと流れて行く意味。私が望んでいたことだ。

星は魂を運んで天文台へと辿り着き、新しい生命をこの地へともたらすのだ。

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