第4話 曇る心


 それからの僕は、最低だった。


 誰かに話しかけられれば、ほっといてくれと冷たく追い返す。

「この頃ずっとここにいるよね? 様子も変だし。どうかしたの?」

 心配して、声をかけてくれた蝶もいたけれど、それに応えることすら面倒だったから、無視もした。


 挙げていくと、きりがない。


 そんな数々の行動が原因で、僕は独りぼっちになった。


 けれど、気にはしていなかった。


 僕はそれほど怒っていたんだ。彼女のことを。



 なのに、どうして一日中、君のことを考えてしまうんだろう。


 今どうしているか、気になるのだろう。


 また、一人で寂しい思いをしているのではと心配になるのだろう。


 僕は、怒っているはずなのに。


 会いに行かないようにすることが、どうしようもなく辛い。


 彼女に勝手にすればいいと言って飛び立ったのは、僕自身なのに。



 僕はとうとう気持ちを抑えきれなくなって、彼女の元へとむかった。

 嫌いなはずなのに、なぜ会いにいくのか理解できない心を抱えたまま。


 飛びながら、僕は無意識に想像する。

 この美しい景色を見てみたいのにそうできないもどかしさを。

 自由に空に飛び込む喜びを感じられない悲しみを。


 そして、僕は初めて気がついた。

「大したことじゃないんだから」

 と、その一言で、彼女の中に渦巻く苦しみを片付けてしまっていたことに。


 胸が詰まったように苦しかった。

 そしてきっと、彼女はもっと苦しかったはずなのだ。


 僕はなんてバカなんだろう。ちゃんと考えば、わかっただろうに。


 混乱する自分の腹立たしさを、傷ついた彼女にぶつける僕は、なんて愚かなのだろう。


 激しい怒りが消えるとともに、ネットリとした後悔が胸に広かった。


 僕は、傷つけてしまった彼女に会いに行って、何をするのだろう。今さら、何を……。



 やっぱり戻ろう。

 きっと僕みたいな奴の顔は、見たくないはずだから。


 僕はそう思い至って引き返した。


 飛んでいるはずなのに、体はズルズルと引きずっているかのように重たかった。



 そうするうちに、ふと、僕は通りかかった花畑を見下した。

 ただ、なんとなくだったんだ。だから始めは見間違いかと思った。

 けれど、そうではない。

 まぎれもない現実だった。



 枯れていた。あっちの花も、こっちの花も。

 みんな、みんな枯れていたんだ。


 枯れる。つまり、もう笑ったり、怒ったりできなくなるってことだ。


 あの子は?

 頭の中に、小さなピンク色の花が浮かび上がる。

 この花たちと同じように枯れたりしないよな……? まだ、生きているよな?!


 今まであったどんな事よりも、恐ろしかった。










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