迷子の日々

@sdertt

1話目

「死にたい貴方へ」

やぁ、皆さん。ご機嫌麗しゅう。

私は迷子さんです。・・・そう、名前です。変な名前だと思った?大丈夫ですよ。私自身も、もっとマシに名付けてくれなかったかなーって、誰かさんに怒鳴りたいですもん。

あまりにそのまんまなネーミングなので、初対面の人には「ストレイ」と少し格好をつけて名乗っております。こう名乗ることでお洒落な間抜けとなるわけです。多分。

まぁ名は体を表すものと言います。実際のところ、私は自分の住処も分からない迷子ですし、路に迷うことも富士山のごとし…麓までは行ったことあるかな?思考も迷走を究めて放棄してから久しいものです。底無しな、迷子であります。

そんな有様ですから、私の日々は糧を得る為に、その辺をうろうろ歩きながら道行く人に声を掛けて回っています。まるで乞食か徘徊する奇人に見えてしまうでしょうね・・・あぁ、変な目で見ないで。

ですが、私の手にはその偏見を覆す意外なモノが収められているのです!円柱状の木の棒の先に四角い木の板があって字が書いてあります。そう!看板です。

あれ・・・余計に怪しいでしょうか???

いえいえ、大事なのは内容です。私は皆様のお役に立てればと、心の底から湧いてでた真心が、其処には詰まっているのですよ。善きかな、善きかな。

因みにこう書いてあります。


- あなたのお悩み解決します!

- ご相談は私まで!懇切丁寧に対応致します。

- お代 貴方の魂を一欠片


ここまで話を聞いた大多数の方々は、私を変人認定してその場を後にします。全く失礼な。一つだけ太字じゃない項があるのも、決して他意があるわけではありません。生きる知恵です。

...その、まぁ、やっぱり皆さん嫌がるみたいでして。恐ろしいみたいでして。

実際のところは料理から浮き出た灰汁を取り除いて、雑味のない心に〜っといった感じなのですよ。わかりにくい?ニュアンスだけ分かればいいんです。

ともかく、私は存在そのものを消すような悪魔ではありません。

私は糧が得られる。

相談者は暗い感情から抜け出せる。

生き抜くためのwin-winな関係を築いて、貴方も私も大満足!

という、不器用なりに必死に考えた利害関係なんです。ビジネスです。ビジネス。

さてさて、ご理解頂けましたでしょうか?

もし、相談して見たいというそこの貴方!ここにメールを一通いただければ、すぐにでも参上致します!ただ相談するだけでしたら無料です!依頼内容を精査した上でお代が発生しますのでご心配はありません。

「死にたい」と検索してしまったそこの貴方!

私に一つお任せして見ませんか?



「なんだこれ...」

この動画の主が言っているように「死にたい」と偉大な検索サイト様でサーチを掛けた。一番上に出てくるのは決まって「こころの電話サービス」という項目。こっちは早く消えてしまいたい身分だというのに、わざわざ止めてくる迷惑な団体さんだ。いつから表示されるようになったのやら...電話番号があるが、一度も掛けたことはない。

それを見るのが嫌だったので今度は動画検索で打ってみたところ、あのテレビショッピング風の素っ頓狂な動画が出てきた。

タイトルは「死にたい貴方へ」となっていた。

いよいよ俺に死に方をレクチャーしてくれるものに出会えたのかと思ったが、中身を開いてみればため息しか出なかった。

「ただの宗教勧誘かよ...」

悪態を突かずにはいられない。さっさとそのタブを消して...

...と思ったが、何故だろうか。妙に気になる。

ずいぶん必死な様子だったし、宗教勧誘にしては最後辺りで「ビジネス」と強調していたし、あと容姿も変だった。

印象は「青」。白いYシャツかブラウス以外は青い奴。長いスカートは良いが、青のような白いような髪に青い帽子。しかも帽子は...魔法帽?とでも呼べばいいのか...勿論、普段着ではないのだろう。あれはハロウィンの時の衣装か何かか。

何にしても...変だった。

「動画を投稿する行動力は認めるが、コスプレ好きの気の迷いにしか映らないな...」

これが今の総評だ。

「でも、必死だったな」

怪しさ抜群。その必死さも演技である可能性は捨て切れない。メールを送ったが最後、よく分からない架空請求とか来て、まぁ多分無視すればいいんだろうけど、面倒なことにはなるかもしれない。

「ま、別にいいか...」

空しさとか、無力感、脱力感、自殺願望、消失願望、等等。

ネガティブな感情に支配され切った俺は、悪い結果が予測されたところで一つも気になることはなかった。むしろ、悪い結果に行き着くことで「何か」から解放されたがっている。

いつも通りの、どうしようもない自分だった。

メールを送る。

少しだけ、ワクワクした。

「さてさて、どんな返事が返って...」

ピンポーン

「ほわぁ!?!?」

体が跳ねた。送信ボタンを押して数秒後のチャイム。勿論、俺の部屋のチャイム。

いやいや、ホラー映画じゃあるまいし、ただの宅配便か何かでしょ。

「ハイハイ、今出ますよっと...」

ドアのチェーンを外し、鍵を開けて、少しだけ扉を開くと隙間から青い衣装が見え、

「あ、ああああ、ありがとうござあああいいいいまあああああああああ!!!」

バンッ(扉を閉める音)

「へぶぅ」(扉の前の人物の鼻が挟まる音)

..........


ふぅ...


「寝直すか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る